初笑い
2022年12月31日の夕方。
僕の父親と6歳の息子の3人で車に乗っていた時のこと。
「明日、初日の出見に行く?」
僕の言葉に父親が興味を示す。
「お、いいねぇ。明日晴れるらしいぞ」
「はつひのでって何?」
大人2人で進む話に、息子が割り込んできた。
「1月1日の朝に昇ってくる太陽を見ることだよ。行く?」
息子は興味しんしんといった顔で「うん」と頷く。
「明日、日の出は7時15分くらいだな」
僕が息子と話している間に、父親が初日の出の時間を調べてくれた。そんなに早朝という時間でもない。
「よし、決まり」
この日の夕飯はすき焼き。
夜は男3人で過ごす大晦日だ。西に沈んでいく太陽を尻目に、出先から父親の家へ帰った。
2023年1月1日朝6時。
「昨日の『逃走中』面白かったね」
布団の中から、目覚めた息子が声をかけてきた。
「あぁ、そうね。面白かった」
生まれて初めてだったかもしれない。紅白歌合戦を1秒も見ることなく年越しをしたのは。31日の夜は、夕方5時からテレビはずっと「逃走中」だった。「逃走中」とは、ハンターから逃げる鬼ごっこみたいな仕組みで行われているフジテレビ系の番組だ。
僕も父親も特にこだわりは無かったので「これが見たい!」という、息子の強い要望を突っぱねることはしなかった。なので、2022年の大晦日は「逃走中」を見て過ごすという形になったのだ。なんだか変な喪失感のようなものもあったが、息子が翌朝になっても覚えているくらい印象に残っているなら、それはそれでいいかなと思った。
…ここで、ふと気付いた。
スマホで時間を確認すると、朝8時半になっていた。
「…あ、、」
「ねぇ、なんか見に行くっていってたよねぇ?」
眠そうな目をこすりながら息子が聞いてくる。部屋の向こうでは父親が「寝過ごした!」と声をあげている。
「初日の出、もう終わったわ。寝てたら太陽上がってた」
その答えに息子はきょとんとしている。
「マジ?一回起きたよねぇ?」
「うん、でもまた寝たよね」
「…寝たわ」
2人でアホみたいに笑った2023年スタートの朝だった。
みなさま、今年もよろしくお願いします。
(note更新362日目)