駆け引きのその先は
深夜、高速道路を走る。
「今からそっちに行ってもいい?」
「いいけど」
見慣れた景色もあなたに会いに行くと思うとすべてが優しい風景になっていく。数分でも近くにいないと離れていきそうでいつも息を切らして走っているようだった。自宅よりも多くの時間を過ごしている部屋に着いたのは4時頃、寝室で心地よい寝息を立てている隣へ並んで横になる。
「お風呂入ってきたの?髪濡れてる、乾かさないと風邪ひくよ。」
体制を変えて抱き寄せた後に寝起きの声であなたが囁いた。そうだよ、髪の毛を乾かす時間さえ今は惜しいの。少しでもあなたとの時間を共有したいから、1人の時間はもったいないと思ってしまう。二人が寝るには狭いシングルベッドで、冷たくなった髪を温めるかのようにゆっくり撫でてくれた。
本当は”わざと”なのかもしれない
あなたに触れてほしいから。
ふと寂しくなった時1人ではいられない。気まぐれな優しさだとしてもたれ掛かってしまいたい。そんな日は恋人ではないあなたに甘えたくなってしまう。拒むことが出来ない性格だから「いいよ」って言ってくれるって知ってるの。それほど私のことは好きじゃないかもしれない。特別な存在でもないかもしれない。でも今は無条件に差し出してくれる腕に包まれていたいんだ。
どんなに一緒に過ごしても私たちは不安定だった。言葉の端々に見える思いを読み取って「少しは好きになってくれたかな」と妄想にふける日々。時々苦しくなってしまう、ゴールのない関係に。幸せな気分になったり、涙が止まらないほど寂しくなったり慌しく駆け巡る感情に押しつぶされそうだ。
この気持ちがもし自分だけだったら・・・
求めているのは私だけだったら・・・
気を抜くと不安が溢れてきそうになる。
それでも前に進むしかない、続けていくためには。
今日も仕事を早めに終わらせる。
いつもの部屋にあなたが待っているから。
最後まで記事を読んでくれてありがとうございました!