ロバート秋山の謎:探偵の迷宮奇談
これまでのあらすじ
俺の名は探偵、ただの探偵だ。バーボンで酔いどれた夜に煙草をふかし、灰色の街を歩く。湿ったアスファルトには俺の影がうっすらと伸びている。ここは、真実も嘘もゴミのように転がる場所だ。だが、今日はいつもと少し違う。俺の事務所に現れたあの女、イボンヌのせいだ。
『探偵さん、お願いがあるの』
イボンヌは赤い唇でそう言った。まるでその言葉が、夜の闇を引き裂く刃のように鋭く響いた。
『俺に何を頼むんだ?』
『ロバート秋山を見つけてほしいの』
ロバート秋山? その名には聞き覚えがあったが、実在するかどうかも怪しい、神田のマンハッタンと俺が名付けた秋葉原の都市伝説のような存在だ。彼の名を聞いた瞬間、背中に冷たい汗が走るのを感じた。何度も耳にした噂だ。あいつはこの街で、様々な姿に変わって現れるらしい。役者だ、コメディアンだ、アーティストだ、時にはただの影だとまで言われる。
『イボンヌ、そいつはただの幻じゃないのか? ロバート秋山を探すなんて、砂漠で水を探すようなもんだ』
イボンヌは微笑んだ。その微笑みは氷のように冷たく、そしてどこか哀しげだった。
『私にとって、彼はただの幻じゃないの。彼がいるはずの場所に、行ってみてくれる?』
俺はイボンヌの言う通りに動いた。街の外れにある古びた劇場、その地下室だ。ここには昔、ロバート秋山が最後に姿を見せたと言われる場所がある。闇に包まれた廃墟のような昔の肉の万世本社ビル。
2024年の3月に閉店された万世ビルのガラスは割れ、壁には苔が生え、誰も近寄らない場所だ。
重たい扉を押し開けると、薄暗い照明が不気味に揺れていた。空気が澱んでいる。俺は慎重に足を進めた。コツ、コツ、コツ。足音が広がる。その時、低い笑い声が聞こえた。
『はははは…お待ちしていましたよ、探偵さん』
心臓が一瞬止まりかけた。その声は、どこからともなく聞こえてくるが、誰もいない。いや、いる。薄闇の中、舞台の真ん中にぽつんと立っている影。男だ。いや、影そのものが男に見える。
『お前が…ロバート秋山か?』
『ご想像にお任せします』
ロバート秋山――いや、その影は、ふいに姿を変えた。背の高いビジネスマン、巨漢のマッチョ、気弱そうなサラリーマン…次々と別の人間に姿を変えていく。そのすべてが、同じ男の笑い声を持っていた。どれもロバート秋山だが、どれもロバート秋山ではない。
『待て…お前は何者なんだ…!』
俺がそう叫んだ瞬間、視界がぐにゃりと歪み、劇場が揺らぎ始めた。恐ろしいほどの寒気が襲い、俺はその場に立ち尽くすしかなかった。イボンヌの言葉が脳裏をよぎる――『彼は幻じゃない』と。
だが、これは現実か?夢か?あるいは俺の脳が見せる悪質な冗談なのか。
『さあ、探偵さん。あなたも私と一緒に“演じて”みませんか?』
影の声が最後に響くと同時に、俺は目を覚ました。あの劇場ではなく、自分の事務所の椅子の上でだ。煙草の煙がまだ宙に漂っている。
イボンヌはどこにもいなかった。全てが夢だったのか?いや、そう簡単に片付けられる話ではない。デスクの上に、一枚の紙切れが残されていた。
『ロバート秋山は、あなたの中にいる――』
馬鹿馬鹿しい。だが、俺は無意識に笑みを浮かべていた。まるで、あの影のように。
俺は再び街を歩いていた。ビルの谷間に溶ける夕暮れの光が、俺の影を長く引き伸ばしている。だが、その影はどこか歪んでいた。まるで、俺自身が誰か別の人間に変わりつつあるような感覚だ。
不意に、頭の中で低い笑い声が響く。『はははは…お待ちしていましたよ、探偵さん』――あの劇場で聞いた声だ。俺は頭を振ってそれを振り払おうとするが、声はさらに強く、はっきりとしたものになる。
次の瞬間、ビルのガラスに映った俺の姿が揺らぎ、背の高いビジネスマンや巨漢のマッチョ、そして気弱そうなサラリーマンへと次々に変わる。俺は立ちすくみ、目をこすった。だが、その変化は現実だった。
『待て…まさか…』
俺は震える手でポケットを探り、煙草を取り出した。火をつけて一服すると、今度は鏡に映る俺自身の笑みが広がっていく。その笑みは、どこか見覚えのあるものだった。――そう、あのロバート秋山の笑い声と同じだった。
自嘲の笑みが自然にこぼれた。どうやら、イボンヌの言葉はただの警告ではなかったらしい。彼女が言った通りだ――『彼は幻じゃない』と。
なぜなら――俺自身が“ロバート秋山”だからだ。
武智倫太郎
何麿? 藤原武智麻呂?
長州力? 長州小力?
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