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嘘の武勇伝030

2020年7月1日(水曜日)

その日は寝不足で一日中ダルかった。

なんせ、月曜日に突如として僕の前に現れたタイムリーパーを名乗る少年が、僕に火曜日のロト(ミニロト)とナンバーズの当選番号の書かれたメモを渡して来て

なんとその数字が全部本当に当たりだったのだから···

マジもんのタイムリーパーかも!という興奮と、1枚くらい買っておけば良かった!という後悔で昨晩は一睡も出来なかったって訳なんです。

で、その日も仕事帰りにスーパーに寄ると、既に少年が待ち構えていた。

「信じて貰えましたよね?」と少年

とりあえず場所を変えて話を聞こうとスーパーでお茶を買って近くの公園のベンチへ

まともな大人なら喫茶店などを利用するのかも知れないけど、そこは自他共に認めるダメ中年の私、コスト的な事を考えて公園な訳です。

「信じて貰えましたよね?」と改めて訊く少年

「君が本当にタイムリーパーなのかどうか僕には確認のしようがない、事実確認の出来ない物事に対し根拠もなく否定したり肯定したりするのは愚か者のする事だ、

でも、信じるか信じないか?の段階で立ち止まっていても話が進まないから、信じる信じないの判断は一旦保留にしておいて、とりあえず君が僕に話し掛ける理由、なぜタイムリーパーの中学男子が中年おじさんと行動を共にするかの理由の説明をしてくれ」

と、冷静な大人の対応をする私。

それを聞いて少年はニヤニヤ笑いながら

「タカさんは毎回同じ事を言いますね」と

ブラック企業時代に、同じミスを何度も繰り返すので、怒らず丁寧に同じ説明を何度もしてあげてたら「仲村さん同じ事ばっかり言いますね?」とニヤニヤ笑ってたスーパー無能部下(高卒、犯罪歴あり)の事を思い出しイラッと来たので

少しキレ気味に

「そのタカさんって呼ぶの止めてくれないかな?僕はとんねるずでも、ガダルカナルでも、加藤でもないからさ、そもそも僕が自分から「タカさん」と呼んでくれなんて言う訳ないと思うんだけど」

と言うと

「やっぱりナカムラさんって「タカさん」って呼ばれるの嫌いなんですね」

と笑う少年

完全にからかわれてるな···(月曜日の段階から仕込んでいたのか)

どうやら過去5回の僕は、“威厳のある大人”としてではなく、いじっても大丈夫なダメおじさん的なポジションで彼と関わっていたのだろう

まぁ、その方がやり易いか···

で、少年が言うには、7月5日(日曜日)の正午、札幌駅にヒグマが出没し大勢の人を殺すんだと

少年はその日ヒグマに殺されたはずなのに、何故か6月29日に無傷で復活、それ以来6月29日~7月5日の間をタイムリープするようになったと

おそらく他にタイムリープしてる人はいないらしいと

最初のリープの時は、札駅駅に行かずやり過ごし、殺されずに済んだが、7月5日の翌日は6月29日だったのでリープから抜け出せていなかったと

リープとヒグマが何かしら関係してると思い、2回目のリープ時には事前に「札幌駅近くでヒグマを見た」と110番通報した上で、自分でもヒグマを退治しようと手作りの槍を持って札駅に行ったがヒグマを倒せず再び殺されかける、そこを中年(僕)に助けられるが、その中年(僕)はそこそこ善戦するも結局はヒグマに殺され、その中年(僕)の死体から財布を奪い、免許証から個人を特定したと

自宅に行っても僕が居留守を使うのでスーパーで待ち伏せしてると

で、3回目のリープ以降は毎回僕を誘っては二人でヒグマ退治に挑戦し(実際にヒグマと戦うのは僕だけ)、未だ勝てずに連敗中であると

とにかく“死にゲー”の要領でトライアルアンドエラーを繰り返すしか手立てはないのだと

つまりヒグマを倒せばタイムリープから抜け出せるという根拠はまったくない上に

対ヒグマ格闘72戦無敗のこのナカムラ・タカハシがヒグマに5回も負けてると

あとタイムリープしてるのは少年だけで僕は毎回死んでる(リセットされてる)ので、今回の僕(僕)もヒグマに殺されればそこでお仕舞いであると

僕がまともな判断力のある人なら、ヒグマと戦う理由もメリットもないので、少年に協力はしないでしょうけど···

そこは僕、違う世界線の僕が5人もヒグマに負けてるってんなら、この僕だけ引き下がる訳にはいかんのです!

なのでこの時点で既に少年に協力してヒグマ退治に加勢する事が心の中で確定です。

ただそのヒグマ、日曜日の真っ昼間に札幌のど真ん中の札駅に出没するのに、事前に目撃も通報もされていないのと、対ヒグマ無敗(中学生以来)の僕が倒せないって事、あと少年の謎のタイムリープとかから察するに、エイリアンか神様か、そういう人類よりも上位の存在が絡んでいると思われる。

なので形はヒグマでもおそらく本物のヒグマではなくヒグマ型のロボットで、札駅にはテレポートで出没するのではなかろうかと

で、映画なんかでは、地球侵略に来たエイリアンのマザーシップはバリアとか張ってて無敵なのに1ヶ所だけ“弱点”があってそこを叩けば人類の兵器でも簡単に倒せるとか、滅茶苦茶強い怪獣の群れが人類を襲うけどクイーンとかアルファとか呼ばれる親玉を一匹倒せば何故か群れが全滅するとか、そういう便利なシステムがあるので

このロボヒグマもどっかに“弱点”があると思う

だいたい“弱点”は“目”と相場が決まってる

との予測を少年に伝えると

ナカムラさんはずっとそう言って、今までも、目潰し、ダブル目潰し、眼球16連射、と試しては殺され続けている

だが前回の、“眼球長押し”に挑戦した時「残り10秒です」とアナウンス音が聞こえ、カウントダウンがはじまり、そのまま長押しするも残り2秒の所でロボヒグマに殺されてしまったと

そういう事らしい···

「いや、もうそこまで来てるなら、今回で僕が仕留めてフィニッシュでしょ!長押しで10秒耐えれば勝てるんだから!」と張り切る僕。

で、少年に

「金曜日のロト7の当選番号は暗記してる?ヒグマを倒して君がタイムリープから抜け出すのに協力するから、報酬としてそれを貰いたいんだけど」

と言うと

「もちろん既に購入済みですよ。僕も未成年で当選しても受け取れないので、ナカムラさんに受け取って貰って、僕とナカムラさんとで半分ずつ分けるって約束になってるんです。リープから抜け出せたら···」

という事らしい

そうと決まれば対ロボヒグマ用に準備をしなきゃ!とその夜はAmazonで装備を注文、今日は水曜日だから日曜日には間に合うはず!

続く。