見出し画像

半導体製造の基礎の基礎 (1)

 パソコンの電源ボタンをポチっとすると、あら不思議。これまでの長い人生でCPUやメモリのことを気にしたことなんて一度もなかったはずなのに、急に気になりだしませんか? えっ、気にならない?

 まあ、普通は気にならないですよね。ガソリンエンジンがブンブンと動いてればそれでいい。ディーゼルがドンドン動いてればそれで十分。ハイブリッドかモーターか、そんなの誰も気にしません。実際、車の中身を知らなくても、カーチェースやレースを楽しむ目的がなければ、ドライブだけでも楽しめるでしょう。

 私たちの体内も同じですよね。肝臓があれば酒が飲めるし、腎臓があればトイレには行けます。脾臓って何でしたっけ? 知らなくても、ケーキは美味しく、漫画やアニメは面白い。最新の映画に目を通すだけでも、一日はあっという間に過ぎ去ります。

 テーマパークで遊ぶのも、ショッピングでお金を使うのも、競輪や競馬で夢を見るのも、パチンコの玉に心を奪われるのも、美酒に酔いしれるのもそれぞれ楽しいでしょう。

 でもね、たまには #半導体 の知識で脳を刺激してみてはいかがでしょうか? 半導体が何かを理解すれば、『AIに仕事を奪われるかもしれない』なんて、余計な心配をすることもなくなりますよ。

 CPUやメモリなどの半導体デバイスの製造方法の概念は、私からの詳しい説明は不要です。以下の #富士通 のページを読むだけで基本的な豆知識が得られるでしょう。

 以下の説明は専門知識の一部をカバーする雑学レベルの内容ですが、この程度の豆知識があると、日本の半導体産業の衰退が私たちの生活にどれほど影響するかを感じ取ることができるでしょう。

 CPUを理解するためには、多くの基礎的な情報を知っておく必要があります。例えば、CPUの概念を簡単に説明すると、『CPUはコンピュータの心臓』や『コンピュータの脳』といえます。実際には、CPUは計算を行う部分であり、そのため『脳』という比喩が適切かもしれません。しかし、CPU以外にも、FPUやGPUのような『何々PU(Processing Unit)』と呼ばれる部分も計算を行っています。また、マザーボード全体にも、コンピュータの中心的な機能が存在します。したがって、情報工学の観点からは、CPUを『脳』というよりも『心臓部』に例えるのが適切でしょう。

 しかし、どんなに分かりやすい比喩を使っても、最終的にはそれはあくまでイメージです。単なる比喩だけでCPUの実際の働きや機能を理解し、それを実際の産業やプログラミングで利用することは難しいです。

 そこで、このブログではこれまで、コンピュータの基礎について、ビットや論理演算とは何かということを説明してきました。

 今回はCPUの製造方法、特にシリコンの純度や製造過程で必要な水や電気について話します。

 コンピュータユーザの立場では、こんなことを知っていても何の役にも立ちません。ところが、国力や世界情勢、産業力、株式投資などに関心のある方は、熟知しておくと様々な判断材料に使える極めて重要な情報です。

#シリコンウェハー は、CPUをはじめとする多くの #半導体デバイス の基盤となる素材です。ウェハー自体は非常に薄い円盤の形をしており、その上に複雑な電子回路が形成されます。

 シリコンウェハーの主要な材料はシリコン(Si)です。シリコンは地殻に豊富に存在する元素で、半導体の特性を有しているため、電子デバイスの製造に適しています。もちろん、炭素を中心とした有機半導体も存在しますが、現在の情報通信産業の中心となっているシリコンについての理解が先決です。

 このシリコンの特性や役割を理解することで、例えば、 #トクヤマ #マレーシア で巨額の損失を出した背景や、今回の再挑戦の成功可能性を評価する際の参考となります。シリコン・アナリストとしての私の視点では、トクヤマの今回の再挑戦の成功率はかなり低いと見ています。

