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三兄弟の真ん中


桜が咲き始めた。

いつも歩いている雑多な街にも優しいピンク色が差し込んで、
なんだか気持ちまで優しくふわふわしてくる。

冬の間はどれもこれも枯れ木になっていて気がつかなかったけど、

「こんなにたくさん桜の木があったんだなぁ」としみじみする。

これは日本独特の景色だと思うけど、
小学校から大学まで、学校の周りには桜がたくさん植えられていた記憶がある。

だからなのか桜を見ると、
入学式とか、
新学期のクラス替えとか、
卒業式とか、
甘酸っぱくて恥ずかしい青春たっぷりの記憶が頭を巡ってきてくすぐったい気持ちになる。

私にはやや年の離れた弟がいる。

弟は2年前、大学入学と同時にコロナが流行り始めて、たくさんの行事が中止になってしまった。

新しい友達は作れたのだろうか。
サークルに入ることはできたのだろうか。
自宅から画面越しに参加する大学の講義は、ちゃんと興味が持てるのだろうか。

桜をみて思い出せるような青春は、作れているのだろうか。

気になってはいたものの、それを声に出して質問することが余計に気の毒な気持ちにさせてしまう気がして何も出来なかった。


そんな弟と、兄、私の三兄弟の話をしたい。

弟が生まれる少し前、私が小学校に上がって間もない頃に「だんご三兄弟」という歌がものすごく流行った。

この歌はこれから「姉」になる7歳の私に、地獄みたいなフレーズを突きつけてきた。

「弟思いの長男♪」
「兄さん思いの三男♪」

「自分が一番、次男、次男♪」

テレビ画面の向こうで、真ん中のだんごが満足そうな顔でにやりとするのがアップになる。

私は三兄弟の真ん中になるから、この図々しい真ん中のだんごになるのだ、とショックを受けた。

NHKにしてみればくすっと笑えるユーモアとして作った歌詞なんだろうけど、
7歳の私に大人のユーモアを受け入れる余裕なんてなく、
「環境に流されれば私はあのだんごになる」と震えた。

だから、弟をうんと可愛がった。

これまでの二十年間に弟を叱った記憶は数えるくらいしかないし、喧嘩なんて一度もしたことがない。

ちなみに4つ年上の兄とは数えきれないくらい喧嘩をしたし、嫌いすぎて口を利かなかった時期すらある。

頭が良くて大人しい兄を、私は「イケてない」と友達に言っていたし、
兄も兄で「あいつは性格が死ぬほど悪い。あと未だにお母さんとお風呂入ってる」と私のことを友達の前で馬鹿にしていた。

兄、私(女)、弟の三兄弟は、
上の二人が対立しながら弟を可愛がる、不思議なだんごになった。

だから、よその三兄弟がどんな関係なのか、とても気になる。

特に真ん中として育った人の、立ち振舞い。

「平和なだんご三兄弟」になるにはどうすればよかったのか教えてほしい。

ちなみにそれぞれが大人になった今は、三兄弟でちゃんと仲良くやっている。

親の期待を一人で背負って、名門の大学に入った兄を私は尊敬しているし、

兄も親戚との付き合いや親孝行なことは私を頼りにしている。

弟は兄からも姉からも可愛がられ、すっかり「自分が一番、三男、三男」になった。

それも悪くない、と私は思っている。







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