
なぜ、「一重の半身」が大切なのか?【前編】
(0)この記事の概要
この記事では、合気道の基本姿勢である「一重の半身」について、かたちの紹介から、その重要性、そしてこの基本姿勢を身に付けるための稽古法について書いています。
「一重の半身」や「送り足」などを実際に行ったことがない方にはちんぷんかんぷんの内容と思いますので、スキップしてくださって構いません。この人が、これだけ熱心に書くくらいだから、よほど「一重の半身」というものは重要なのだろう、と感じていただけるだけで嬉しいです。
「一重の半身」は、日常生活では決して取ることがない姿勢なので、意識して慣れる必要があります。しかし、初級者の多くは、中途半端な姿勢(後述する「二重の半身」)を取りがちです。そして、中途半端な姿勢は、そのまま「癖」として定着します(そして、初心のときについた癖は、直すのが本当に難しい)。
合気道の良い稽古には、「一重の半身」が欠かせません。
ですが、一重の半身でなくても、合気道の稽古はできます。しかし、その稽古は、「無理」や「違和感」を、そっと見ないふりをして行うものとなりかねません(後述)。
一重の半身でなくても稽古はできるという事実があるので、「一重の半身が大切です」と伝えるだけでは、ほとんどの人には、「はあ、そうですか」くらいで、聞き流されてしまいます。
そこで、一重の半身が「なぜ大切なのか」という点に重点を置いて書くことにしました。
(1)「一重の半身」とは?

一重の半身(左半身)
足捌きの稽古は「自然体平行立ち(図1)」からスタートします。自然体平行立ちとは、両足の内側の線(内足)が平行になる立ち方のことです。

自然体平行立ち
(『合気道に活きる』p240を参考に、筆者作成(図2・3も同様))
そして、「一重の半身」とは、「自然体平行立ち」から、両足の「拇指球(図中の○印)」を軸として、左右どちらかに回転した姿勢です(写真1/図2)。

一重の半身(左半身)
「一重の半身」では、大きく次の4点がポイントとなります。
「両足の拇指球を結んだ線」が、対象(稽古相手など)に対して、まっすぐであること
なるべく足幅を広く取り、腰を落とす
後ろ足が自然に内側を向く(足の角度は臍の向きに連動)
姿勢を正して、顎を引く(その状態で自然にまっすぐ目付を取るので、視線はわずかに下向きになる)
4点とも大切ですが、1点目が肝心です。
「両足の拇指球を結んだ線」がずれると、「二重の半身(図3)」となります。一見すると、「一重」も「二重」も、それほど違いがないように思えます。ですが、良い稽古のためには「一重の半身」が必要なのです。

二重の半身(一般的半身)
(2)「一重の半身」の大切さを、「入身」を例に考えてみる
① 基本動作である入身・転換・回転(転回)を正確に行う
一重の半身は、合気道の基本動作を正確に、そして自由自在に行うために欠かせません。特に、稽古相手(以下「受け」と表記)の前から消えるように捌く「転換」、そして、受けのもとへスッと入る「入身」には不可欠です。
まずは、「入身」を例に、一重の半身がなぜ重要なのか、を解説します。
なお、ここでの「入身」とは、「受けの裏(背中側)または表(腹側)に、足捌きを用いて入り込む動き全般」を指しています。
② (★入身の前提)足踏みの数を減らす。そのためには「送り足」が有効
武道では足数(足踏み)をできる限り減らす必要があります。
それはなぜか?
足踏みの数が多ければ、その数だけ一か所に留まる瞬間が生まれるます。さらに、足踏みのたびに、重心の移動などが発生します。つまり、足踏みの数だけ隙が生まれるのです。
足踏みを減らすためには、一足で直線的に移動する「送り足」(図4)が有効です。特に、受けのもとへ、1つの動作で入身するためには、「送り足」が最も早く、効率的と考えられます。
これを前提として、入身について考えていきます。

送り足(一重の半身)
③ 「半身」の違いから見た、「入身」の違い
● 「一重の半身」からの「入身」
逆半身の状況から、受けの裏へ入身します(図5)。
「一重の半身」の場合、「(一足の)送り足」で、つまり、最も隙のない動きによって、受けの裏(背中側)へ入身できます。

「一重の半身」からの「送り足」
● 「二重の半身」からの「入身」
次に、「二重の半身」から動き出すとします(図6)。
「二重の半身」から「(一足の)送り足」で入身をした場合、「一重の半身」の場合(図5)と比較すると、受けから離れた位置にしか移動できません。

「二重の半身」からの「送り足」
そして、受けと離れた位置から、入身投げや小手返しなどの技に移るためには、受けを「無理やり」引きつけなければなりません(または、受けのほうが取りに近づく)。
「無理やり」行う技では、良い稽古にはなりえません。なによりも、稽古のコツである、「同化的・瞑想的」な状態に入れなくなります。
「無理やり」行う技は、受け・取りの双方に違和感を生みます。そして、その違和感によって、身体の動きと心に、必ず留まりが生まれるからです。
ちなみに、「一足目」で受けから遠ざかったならば、「二足目」で受けに近づくように調整すればよいと思われるかもしれません。しかし、それでは、前提である「足踏みを減らす」ことから外れてしまいます。やはり、一足目で最適な位置に入る必要があるのです。
このように、「入身」だけを取っても、一重の半身の重要性が見えてきます。文字にすると、ほんの僅かな違いに感じられるかもしれません。しかし、実際に身体を使って稽古をすると、これがとても大きな違い(違和感)となって現れてくるのです。
(3)「一重の半身」の大切さを、「転換」を例に考えてみる
続いて、「転換」を例に、「一重の半身」について見ていきます。
転換には様々な動き方・応用がありますが、ここでは、その場で行う(前足の軸を動かさずに行う)転換を例として考えていきます。
● 「一重の半身」からの「転換」(図7)
「一重の半身」から、同じ線上で「転換」する場合、身体の回転は180度で済みます。

「一重の半身」からの「転換」
● 「二重の半身」からの「転換」(図8)
一方、「二重の半身」から、(図7)と同じ線上まで「転換」する場合には、線のズレの分だけ、余分に移動(回転)が必要です。つまり、180度以上の回転が必要となります。そして、余分な移動(回転)は、それだけ無駄な動き(隙)となります。
このように、無駄(隙)のない転換のためには、やはり「一重の半身」が必要なのです。

「二重の半身」からの「転換」
ここまで、「入身」と「転換」を例として、「一重の半身」について見てきました。入身・転換・回転(転回)などの、合気道ならではの足捌きを、無駄(隙)のない動きで行うためには、「一重の半身」が必要だということがおわかりいただけたでしょうか。
次の項からは、別の視点で「一重の半身」を捉えていきます。
【前編】はここで終わりです。
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