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深い海の底に沈んでいくのは寂しい

暗闇にいるようだった。
誰にも私の声は届かないところに
どんなに声を張り上げても
伝わらない海の底に沈んでいるよう。
見上げると太陽の光が点になって見える
私は何度も手を伸ばしてみる
短いその腕を精一杯高く上げても
光の世界には辿りつけない
そんなところでもがいている数か月だった


「いつからきつくなりましたか?」

物腰が柔らかく、心地よい声で話すその人は話しやすかった。
ここは家から20分くらいかかる所にある小さな病院。中に入ると同時くらいに「おはようございます」と笑顔で迎えてくれる事務の人
予約なしで来院した順に診察してくれるこの病院を私はネットで検索し見つけた。

今までどんなに具合が悪くてもとりあえず職場には行っていた自分の身体が動かず仕事に行けなくなった時

「おかしい」と私なりに思った。

その2か月くらい前からひどく疲れやすく、よく眠るようになった。明らかに睡眠時間が多くなったのに翌日も疲れが残ったままで寝ても寝ても回復しない身体。
もう若くないからかなぁと思いつつも少し引っかかるものがあった。そのうち休日は1日を睡眠時間でつぶすことが多くなり、楽しかったものが楽しくなくなってしまった。
仕事中も集中できず効率の悪いパフォーマンス。

私はどうなってしまったんだろうと。


仕事を休んだ2日目、心の病院に罹っていた。


「少し心が疲れてしまっているようですね。落ち込んだ気持ちを助けるには薬を飲んだ方がいいでしょう」
1時間ほど私の話を聞いた後に先生が口を開いた。

今まで相談したどの人よりも先生は私の話に耳を傾けてくれた。私のおかしいは間違ってなかったんだと少し心がほっとした。


誰にも信じてもらえなかった、病院に行った後でも。

「そんな病院に行ったらどんな人にも病気だって言われるよ」とか
「心の病気って普通は自分で気づくものではないよ」とか。

助けてほしいってどんなに声を上げても思い過ごしとなる。
私の心と体はもっと深い海に沈んでいく
太陽の光さえも届かないところへ。


上手く息が出来なかった
吸っても吸っても酸素が私にだけ入ってこない。
まわりの人たちが日本語ではない言語で話しているようだった。
キラキラした表情で話している
そのキラキラが理解できなかった

このまま誰にも気づかれずに消えてなくなってしまいそう
それは寂しくてしょうがない


2回目の診察で

「先生、私は本当に心の病気なんでしょうか?」

信じてもらえない不安で確認をする

「そうですよ、少なくとも私が診た限りでは」
と、先生は即答した。


深い海に沈んでいる私を先生が見つけてくれた。
酸素ボンベのマスクを当ててくれて
私の身体が新鮮な空気で満たされる
そのおかげで前よりずいぶん楽に息ができるようになった


気が合う人を見つけるのって難しい。
病院の先生も相性がある。
中には気が合わなくて何度も病院を変える人もいるらしい。
いつでも柔らかい表情でわかりやすい言葉で話してくれる
その人を今では信頼している


今は先生にガイドしてもらい光に向かって地上に戻っている所

信じていればきっと光の場所に顔を出せる日が来るだろう。

暗い所よりも明るい所がいいんだ
多分。



最後まで記事を読んでくれてありがとうございました!