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そして誰もツンデレできなくなった

 かつての日本は、ツンデレ大国として世界を制覇していた。冷たく突き放しながらも、時折見せる優しさで人々を虜にするキャラクターたちは、アニメやマンガの中だけでなく、日常会話にも登場し、生活の一部となっていた。ツンデレ文化は世界に広がり、中国でも『傲娇(アオ・ジャオ)』という名で大流行し、日本のツンデレ製品は中国市場で爆発的な人気を博していた。

 しかし、日本のツンデレ文化はある日突然、その輝きを失い始めた。冷たい態度をとるキャラクターが次第にツンの度合いを弱め、ただの優しいキャラへと変貌していったのだ。ファンたちはその変化を『キャラの成長』だと好意的に受け止める者もいたが、やがて違和感を覚える声が大きくなっていった。

『最近のツンデレ、なんか物足りなくないか?』

 そんな囁きが聞こえ始めた頃、ついに政府が『ツン成分の供給不足により、ツンデレのツン度が減少している』と公表した。この発表により、ツンデレ業界は大混乱に陥った。ツン成分の調達コストが急上昇し、その供給も制限されていたのだ。

 調査の結果、驚くべき事実が判明した。ツンデレの『ツン』を形成するために必要な原材料である世界の『傲(アオ)』資源の約95%が中国に集中していたのである。これは、中国の人口が多いだけでなく、中国の女性は日本の女性よりも気丈であり、日常的にツンとデレのギャップが豊富に存在することに由来していた。

 この事実を知った中国政府は、資源ナショナリズムを発揮し、『傲』資源の日本への輸出を差し止めた。『国内需要優先』という表向きの理由があったが、日本のツンデレ産業に対する圧力が狙いだと噂された。この措置により、日本のツンデレコンテンツは深刻な危機に直面することとなった。

 ツン成分が手に入らなくなった日本のコンテンツ制作者たちは、仕方なくツンを少しずつ削減し、デレ成分を増やしていくしかなかった。最初はごくわずかな変化だったが、それは徐々にツンデレキャラクターたちの表現に影響を及ぼし、ファンはその変化を見逃さなかった。

『ツンデレのツンが足りない…』という声は次第に大きくなり、街中のツンデレカフェにもその影響は及んだ。かつては辛辣な一言で客を喜ばせていたメイドたちも、今ではすっかり優しくなり、デレデレとした笑顔で迎えるばかり。客たちは失望し、足は遠のいていった。

 だが、ツン不足の危機をチャンスと捉えた業界もあった。ツン成分の供給が逼迫する中、商品先物業界が目を付けたのだ。『ツン先物取引』、『ツンデリバティブ』、『ツンCFD』といった新たな金融商品が次々と開発され、ツンの供給状況を元にした相場が形成された。ツン相場は急騰し、取引所の電子掲示板には『ツン高騰警報』が頻繁に点滅するようになった。資源価格の急上昇とともに、ツン先物の買いが殺到し、まさに『ツンバブル』が発生していた。

 ツンデリバティブは特に人気を集めた。ツン成分の将来の価格変動を元にした複雑な金融商品で、短期間で巨額の利益を狙えるとされ、投資家たちはツン相場に大挙して押し寄せた。一部の投資会社は、ツンの相場変動を利用して莫大な利益を上げ、メディアは『ツン憶り人』として彼らを取り上げた。しかし、その一方で、ツン相場に振り回される企業や一般消費者も増えていった。

 さらには、『ツンETF』や『ツン投資信託』など、個人投資家向けの金融商品も登場した。これらのツン関連商品は株式市場にも影響を及ぼし、ツン資産を組み込んだポートフォリオが流行した。しかし、ツン相場の乱高下により、破産する投資家も続出し、やがて『ツンショック』という言葉が社会に浸透していった。

