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蝕まれる日本の安全保障——米国共和党の代弁者と化した翻訳屋、その似非シンクタンクの正体
キヤノングローバル戦略研究所のWebサイトには、常に理解しがたい内容が掲載されています。特に全ページに記載されている以下の注意書きは、その典型的な例です。
『本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は、執筆者個人の見解であり、当研究所またはそのスポンサーの見解を示すものではありません。』
同研究所は元経団連会長であり、現代表取締役会長兼社長CEOの御手洗冨士夫氏が評議員会議長を務める一般財団法人です。こうした組織に所属し、報酬を得ている研究主幹の執筆した内容が『執筆者個人の見解』に過ぎないというのは、極めて違和感があります。
さらに、キヤノングローバル戦略研究所のWebサイトには、執筆者の名前が明記されておらず、どのような分析が行われているのかも不明な記事が存在し、まるで匿名掲示板の落書きのような怪文書が大量に掲載されています。
御手洗冨士夫とは?
御手洗冨士夫が経団連会長としていかに無能であり、特にエネルギー政策において弱かったかについては、国際経営・経済書籍部門の発売月ランキングで1位を獲得した私の実名著書に詳しく記しています。
海外では、安倍元首相や御手洗冨士夫に関する報道はほとんどありません。そのため、彼らが日本国内でどのように報道されているのか、私が知る機会はほぼありません。しかし、例えば以下のような外交会談では、中東諸国の国家元首が日本の首相と会う時間ですら30分から1時間未満に限られるのが実情です。これは、中東諸国の国王や大統領が国家元首であるのに対し、日本の首相は国家元首ではないため、外交プロトコル上の扱いが異なるためです。
そのような状況の中、当時経団連会長だった御手洗冨士夫は、安倍元首相に随行する形で180名もの大規模な団体を率いてアラブ諸国を訪問しました。しかし、72社の社長が国家元首と接見できる時間は、1人あたりせいぜい1分未満に過ぎません。結果として、日本の東証一部上場企業の社長が中東諸国を訪問してできることといえば、自己紹介すらままならず、国王や大統領の執事のような人物に名刺を渡し、一言も交わさないまま記念撮影をして帰国するのが実態です。
一方、私は日本政府や経団連を代表する立場ではなく、単なる『友人』としてアラブ諸国を訪問しています。そのため、夕食後にシーシャを嗜みながら国家元首とゆったりと会話する機会があります。そんな場面で『あの騒がしい日本人の団体は何だったのか?』と尋ねられることもありますが、私としては『何がしたいのか私にも分かりませんね…』と答えるほかありません。
安倍首相の中東歴訪に合わせてミッション派遣
-重層的な関係の構築へ/中東五ヵ国首脳らと意見を交換
日本経団連(御手洗冨士夫会長)は、わが国と中東諸国との関係の戦略的な重要性にかんがみ、安倍晋三総理の中東歴訪に同行する形で、多様な業種72社・団体から構成される約180名のミッションを、4月28日から5月3日にかけて、中東五ヵ国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦=UAE、クウェート、カタール、エジプト)に派遣した。これは、昨年11月のベトナム経済ミッションに引き続き、日本経団連が総理の外交日程に合わせて派遣したミッションであり、各国政府はじめ関係者からきわめて高い評価を得た。
原発新増設が必要なこれだけの理由
産経新聞社 月刊『正論』2022年11月号に掲載
岸田文雄首相が8月24日、原子力発電所の再稼働、革新炉の研究開発、そして新増設に言及した。この言やよし。
『この言やよし。』とは何時代の言葉だか分かりませんが、まるで時代劇で格下の相手に使うようなセリフを、SNSで『何々総理は馬鹿だ』と文句を言っているレベルの感覚で、時の内閣総理大臣閣下であられた岸田文雄首相に向かって産経新聞社 月刊『正論』に書いてしまうとは…。この文章を書いているキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志・研究主幹は、自分のことを日本のフィクサーか何かと勘違いされているのか、あるいは本当にフィクサーなのかも知れませんが、『考え違いも甚だしい』とはまさにこのことです。
