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趣味:焼きあご出汁づくり

今朝も4:30に目が覚めた。少しぼーっとした後、ジャージとTシャツに着替える。朝ごはんの代わりに仕込んでおいた米サワー(米麹から作った甘酒をイースト菌でシュワシュワさせたやつ)を飲む。人心地ついたら、上下ヤッケを着込み、長靴を履いて、首にタオルを巻く。スマホをポケットに入れてAir Podsを片方だけ装着すれば準備完了。早朝の漁港へ向かう。

漁港へ着いたら、ちょうど船が返ってきたところだった。網元のおじさんが「困ったな〜こりゃちょっとかかりすぎやなぁ」と、嬉しそうな、困ったような微妙な調子でみんなに報告していた。船を覗いてみると、小山になった網にたくさんの飛魚とバイ貝が絡み付いていた。確かに、これはなかなかの難敵・・・

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6月中旬から、島で飛魚の漁が始まった。毎年、梅雨時期に黒潮に乗って飛び魚がやってくる。今年は少し遅かった。近年、イカや多くの魚が不漁なので飛魚も不漁のまま終わってしまうのかと少し不安だったが、一安心だ。(海辺の街に住んでいると、海の生態系の変化を否が応でも感じる)私がお手伝いしているのは刺し網漁の漁師さん。刺し網漁とは、魚が通過するだろうという場所(今回は飛魚)に網を張り、その網の目に魚が引っ掛かるのを待って引き上げる漁法。底引網や巻網漁船のように大漁に漁獲することを目的としていないので、比較的環境負荷も少ないのではないだろうか。

漁船が戻ってきた様子に気がついたご近所さんたちが船の周りに集まってくる。素早く全ての魚を網から外さなければ、飛魚が傷んでしまうので、大漁ときは猫の手も借りたいのだ。集まってくるのは出勤前のおじさんや朝食と弁当を作り終えた主婦。刺し網は文字通り、網に刺さっているアゴ(山陰地方の飛魚の呼び名)を一つ一つ外すのに人手がいるため、隙間時間のある人たちが早朝にもかかわらず集まってくるのだ。きっと昔からそうだったため、みんなそれが当たり前という感じ。そして、大漁の日は、こらたいへんだ〜と言いながらも、みんなどこか楽しそうだ。

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今朝は1,000匹ほどかかっていたアゴを、入れ替わり立ち替わりしながら随時8人ほどで小一時間かけて網から外した。この網から外す作業が結構、難しい。飛び魚の羽のような胸びれやエラが網目に引っかかるし、飛魚は体が柔らかいからグニャグニャヌルヌル手から逃げていく。もたもたしていると流れ作業が滞ってしまうので、焦ると余計に取れないっ!焼きアゴづくりの工程で一番苦手なのは、この網からハズす作業だ。プレッシャーが半端ないから。経験値の少ない私は、ベテランにあーだーこーだと逐一ご指導を受けながら、何とか作業に加わった(ほぼ戦力外)。外し終わると、網元の奥さんが用意してくれていた、おにぎりやパンを軽く摘みながら休憩し、仕事のある人は収穫した魚の分け前を少しいただいて解散。時間のある人は次の行程を手伝う。


当たり前のことだが、漁は自然が相手。毎度、どのくらい魚がかかるかわからない。1,000匹かかる日もあれば、もっと多い日も、10匹しかかからない日もある。だから普通のビジネスのように、あらかじめ固定されたスケジュールを組みにくい。明日は500匹ほどかかりそうだから、5人のスケジューリングしておこうみたいなことはできない。たくさん魚が掛かっていたら、近所の人に声をかけるか、岸から漁船の様子を見ていた人が大漁そうだったら集まってくるみたいな、とっても場当たり的な感じ。そして、各々が来れる時間にきて、自分の都合で手伝って、それぞれ都合の良い時間に帰って行く。労働の対価は現物支給制(魚)。もちろん、みんなそれぞれ、主たる仕事は別にあるのが前提だけど、体が空いている時間に少しお手伝いするというスタイルが、何とも自由で、何だかいいなぁ。

