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サンパウロで学んだミュージシャンとして生きる心得6つ

ブラジルで最も歴史があり、南米最大規模の音楽院があるが故に「音楽の街」と呼ばれるタトゥイ市。
その音楽院に合格した私はタトゥイで下宿を始めましたが、演奏のために頻繁にサンパウロ市に通っていました。
タトゥイからサンパウロまでは高速バスで約2時間。音楽を聴いたり、考え事をしてればあっという間に到着します(実際は寝ることが多かったけど)。

なぜ「音楽の街」に住んでいるのに、わざわざサンパウロまで演奏しにいっていたかというと…
タトゥイは私たちが勉強している音楽、つまりブラジル音楽やジャズを演奏できる場所がないのです。

タトゥイは人口12万人程度(日本なら栃木県佐野市ぐらい)の市で、典型的なサンパウロ州の田舎町。
街で流れる音楽は、セルタネージョ・ウニヴェルシターリオという現代版ブラジルカントリーと欧米ロック。
ジャズやサンバ、ショーロはあまり需要がありません。

5年間住んで、音楽院のイベント以外でタトゥイで演奏したことは3回しかありませんでした(しかも2回は結婚式)。残念ながらこれが現状です。

そのため、私たちは演奏の機会を求めてサンパウロ市に通います。
私たちだけでなく、ブラジル全土からミュージシャンが集まるのが南米最大の都市サンパウロです。

サンパウロは毎日、至る所で、いろんな種類の音楽イベントが行われています。土日に限らず、平日でも深夜から始まる音楽イベントにびっくりするぐらい人が集まります。

仕事も沢山ありますが、ミュージシャンの数も多いサンパウロ。
ちなみに「ブラジル人は時間にルーズ」なんて言われますが、サンパウロのミュージシャンは絶対に遅刻しません。遅刻したら次の機会は別の人が呼ばれます。

非常にシビアな世界ですが、ブラジル人の気質なのか、明るく前向きで面白い人が多い気がします(そういう人がよく現場に呼ばれるというのもありますが)。
私は東京でも演奏活動をしていましたが、今回はサンパウロでの経験を元に、活躍するミュージシャンから学んだことや、気づかされたことを書きたいと思います。

ジャンルにこだわらず演奏する

これはブラジルに来て強く実感していることの一つです。拘っていたら生きていけないというのもあるかもしれませんが。
例えば、私がサンパウロで最初に習ったショーロの先生はサンパウロのとある市立オーケストラのクラリネット奏者です。

「なんだ。クラシック系の人じゃん!」なんていう人はいません。
ショーロはブラジル音楽の心。大衆的な音楽であり、「普段クラシックを吹いている人が吹くのは邪道だ!」なんて、誰も思いません。

私が通う音楽学校もクラシック科とポピュラー科が分かれていますが、比較的交流は多く、1年間なら掛け持ちができます。両科で教鞭をとる先生もいます。

ポピュラー科のトランペット講師でFunk como le gustaのメンバーであるカンベは学校のオーケストラの1stトランペット奏者でもありました(金曜はホールでマーラーの交響曲吹いて次の日はクラブでサルサ吹く!みたいな)。

その後、カンベは私が所属していたジャズコンボのトランペット奏者となったので、私は彼の隣で演奏しながらセクションの吹き方を覚えました。

↑ 短いですが、ジャズコンボのリハーサル中動画貼ります。私の隣がカンベ、みんなのお父さん的存在!

実はブラジルに着いた当初「私はブラジル音楽しかやりたくない!」と思っていましたが、今ではジャズ、ポップス、演歌*、クラシックからペルーやウルグアイの中南米音楽まで、なんでも演奏するようになりました。
もちろん、どの音楽にも敬意を持って。

ジャンルにこだわりすぎるのは損ということを、周りが気づかせてくれたのです。

*演歌は、日系人のコミュニティでよく演奏されるんです

学歴よりも実力

東京で音楽活動している時(2007年頃~2014年まで)、「どこの音大出身ですか?」と聞かれ、「武蔵野音大です」と答えると、「あぁ、クラシック吹きだったんですね~」なんて言われることが多かった気がします。

