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好きなもの好きと言える自分に戻った日
若いころからわたしはよく話しかけられる人だった。
道を尋ねられることは数えきれないほどあったし、専門学生時代は60歳過ぎて大学に通っている方と最終電車でお会いし、お互いの将来の話をしたこともあった。話しかけやすい雰囲気があったのかもしれない。わたしは人が好きだったから。話を聞くのも、人間観察する事も。職場の飲み会では仕事のことや恋愛話に花を咲かせ、朝から仕事であっても2次会3次会は当たり前のように参加していた。友達と久々に会うとお互いの近況報告をして何時間も喋れた。人とかかわることで知識が増え、自分では思いつかないものに出会える。誰かと接することで刺激されて助けられたこともたくさんある。「人という字は人と人が支えあっている」という言葉は本当でみんな誰かを支えて、支えられて生きている。苦手な人でもゆっくり話していると違う一面を見つけたり、共感できることがあったりと気づけば引き付けられていたり。どんな人でもいろんな顔をもっていた。そうやって自分の周りに手をつないでくれる誰かが幾重にも幾重にも連なって絆になっていく。時には励まし、時には叱ってくれる存在はわたしの大事なものになった。
そんな自分がまるで別人のようになった。誰とも話したくないし、会いたくなくなってしまった。道ですれ違う見ず知らずの人さえも怖いと思うようになった。人としてあるべきものがなくなってしまったようで身体はあっても魂がなくなっていった感じ。目に映る景色の色がなくなってしまった。
今まで当たり前にできていたことがなくなってしまうと不安で怖くて縮こまってしまう。人って弱い生き物なんだなと知らされた。
みんなを嫌いになっていた昨日までの自分。
今日、人と触れ合う機会があった。つらい過去を乗り越えるためにあえて誰かがいる場所に飛び込んでみた。そこには温かい笑顔と色のある景色があって、その空間の中で自然とわたしも笑顔になっていた。
あぁ、やっぱり人が好きだな。笑いあえるこの雰囲気がいいなと。
好きで嫌いになって、やっぱり好きになった。
出来れば笑いに囲まれた毎日がいい。
そう思えたらぱっと道が開けたように温かいものが身体の中にかえってきた。
昨日までは自分以外の人がわたしを傷つける対象のように見えていた。今いるこの場所にはそんな人はだれもいない。わたしのことを受け入れて、一緒に笑ってくれる雰囲気に人を好きだった自分に少しだけ戻ることが出来た。
きっとわたしは自信がなかった、自分の好きなものも大事なものも。
これから先気分がはれない日もあるかもしれない、悲しくなる日もあるかもしれない。でも好きなものを好きといえる自分はなくしたくない。
今日のことをきっと一生忘れないと思う。
わたしがわたしを取り戻せた日―――
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