必要な時にはいつでも『ねえねえママ』になるからね
仕事で遅くにしか帰らない両親のもとに生まれた私たち姉弟はいつも留守番をしていた。
気づけば9歳年下の弟の面倒は私の役目に。まだまだ母親のぬくもりを感じていたい小さな体、その手をいつも握りしめていた。声を上げる度になんで泣いているのか分からずおろおろする。お腹が空いているのか、おむつが汚れているのか、抱っこしてほしいのか毎回全部やってみる。困った時には抱っこして揺れてみる、そうすると大抵は泣き止んでいた。小学生だった私は試行錯誤の中子守りをしていた。
「ねえねえママ」
小さい弟は私をそう呼んでいた。ママと言われるたびに体の奥がじんわり熱くなっていく。
母が家を出ていって、父と私と弟の3人の生活。いなくなった母の代わりにいつも罵声を浴びていた。まだ6歳の弟は私よりもよっぽど寂しい思いをしていたに違いない。だけど、一言も寂しいとは言わないんだ。いつもおりこうさんにしていて、私は君を守っていかなくちゃと思ったんだよ。可愛い寝顔を見て泣きながら誓ったんだ。
父と言い合いになり
「弟は連れていくな、お前だけ出ていけ」
と言われた。
「私が出ていくなら弟も一緒に連れていくから」
劣悪な環境の中に弟を残すことなんてできない。私は君がいたからどんなひどい言葉にも立ち向かえたのかもしれない。母と再会するその日まで君を守らないと小さい手を離さないと強くなれた。
ランドセルを背負いながら母と再会した時、わんわん泣いていたね。弟が子供らしくなった瞬間、私の役目は終わった。
そんな弟も今年で27歳になった。人並みに結婚もし、離婚も経験して今は1人で暮らしている。離れて暮らしている子供と会っている時にはお父さんの顔だ。
弟にとって私はもう必要のない存在だけど、何かあったらいつでもねえねえママは君のために力になるからね。その時には頼ってほしい。
いつまでも君のことを見守っているからね。
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