毎年、何千人の音大卒業生がいる今、"音大卒業"というのは、物凄いメリットを発揮するものではないと思います。
実際、音大卒業したらプロというわけではありません。

ブラジルは音楽学校や音楽大学が少ないのもありますが、学歴をアピールをする人は本当に少ないです。
最近は就職のために大卒に拘る人は多いそうですが、演奏で生きていく世界は「吹いたもん勝ち」という感じです。

なので、「彗星のように現れた若者が、有名な音楽家に気に入られて成功する」なんてことも多いのでしょう。

誰とでも常に同じ気持ちで演奏する

先ほど書いた彗星のように現れた若者、本当に度胸があるんです。
と言うより、若者だけでなく、誰かと一緒に演奏する時、相手が誰であろうと自分のベストを尽くせる人が多いです。

「自分を見てほしい」アピールが強いブラジル人の傾向もあるかもしれませんが、誰とどこで演奏する時もブレない!!
(時に自己アピールが強すぎるメンバーばかりで上手くいかないこともありますが。。苦笑)

私は、東京にいた頃「ベテランの人と演奏する」とか「先生と同じステージに立つ」ということに異常な緊張を感じ、プレッシャーから小さくなってしまうことがありました。
中には意地悪なベテランさんもいますしね。
そういう人と演奏する時は仕事だと割り切ってましたが、実際は演奏していても何も面白くないですよね。(おっと、失礼。。笑)

まず、ブラジルでは若手、中堅、ベテランと、わけて呼び合う人があまりいません。演奏歴が長いもしくは豊富な人と、そうでない人が混じり合って演奏することも多いです(それが何故かは後ほど書きます)。

サムネイルにした画像は、私が通う音楽院の先生で素晴らしいミュージシャンであるファビオ・レアウが、私を彼のセッションに呼んでくれた時のフライヤーです。
私は彼のアンサンブルクラスに3年間生徒として参加していたのですが、私の演奏が急に良くなったと感じたそうで、もっと外で演奏するべきだと誘ってくれたのです。

誘ってもらった時は、、震えました!!笑
言われたレパートリーを練習しまくりました。おそらく1日7時間ぐらい練習していたかも。。

正直、ライヴの3日前ぐらいから緊張していました。
それを音楽院の友人に話すと、「なにをそんなに緊張してるの?僕だったらfoda-se*、思いっきり楽しむよ」とガツンと言われました。笑
* 英語のfuck itみたいな感じ、思いっきりスラングです

当日、自分が生徒だということは忘れ、純粋に音楽を楽しみました。
その後も、ファビ―ニョ(ファビオの愛称)とは何度も一緒に演奏し、今では大切な友人です。自分の先生が友人になるなんて、光栄すぎますね!

音楽をするときにヒエラルキー(階層)はない!

ブラジルで、プロ、アマという言葉をあまり聞かないのは、19世紀後半あたりから登場した最初のブラジルポピュラー音楽の有名なミュージシャンたちの多くが他の仕事を掛け持ちしていた名残もあるかもしれません。

そのため、サンパウロで「アマチュア初心者向けセッション」とか「プロ以外お断り」とか、こういう言葉は聞きません。
ちなみに、今でも他の仕事をしながら週末ミュージシャンという人は沢山います。

先生と学生もそうです。
私は音楽院の奨学金のグループで先生と同じステージに5年間立ったわけですが、「先生か学生か」なんて、お客さんからしたら関係ないですよね。

それに、先生から「学生だから」と言われたことは一度もありませんでした。

同じグループで演奏する時は全員に発言権があります。
学生から「こうしたい!」と音楽的な意見することも多く、正直びっくりしました。私は高校(吹奏楽強豪校)でも音大でも、先生に意見をする勇気はありませんでしたので。。

音楽をするときはみんな一緒。
音楽の中にヒエラルキーがあるなんて、考えられません。

いつも謙虚でいること

ジャンル分けや、学歴重視の話に似ているのですが。。

音楽家としての自分の地位に拘る人、つまりプライドの高い人はサンパウロでやっていけないという話を友人たちとしたことがあります。
これは日本でも同じことが言えると思います。

