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近未来麻雀小説(13)モリエホンと十八羅漢の前日譚

これまでのあらすじ

 22世紀初頭、中国香港自治国『新華強北』はかつて『中国の秋葉原』と称され、電子機器の中心地であったが、無秩序に領土を広げた台湾の一部となっていた。

 モリエホンは前科者でありながら、嵩山少林寺のロボット工場で生産された中華人民軍功夫ロボット最強闇雀士として、优酷(中華版YouTube)では、新華強北の四天王として、無敵の雀士として知られていた。
 
 ところが、書物奉行の調査により、華強北は電子機器の街として有名ではあるが、大中華帝国の広東省深圳市福田区の一角に過ぎず、モリエホンよりも強い雀士は大中華帝国には星の数ほど存在することが明らかになった。そして、モリエホンは新中華人民軍で、伍長として不名誉退役した過去も判明した。

香港九龍城市街戦

香港九龍城麻雀戦争市街戦最前線

 21世紀末の中華人民軍の階級は、大尉、中尉、少尉といった尉官の下に、下士官として、曹長、軍曹、伍長があり、その下に兵士として、兵長、上等兵、一等兵、二等兵の階級があった。

 中華人民軍に十八万体(十八羅漢・壱萬小隊相当)あった十八羅漢ロボットは全て兵長であり、兵士としては最上級の麻雀の実力を持っていた。十八羅漢で一小隊として社会性昆虫の群知能をベースとして機能するように開発されたスワームロボティクス技術で連動して、麻雀をコンビ打ちできるように設計されていた。

 下士官最下位の伍長とはいえモリエホンは、十八羅漢一個小隊よりも強力な麻雀の実力を誇っていた。ホリエホンは兵卒が相手では最強であり、台湾の二等兵麻雀ロボットに負けることなどあり得ないと高を括っていた。

 前世紀末戦で香港が台湾に敗北した最大の原因は、香港九龍城市街戦で中華人民軍のモリエホン伍長が、台湾の二等兵麻雀ロボットに旧日式麻雀対局で敗北して、九龍城が陥落したことだった。

 モリエホンは九龍城の運命がかかった一局で、重苦しい空気の中で牌を手に取った。彼の手牌は力強いが、同時に危険を孕んでいた。

 上家(お茶碗を持つ手の方に座っている人やロボットやアンドロイドなど)は、中張牌(2~8の牌のこと)のみを捨て、老頭牌や字牌を一切見せていなかった。上家は、おそらく国士無双か字一色を狙っているに違いない。

 対面(自分の前に座っている人やロボットやアンドロイドなど)は、三元牌(白、發、中はどれか1セットでも参枚揃うと、ポンとチーが混ざっていても一飜あるのであがれる)を次々と哭いていた。白、發、中が対面に並んでおり、対面は大三元(役満というとても高い点数)の完成が間近であることは明白だった。

 下家(お箸を持つ手の方に座っている人やロボットやアンドロイドなど)の大胆な中張牌の捨牌(いらない牌を捨てること。捨てるのを忘れると、多牌となって負けてしまう)の河(いらない牌を手前に並べるところのこと)から、下家は国士無双(役満というとても高い点数)を狙っているのが明らかだった。

 モリエホンの眼前には、選択肢が少なかった。上家に対しては字牌(東・南・西・東・白・發・中の総称)や老頭牌(数牌の一と九の牌)を切るリスク、対面に対しては三元牌以外の牌、下家に対しては一九字牌が危険だった。ところが、『タンヤオのみでも上れば役満など恐れるに足らず』と奢ったモリエホン伍長は、『この局面は見切った』と自信をもって、立直、一発、断么九、自摸、ドラ9(SEGAの麻雀MJには赤牌ドラが沢山ある)で数え役満を狙って、立直を宣言して【一萬】を卓に晒したが、それが香港の運命を狂わせる引き金となった。

『ロン!』上家の声が響く。その直後、『ロン!』、『ロン!』と対面と下家も声を上げた。一瞬の沈黙の後、台湾の二等兵雀士たちは、彼らの手牌を明かした。上家は予想外にも国士無双を完成させていた。対面の大三元と、下家の国士無双。モリエホンは、信じられない現実に目を見開いた。彼の一手が役満のトリプルロンを引き起こし、九龍城陥落の決定的な瞬間となった。

九龍城陥落

つづく…

武智倫太郎


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