 そして、ツンデレの本質がどんどん薄れていったのだった。人々はツンの価格や取引に夢中になり、ツンデレの魅力そのものを見失ってしまった。かつてツンデレの聖地と呼ばれた秋葉原も、今では投資会社の広告とツン相場の電子掲示板が目立つばかりで、ツンデレキャラの面影は消え失せてしまった。

『ツンを取引しているうちに、本物のツンデレはどこかに行ってしまった…』

 誰かがそうつぶやいたが、もう誰も気に留めることはなかった。ツン相場の数字だけが人々の関心を引き続けていた。

 ツン不足が社会問題として深刻化する中、日本政府はツンデレ文化の復活を目指し、『ツン地産地消事業』や『夢の純国産人工ツン資源開発』など、さまざまな事業を次々と立ち上げた。国を挙げてツン資源の確保に奔走し、各地でツン資源の採掘プロジェクトや新たなツン産業の育成が行われたが、どれも決定的な解決策にはならなかった。

 そのとき、オタク文化の発祥の地であり、技術革新の最前線でもある東京工業大学がついに動き出した。東工大の研究チームは、ツン成分の再現を目的とした『ツン・マイニング』に特化した新たなスーパーコンピュータ『TSUBAME5.0』の開発に着手した。このシステムは、生成AIや機械学習の最新の要求に応えるため、従来のTSUBAMEシリーズを大幅に進化させたものである。

 TSUBAME5.0は、特に高次元の感情データ解析と複雑な感情パターンの抽出を最適化するために設計されている。そのため、最新世代のGPUアーキテクチャと分散ディープラーニングのための大規模メモリ共有システムを採用し、演算能力とメモリ帯域幅の両方を強化した。また、感情モデルのトレーニングに必要な非構造化データを効率的に処理するため、高速なI/Oシステムと大容量のストレージが組み込まれている。

 さらに、TSUBAME5.0は、ツン成分の『マイニング』において感情認識の精度を高めるためのハイブリッドAIシステムを搭載。従来のニューラルネットワークに加え、感情特化型のトランスフォーマーモデルと組み合わせたアルゴリズムにより、ツン成分の微細なニュアンスを高精度で再現することが可能となった。これにより、過去のツンデレキャラクターの感情データを基に、よりリアルで多層的なツンの合成が実現された。

 この新システムを用いた研究チームは、大規模なデータ解析と機械学習を駆使して、天然ツンに近い感情表現の再現を目指していた。当初、合成ツンの開発には多くの困難が伴い、天然ツンが持つ複雑な感情ギャップを完全に再現するのは難しいとされていた。しかし、試行錯誤の末に技術が進歩し、ついに『AI合成ツンプロジェクト』が成功。人工ツンの完成が発表された。

 このニュースは瞬く間に世界中に広がり、街中には喜びの声があふれた。『ついにツンデレが戻ってくる!』と誰もが期待に胸を膨らませた。だが、人工ツンが実際に世に出回ると、その期待はすぐに失望へと変わった。

 人工ツンは確かにツンのような要素を持っていたが、天然ツンとはまるで異なる風味があった。ツンの厳しさや冷たさがどこか不自然で、デレに繋がる自然なギャップが生まれなかったのだ。人々は人工ツンを『ニセモノ』と見なすようになり、期待されていたツンデレの復活には至らなかった。

 最終的にツンデレ文化は完全に衰退し、『ツンデレ』という言葉すら辞書から消え去ろうとしていた。

 そして誰もツンデレできなくなった。

武智倫太郎

自己解説
 本作品は『そして誰も~なった』と『ツンデレ童話』シリーズのハイブリッドとして書かれたものです。こんなくだらない話を読む人などいないだろうと思っていましたが、実は密かな人気がありました。

 最近、サブリナさんが『ツンデレ童話』を全部読み切ってしまったので、彼女用にハイブリッド作品を作る必要があったのです。

 えっ? それじゃ一人しか読まないんじゃないかって? あ、あんたバッカじゃないの? べ、別にあんたたちに好かれたいわけじゃないんだから! 一人でも読んでくれる人がいれば、それで全然問題ないんだからね!

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