実は、2017年にサンパウロ州予算の関係で数ヶ月ほど奨学金のオーディションが延期されたことがありました。

そういう時に限ってサンパウロで演奏する機会もなく金欠だった私は、友人の提案でスーパーマーケットの入り口で演奏を始めました。

レパートリーは自分たちの好きな曲ではなく、多くの人が知っている曲を選びました(古いサンバやドラマで使われていた曲など)。
それが結構ウケで、奨学金がもらえるまでこれで食いつなぎました。
恥ずかしがったり、馬鹿にしたりせず、真剣に演奏していたのが伝わったのかもしれません。

どこで演奏する時でも、お客さんがたった1人の時でも、同じ気持ちで演奏することが大切です。

ブラジルだけでなく、世界で活動する一流の音楽家たちは本当に謙虚です。
誰とは書きませんが、天狗になっているブラジル人の有名音楽家は国内で干され気味です。。

何よりも信頼関係が一番

「ブラジル人のバンドって、めちゃくちゃ上手い人と、まぁまぁな人が一緒に演奏活動してたりするよね。」
という友人の一言。そう言われてみれば確かに!
とにかく一緒に音楽をやっている人たちは、仲間としての絆が物凄く深いんです。

音楽を仕事にしている人は沢山いますが、とにかく楽しく演奏をするというのが前提なのです。

ブラジルで音楽家として生きていくには、信頼関係と絆が一番大切です。
実際に、楽器は物凄く上手いのに誰にも呼ばれない人と、その反対の人を沢山知っています。
お金を払えば一緒に演奏やレコーディングしてくれる人は幾らでもいますが、やっぱり音楽は会話。そこに違和感がある演奏はすぐにわかります。笑

信頼関係というのはすぐに築き上げられるものではないですが、築き上げられたものは本当に一生物とも言えるでしょう。
これは、音楽以外でも言える仲間になったらとことん仲間というブラジル人の傾向かもしれません。

これが、演奏歴や実力に関係なく、意気投合した人同士が一緒に演奏する事が多い理由です。

以上。
全員が上記通りという訳ではないですが、沢山の素晴らしいミュージシャンと一緒に時間を過ごしたことで、音楽本来のあり方や、それを職業にする心得を考えさせられました。

自分が必要のない概念に縛られていたのか実感。。
これは音楽以外にも言えることなので、それについてはまた後日書きたいと思います。

読んでくださってありがとうございました😊

おまけ

実は、この記事は2017年に日記ブログとして書いていたものに、その後の経験を付け加えて書き直したものです。
今、私の演奏仕事はお休み中。編曲や、たまに歌ものレコーディングの仕事をする程度です。
やっぱり、以前みたいに沢山演奏したいなと思ったりもします。2年間ブランクがあるので、リハビリしなきゃな~。

あと、もう一つ。
自分の演奏活動人生で忘れられないのが、初めて演奏でお金を頂いた日のこと。
大学生の頃です。同じ埼玉栄高校出身というご縁で、サックス奏者の松井宏幸さんに声をかけていただき、神奈川県三浦市で行われるイベントのサックスカルテットに参加することになりました。

松井さんはリーゼントで一見こわそうだけど、実はめちゃくちゃ面白くて、何より表現がロマンティック!私は高校生の頃から大ファンです(うちの母も)。
そんな松井さんからの突然のお誘い…この時も震えました。笑

その時は完全にびびっちゃって、納得できる演奏はできなかったんですが(自分のパートね)、カルテットで一緒になった大石くん、のんちゃんは大事な友人になりました。
更に、その後も三浦市では何度も演奏させていただき、本当に良い思い出が沢山あります。松井さん、この御恩は一生忘れません!

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島田愛加(ブラジル在住)
現在、フリーランスで活動しています。今後も活動を続けていくために、サポートいただけると大変嬉しいです! いただいたサポートは、取材や制作の費用に使わせていただきます😊