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日本経済をどうみるか

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noteに書いた「日本経済を分析するためのノート」をまとめました。 日本経済の分析のための基本的なことを書いたものです。 いまの日本経済をみる際の基準になると思います。 どれも短…
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2024年1月の記事一覧

日本経済を分析するためのノート(1)

野口悠紀雄氏の『プア・ジャパン』という本を読みました。 野口氏は早くからアベノミクスについて、マネタリーベースを増やしてもマネーサプライが増えていないことを指摘して──つまり日銀券を大量に市場に出しても流通しなかったということ──アベノミクスが失敗であったことを明らかにしてきた方です。 しかしこの野口氏であっても、今後の日本経済の活性化のためには労働生産性の高いIT産業を興隆させればよいと、あの竹中平蔵氏と似たようなことしか言うことができていません。このことにはいささかがっか

日本経済を分析するためのノート(2)

「日本経済の活性化のためには労働生産性の高いIT産業を興隆させればよい」といったたぐいの議論を検討するために、まず経済学でいう労働生産性という概念についてみておくことにします。 この労働生産性とは付加価値の労働生産性ということです。言い換えれば1時間の労働でどれだけの物を作ったりサービスを提供できるかということ(これを以下、便宜的に「普通の意味での労働生産性」と言うことにします)ではない、ということです。 大雑把に言って、売上額から原材料費を引いた残りが付加価値です。これをそ

日本経済を分析するためのノート(3)

今回も抽象的・一般的なお話ですが、お付き合いください。 野口氏などが言っている、ITを活用することによって生産効率が上がり経済が活性化するということについてです。 IT技術が生産効率を上げるとよく言われていますし、それが実現されているのは確かだと思います。 しかしIT技術の活用による生産の効率化とはどういうことでしょうか、これを考えてみる必要があります。 それは大きく言えば、①IT技術を活用することによって、販売ルートや原材料の調達先の選定などを効率化できる、②IT技術の活用

日本経済を分析するためのノート(4)

野口氏は、2022年頃から巨大なIT企業群GAFAの業績が悪化しだしたことについて、それは行き過ぎの調整にすぎず、「これら企業の収益力はいまだに非常に高い」として、世界は「工場や店舗のような物的資本にたよらない」「データ資本主義」へと進んでいると主張しています。 ここではこの野口氏の主張について考えるために、GAFAの収益の構造について考察してみましょう。 グーグルとメタ(フェイスブック)の収益源は広告収入です。グーグルが収益の80%以上、メタがほぼ100%が広告収入といわれ

日本経済を分析するためのノート(5)

広告収入がグーグルやメタの収益の大部分でした。 これはSNSや検索エンジンで人を集めて、そこに企業広告を掲載させて収入を得るというものです。 広告表示の方法にはIT技術が多岐にわたって使用されています。しかし、IT技術は人が集まってくるサイトの形式をつくるために使われ、多くの人がサイトを見たり使っているということを活用して広告掲載費をとる、というのが基本的な構造と言えるでしょう。直接にIT技術が生み出すものを使って収益を上げているわけではありません。 一方、アマゾンなどのクラ