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届かない波紋(後半)
日にちが空きましたが今日は後半です。
前編はこちらから
愛理は自分に自信がなかった。今まで好きな人に思いを伝えるなんてした事はなかったし、それよりも好きな人と妄想の中で触れ合うことの方が楽しかったから。
1日の出来事を振り返りながら、かけてくれたあの言葉はどんな気持ちで言ってたのかなと考えたり、目が合う頻度で好き度を計っては1人で盛り上がるような陰キャの愛理。
妄想の中の先生は愛理の欲しい言葉をくれる。
勝手に意識して、勝手に落ち込んでそれだけで毎日は楽しかった。
恋に関してはまだまだ子供の愛理だった。
♢
愛理は高校3年生になった、先生とは相変わらずバカ騒ぎする仲のまま。
「山下 も今日から、最高学年やねぇ」
イントネーションも相変わらずで、ニヤニヤしながら愛理をからかってくる。
「やめてよね」と叩こうとすると交わされた!?
「いつも叩けると思うなよ(笑)」
悔しいけどこんなやり取りができるのは有野先生しか居ないな、先生とくだらない冗談を言い合えるのも後1年…。
なんか嫌だな。
また違う波紋が心の中をざわざわさせる。
しかし、愛理は気づかないように蓋をした。みんなから好かれるような性格でもなければ、羨まれるほどの外見でもないごくごく普通の高校生だ。先生にとっても多くの教え子の中の1人に過ぎない。ただ先生が落ち込んでいる時、辛い時に励ます存在でありたいなとは思う。きっと先生は愛理にすべてを話すことはないだろう、それでもいつも味方ではいたいな。
遠くから棒になった先生を見ながら自分の気持ちを確認する。
”好きでいる事”だけ許してね。
愛理は小さい時から好きになりやすい。小学校のころには同時に5人の男子のことが好きだった。男の子を意識しすぎる性分。
高校生になってからは異性よりの自分のしたい事に興味が湧いてしまった。要するに1つのことしかできない女の子だった。
有野先生を好きになって、楽しいよりも辛い事が多い。姿を見ると胸が痛くなるし、女の子と一緒にいるのを少しでも見ればやきもちでどうにかなりそうだった。誰かを好きになるって自分の嫌な所を気づかせてくれるものなんだなと知った。他人の気持ちなんてわかるわけもないのに先生の気持ちは何なのかを期待したり、失望したり。こんなにも心が騒がしいのは生まれて初めてだった。
高校3年生の1学期が終わるころ、衝撃的な話が舞い込んだ。有野先生が1学期いっぱいで転勤すると――。
嘘?
先生がいなくなる――。
もうちょっと先の事だと思っていたので心が追いついていかない。
今までは学校に行けば必ず会える距離だった。それが無くなるということだ。
いつもの元気が出ない。
様子が違う愛理に気づいた由香利が心配そうな顔で近づいてきた。
「愛理元気ないじゃん、何かあったの?」
愛理は由香利に先生の転勤の事、今までの思いを打ち明ける。
「愛理は、由香利みたいに告白なんてできないよ。毎日先生と会って話せるだけで充分だったんだ。でも愛理より先に居なくなるの考えてなかったから、この気持ちをどうしたらいいのか分からなくて・・・頭ん中がぐちゃぐちゃになってる」
静かに話を聞いてくれる由香利。全部話した後
「絶対に思いを伝えたほうがいい、自分のために」
と一言だけ言った。まっすぐな由香利の瞳での言葉に愛理は心を動かされた。
たくさん考えた。毎日考えた。
どうしたらいいのかを。
1学期の修了式の日、愛理は先生に思いを告げようと決めた。
体育職員室には有野先生と由香利と愛理だけになった瞬間。今しかないと由香利とアイコンタクトを交わし、声をかける。
「あの、先生?」
「なんだ、山下」(パソコン作業をしながら)
「えっと・・・あのね・・・」
たった一言なのに全然言葉が出ない、どうしよう。
「あのね、す・・・のもの好き?」
「は?酢の物・・・好きよ」
(なんで酢の物のことなんて聞いちゃうの!!もう一回。勇気を振り絞って!!)
「なんや、また先生の事からかっとるやろう」
「違うし、今日は真剣な話をしに来たんだもん」
もじもじと緊張している愛理を見て有野先生は気づきニヤニヤし始める。
「あのね・・・先生の事が好きです。」(やっと言えた。)
恥ずかしくて先生の方を見れずにいた。一方告白された先生の方は終始にやけていたそう。しばらくの沈黙の後先生が口を開く。
「山下、ありがとう嬉しいよ。だけど俺とお前は先生と生徒の関係だから付き合うのは出来ないって分かってるよな。気持ちは嬉しいけど、ごめんな」
先生はしっかりと私を振ってくれた、悲しいけど嬉しかった。
「愛理の方こそありがとうね。」
2年間の片思いは砕けて散った。後から聞いた話なんだけど、先生には当時付き合っている人がいたらしい・・・全然知らなかった。
♢
あれから10年、愛理は30手前になり社会人になり、それなりに恋もした。
でも・・・
高校の頃のような恋愛は出来ずにいた。快楽に溺れて熱い夜を過ごすことに夢中になっている日々。高校生の愛理に知られたらきっと怒られるだろうな。風の便りで有野先生はその後も体育教師の採用試験には受からず市役所の職員になったと聞いた。地元に戻り結婚したとも。
先生、幸せになったんだね。
先生への片思いは報われなかったけど、だからこそきれいなままの記憶になって残っている。後にも先にも1番の恋だった。大人になると純粋な気持ちで恋なんてできないな。これから先、先生よりも好きになれる人が出来るのだろうか?
ふと、空を見上げる。
今日も愛理の生活している上の空は青い。
心がザワザワする。今は恋とは違う波紋が広がった。
愛理は前を向きなおし歩き始める。
まだ見ぬ未来へ。
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