彼がこのように不遜な態度で言論を展開できる最大の理由は、彼の真のスポンサーがアメリカ共和党だからでしょう。彼は米国共和党のスポークスマンに過ぎず、その言論には主体性も理念もなく、アメリカが『小型原子炉SMRを推進すべき』と言えば、日本も導入すべきだと主張し、研究開発費の負担まで日本に求めるのです。
さらに、第二次トランプ政権が発足し、米国が化石燃料の輸出拡大を打ち出すと、それまで石油や石炭を否定していたにもかかわらず、一転して『日本はコストを度外視してでも米国の化石燃料を輸入すべきだ』と主張し始める布石が以下の記事なのでしょう。
しかも、中国で低消費電力のAI技術が開発され、アメリカが計画していた原発増設や化石燃料の輸出拡大を実施すれば電気が余ることが明らかになると、消費電力拡大のシナリオに整合性を持たせるために、今度は『消費電力が少ないAIが登場すると逆にAI普及で電力需要が増える』という謎の理論をアメリカの保守系シンクタンク(マンハッタン研究所)の公共政策誌から引用し『DeepSeekのAI技術が効率的であるがゆえに逆に電力需要が増加するパラドックスが発生し得る。よって原発を稼働(あるいはアメリカのマイクロ原発開発費を日本が負担してでも普及)させるべきだ』という主張を始める準備に取り掛かるのです。
彼は燃費の向上により飛行機の需要が伸びた例を引き合いに出してパラドックスを説明していますが、実際に飛行機の需要が伸びたのは、燃費よりも海外旅行の需要拡大が主な要因であり、燃費とは直接的な関係がありません。
このように、恣意的なこじつけによって将来の電力需給を誤って操作し、その結果、日本の電力料金は高騰し、工業の価格競争力が失われ、EV普及の足かせにもなっています。つまり、彼らの目的はアメリカに利益を誘導することで日本の電力供給と国力を弱体化させ、結果として日本経済を損なう破壊工作を行っているのです。
『気候変動問題』はもう終わりだ
産経新聞【正論】(2024年11月26日付)に掲載
杉山 大志研究主幹
米国では共和党が上下院を制しトランプ大統領が誕生する。バイデン政権が進めたグリーンディール(脱炭素政策)は廃され、エネルギードミナンス(優勢)の確立を目指すことになる。
すなわち、米国が豊富に有する石油、天然ガス、石炭の採掘を進め、豊富で安価なエネルギー供給を実現して経済を発展させ、軍事力も強化して敵を圧倒するのです。
これはトランプ氏の独断ではなく、共和党の総意です。『愚かな脱炭素をやめるべきだ』とは、次期国務長官に指名されたルビオ上院議員の発言です。気候変動問題に関するパリ協定については、大統領就任初日の1月20日にも離脱を表明することが確実だとされています。
このように一切自分の頭を使わない書き方も、杉山大志の特徴です。彼の執筆する文章の大半は、アメリカのシンクタンクのレポートを翻訳、あるいは誤訳したものに過ぎません。彼が所属するキヤノングローバル戦略研究所は、自らを『シンクタンク』と称しているものの、国内外でそう認識されているわけではなく、実態は単なる『自称シンクタンク』に過ぎません。
それにもかかわらず、彼はまるで葵の御紋を掲げたかのように、アメリカのシンクタンクやニュース記事の切り抜き程度の情報をもとに、次のような主張を展開します。
『控えい、控えおろう! こちらの発言がどなたの発言であるか、目に入らぬか! 米国が豊富に有する石油、天然ガス、石炭の採掘を進め、豊富で安価なエネルギー供給を実現して経済を発展させ、軍事力も強化して敵を圧倒するのは、トランプ氏の独断ではなく、共和党の総意でござる。一同の者、頭が高い、控えおろう!』
このように、自説を『共和党の総意』とすり替え、論点を歪めてしまうのです。しかし、例え、彼が米国共和党の代弁者や代理人であったとしても、ここは日本であるということを理解したうえで発言すべきでしょう。
さらに、自ら問題点を提起し、その解決策を示すという、科学者に最低限必要な資質が彼には欠けています。そのため、彼が博士号を取得することは、一生かかっても叶わないでしょう。
こうした半端者による無責任な政策提言をもとに環境政策が決定されていることを考えると、日本の官僚や政治家のレベルの低さには驚かざるを得ません。さらに、この自称シンクタンクの理事長を務めているのは、元日本銀行総裁の福井俊彦です。これこそ、日本には真のシンクタンクが存在していないことを示す象徴的な例と言えるでしょう。
武智倫太郎