#01 Lígia / Antonio Carlos Jobim (ver. Chico Buarque)
ボサノヴァは生まれ故郷を旅立ち、今では世界中で流れる音楽になりました。
その中でも日本は最もボサノヴァが流れる国のひとつと言われています。
日本のお洒落なカフェで聴くことが出来るその心地よい音楽は、残念ながら今日のブラジルでは聴くことができません。
ボサノヴァはブラジルのリオデジャネイロ、またその中でも小さな一角を中心に発生した一時的なムーヴメントでした。
その中心的な人物であったカルロス・リラは「自然発祥したものだからムーヴメントではない!」と言っていますが。。
その辺りはまた後日詳しくお話しましょう!
|ジョビンの歌詞と禁断の恋
ボサノヴァの歌詞は、リオの太陽やビーチ、女性の美しさ、甘酸っぱい恋などがキーワードになっています。
アントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ジ・モライスの有名な曲「Garota de Ipanema」(イパネマの娘)は、実在する女性を物語っているという話は有名ですが、今回はジョビンが作詞作曲を手がけた「Lígia」(リジア)に関するエピソードを紹介ます。
ボサノヴァなのにイパネマに行かない?
更にはボサノヴァの象徴である太陽が好きじゃない??
なんだか意味深な歌詞ではじまるこの曲。
気になって調べてみたところ、興味深い記事をみつけました。
“Lígia”(リジア)とは、ジョビンが想いを寄せていた実在の女性だったのです。
1968年、リオデジャネイロ。
二人が出会ったのは冬の雨が降る肌寒い午後、イパネマにあるBar Velosoでした。
ジョビンはカメラマンのパウロ・ゴエスと共にやってきて、リジアとセシーリアが座るテーブルに相席することに。
当時、既に有名だったジョビンとの相席をリジアとセシーリアは快く受け入れます。
リジア・マリーナ・ジ・モラエスは、ジョビンの娘が通った小学校の先生でした。
すっかり意気投合したリジアとジョビンでしたが、リジアには恋人がいて、ジョビンは既婚者。
そのため、2人きりで会うことはありませんでしたが、複数人のグループで一緒にすごす時間が増えていきます。
ある日、ジョビンは有名な小説家クラリッセ・リスペクトルとの対談の際にリジアとセシーリアを同行させました。
その際、なりゆきでジョビンはリジアにポエムをプレゼント。
リジアはメモ帳に書かれたそのプレゼントを今も大切にしまってあるとインタビューで答えています。
リジアとジョビンはお互いを気に入っていましたが、結局、タイミングがあわず2人が一緒になることはありませんでした。
月日がたって、リジアはラジオから流れたシコ・ブアルキが歌ったジョビンの新作「Lígia」を聴きます。
それを聴いたリジアはすぐに自分のことだと気づき、慌ててレコードを買いに走ったそうです。
歌詞の
“Quando eu lhe telefonei, desliguei foi engano (君に電話したとき、間違い電話で電話を切った)”
というのは実話に基づいています。
ジョビンが彼女がのちに結婚した夫と離婚したと聞いて、友人のフェルナンド・サビーノに彼女の電話番号を尋ねますが、実はフェルナンドはリジアと交際中。
結局、フェルナンドは別の女友達の電話番号をジョビンに渡したため、この間違い電話事件が起こったようです。
ドラマのような話ですね。
ジョビンがこの曲を書いた際、友人の恋人に想い寄せた曲というのを隠すために、リジアのスペルをLygiaからLígiaにし、彼女の緑色の目を茶色の目と称してカムフラージュしましたが、バレバレでした。のちに白状したそうです。
このように、冒頭の歌詞は全て逆であり、ジョビンはリジアの夢をみたことがあれば、2人は一緒に映画にもイパネマにもいったことがあるわけです。
|せっかちなジョアン・ジルベルト
余談ですがこんな話も。
シコ・ブアルキが録音した歌詞とジョアン・ジルベルトが録音した「Lígia」の歌詞は一部が異なります。
ジョビンがこの曲を書いている時、自宅にやってきたジョアンに曲を披露したところ、ジョアンは大変気に入って、ジョビンは急いで曲を書き終わらせました。
そのバージョンでは歌詞の主人公はリジアとは関係があったように書かれています。
のちに、この曲を改めて完成させたマエストロ・ジョビンはシコに曲を提供。
その際に少々変更があったようで、こちらのバージョンではリジアとは関係がなく、一方的な想いで、更には想いすら不確かのように綴られています。
最初に書き終えた方が真実なのかもしれませんが、万が一を考えて変更したのかもしれませんね。
今回は実在するリジアがラジオで聴いたシコ・ブアルキの「Lídia」をご紹介します。
ブラジル人は年齢に関係なく、常に恋をしたいという気持ちをもっている人が多いなぁと感じます。
もちろんそれは良いことなのですが、問題なのは年齢ではなく、彼らが既婚者(もしくは恋人がいる)というところです。
実は、私自身もブラジルで既婚者に口説かれたことが何度もあります(びっくりしますよ、本当に)。
ジョビンのようにそんな気持ちをうちに秘められない人も多かったり。
やっかいごとはごめんですが、自分の気持ちに常に素直に行動しちゃうところは、少しだけ羨ましいような気もします。
アルバム: Sinal Fechado (1974)
作詞作曲: Tom Jobim
編曲: Perinho Albuquerque
録音メンバーは軍事政権時代の影響により不明
【参考】https://musicaemprosa.wordpress.com/2017/03/16/as-mulheres-e-suas-cancoes-ligia/
※ この記事はサイト『南米音楽365日』の2020年6月1日投稿分を一部修正して掲載しました
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