所詮、「点」なんだから気にするなよ
僕が病気になる直前の話だ。
去年の12月中旬、高校時代の友人と飲む機会があった。彼とは高校1年の時に同じクラスになった。だが、ようやく仲良くなれたというくらいの時期に、彼は学校に来なくなった。そして、夏休み明けには退学してしまった。当時は携帯すら持っていない時代。連絡を取る手段もなく、それきりになっていた。
「久しぶりに飲まない?」
そこから20年以上が経ち、彼は思わぬ形で僕の前に現れた。なんと、とある会社の社長に抜擢されるという。その会社が今の僕の仕事に割と近い分野にあって、一度飲もうと誘われたのだった。
「学生時代、たった3ヶ月くらいしか一緒にいなかったのに、なんで今もこうしてつながってるだろうね?」
彼はそう言いながら笑っていた。
あの頃、20年後にホルモン屋で一緒にビールを飲む日が来るとは思いもしなかった。
当時の僕らには「退学」という事実は、それで人生が決まってしまうかのような重さがあった。
僕にとっては、一緒に歩いていた友人が人生という道から滑落していったような印象があったし、彼は彼で当時「俺の人生終わったわ」と思ったという。
でもそれは、長い人生における一つの「点」に過ぎなかったと今なら思える。
高校を退学したって、その後の人生が無茶苦茶になるわけではない。既定路線に乗ることしか頭になかった僕らにとって、人生を捉えるには若過ぎたのかもしれない。
人生が長い一本の線だとしたら、その線をつなぐために無数の点がある。点で見れば、その都度の優劣はあるかもしれない。でも、線で見たらその時の優劣は大したことないものが多い。
沈みっぱなしの人生もなければ、浮きっぱなしの人生もない。それぞれひと通りの浮き沈みを経験しながら、僕らは今日も生きている。
「そういえばさ、お前離婚してるだろ」
僕が言うと、彼は飲んでいたビールを口から離し、驚いたような表情を見せた。
たまたま前に一緒に仕事をしたお客さんの会社に彼の元奥さんがいた。もちろん、「元」と知ったのはその時だったのだが。
「そっか、知ってたか。それで、今は別の人と再婚したんだ」
サラッとまた重大なことを言う。
所詮、「点」なんだから気にするなよ。
そう言われた気がして、彼のタフさに驚きながら笑ってしまった。
そんなことを今日ふと思い出した。
僕のこの病気の4ヶ月も『所詮「点」だっただろ?』と笑える日が来るといいなと思った。