漁獲された魚も、自分が必要な分以外は、分け合うのが当たり前。足の速い(すぐに腐る)ものを独り占めしてもどうしようもない。必要な人に分配する。そうすることで無駄なく、みんなが自然の恵みを享受できる。それがお返しのお返しにも繋がったりする。それも、何だかいいなぁと思う。

網から外した後は、機械で鱗を落とし、一匹一匹頭を包丁で落として内臓を出し、背骨沿いに開いていく。内臓は肝の部分と白子と真子にわける。肝の部分は捨てるが、白子と真子は製品には使わないものの、家で塩漬けにしたり、醤油漬けにしたり、珍味として楽しむ。アゴを開く作業も技術が必要のため、私はもっぱら開いたアゴを真水につけてブラシでゴシゴシ擦って血合いを取る係。血合いが残ると味にえぐみが出てしまうので、念入りに行う。すぐに水が血と脂で汚れしまうため、何度も何度も水を変えながらひたすら洗う。防水エプロンはしているが、2時間洗っていると、手の先がふやけてくる。寒い時期だとかなり辛い作業だが、6月なので気候もいいし、あまり苦にならない。

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綺麗に洗ったアゴは6匹ずつ串刺しにして、珪藻土の七輪でじっくり炭火焼きする。炭ももちろん島で作ったもの。アゴの体からポタポタと脂を落とす。脂は美味しいが、脂が残っていると、これも出汁にしたときの雑味になってしまうので、丁寧に弱火でじっくり焼いていく。焼いたアゴは背骨に沿って軽く切り目を入れ、これまた手作業で背骨を取り除く。朝、5時から作業を初めて、ここまでで8時間程度かかる。最後に、乾燥機で5時間〜7時間低温乾燥させて出来上がり。

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ジタバタしない

なぜかこのアゴだし作りが楽しい。対して報酬がなくても、わざわざ早起きして手伝いたいと思う。それは、アゴだしを作っているときみんなが醸し出している「ジタバタしない感じ」が、心地良いからだと思う。

これからの時代、漁業もAIで魚の漁獲量なども予想できたり、調整できたりするようになるのかもしれない。(いや、すでになっているかも)ビジネスとしては、そのほうが無駄がないし、利益も出るだろう。でも、私の住む島、私の手伝っている漁師さんは、運を天に任せて漁をしている。人智ではコントロールできない自然を前にした時のには、委ねるしかない。結果、魚が獲れたらみんなで頑張るし、獲れなかったら諦める。島での生活では、海が荒れたらフェリーは欠航するから、予定も全部飛ぶし。しょうがないし。みたいなことが多々ある。

さらに、頑張って売るとか、頑張ってたくさん作って利益を出そう!みたいなこともしない。製品にならないものは自家消費用にするので、少し形が悪かったり、色が悪いものはすぐに除ける。だから、クオリティチェックはなかなか厳しく、出来上った商品は(手前味噌だが)なかなかいいものができていると思う。なのに、まあ、売れたらいいな。くらいのスタンスなのだ。私が手伝っている焼きあごづくりのグループは定年退職後の方がほとんどで、みなさん人生に余裕があって、ガツガツ稼ごう!という気がないからというのもある。何より、稼ぐのが目的ではなく、楽しく作業をするのが最大の目的だからだとも思う。作業中も雑談をしながら楽しく働くのだ。(喋っていても手捌きはものすごく早いし、効率が悪いわけでもないのだけど)無添加の出汁でみんなを健康に!とか、喜ぶ顔が見たい!みたいな、大それた想いがあるわけではない。自分たちが美味しいと思うものを、みんなでワイワイ言いながら楽しく作って、誰かが美味しいていいてくれたらそれも嬉しいな。それくらい雰囲気が、今の私にちょうどいい。

だから、早起きして作業に加わる。その後の心地いい疲労感と、お昼寝タイムが最高に気持ちいい。



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