 シリコンの需給動向、価格の予測、製造コストの変動要因などを考慮しないと、予測財務諸表の数字を見ただけでは、真の意味での理解は難しいでしょう。トクヤマは日経平均株価の構成銘柄(日経225)の一部であるため、同社の経営判断は日経平均株価にも影響を及ぼす可能性があります。

 以下の記事では『 #多結晶シリコン 』との記載がありますが、シリコン製品は『 #単結晶シリコン 』や『 #アモルファスシリコン 』を始めとして、SOG-Si(ソーラー発電用シリコン)の純度99.99999(6~7N)から、SEG-Si(半導体級)の純度99.999999999(11N以上)といった様々な品質を持っています。投資家は、それぞれの製品の投資環境、収益モデル、競合他社が大きく異なる点を理解する必要があります。特に、薄利多売を特徴とするSEG-Siは、為替の変動なども収益に大きく影響することも念頭に置くべきです。

高純度の物質を精製する困難さ

 小学校や中学校の理科で習う『 #元素の周期表 』を原子量順に『 #水兵リーベぼくの船七曲がるシップスクラークか 』という語呂合わせで、水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン…と覚えている方も多いでしょう。

 ところが、地球上にはこれらの原子が純度100%の状態で、目に見える形で存在しているわけではありません。例として、純金と言えば、99.99%の4Nを指しますが、99.99%というのは、0.01%の金以外の物質が混じっていることを意味します。純鉄も、99.99%以上の純度で作るのは非常に困難です。

『蒸留水は純度100%ではないのか?』と疑問に思う方もいるでしょう。しかし、蒸留水にも微量の不純物が含まれています。水(H2O)は最も基本的な化合物ですが、純度100%の水は地球上には存在しません。

 水の純度を向上させるためのプロセスには限界があるので完全に不純物を排除した純水を作ることは現在の技術では不可能です。水の純粋さを計る際に、電気抵抗を用いることがありますが、純度100%の水は理論上絶縁体であり、電気抵抗での測定は不可能です。電極から金属などがイオン化して水中に溶け出すため、測定時点で純度が下がってしまいます。

 読者の皆様も、水には砂糖や塩などを溶かすことができることを知っているでしょう。しかし、水には二酸化炭素や #金属イオン なども容易に溶けるため、純度100%の水を作るのは難しいのです。

 純水や超々純水の定義は学術分野や産業によって異なります。以下に、それらの概念を説明します。

純水:不純物が極端に少ない水を指しますが、不純物の濃度や種類の基準は、用途や分野により異なることがあります。

超々純水:特に半導体製造などで使用される高度に精製された水です。イオン交換、蒸留、逆浸透など複数の手段を組み合わせて製造されます。通常の水と異なる物理的性質を持つことがあります。

 学術や産業における純水や超々純水の要件は、用途や分野によって異なります。純水や超々純水の定義や基準は、その用途や分野に応じて適切に設定されるべきで、一概に『これが純水である』と断定するのは困難です。

SEG-Si(半導体級シリコン)の純度99.999999999%(11N以上)の難易度

 半導体産業において、材料の純度は非常に重要な要因となります。これは、半導体デバイスの動作や性能に影響を及ぼすためです。ここで、SEG-Si(半導体級シリコン)の純度99.999999999%(11N)について考察します。

製造の難易度:11Nの純度とは、10億の原子に対してわずか1原子だけ不純物が含まれていることです。このような極めて高い純度を持つ材料を作成するには、製造過程での全ての汚染(コンタミ)を避けることが必要です。たとえば、シリコンの融点は1,410℃以上となりますが、 #チョクラルスキー法 #CZ法 )を利用すると、この高温の溶液からシリコン結晶を引き上げる必要があります。この過程でのコンタミを避けることは非常に難しいです。
 
レーザーとの関連性:高純度の #ルビー のような人工宝石の結晶の製造にもレーザー技術は不可欠です。レーザーは、非常に集中した光を生成することができ、材料の高温融解や蒸発などの工程で利用されます。特に、PVD法(物理気相蒸着法)では、レーザーを利用してシリコンを高速に蒸発させ、精密な結晶成長を実現します。この技術は、均一で高純度の半導体材料を効率的に製造するために必要です。

 オリガさんが興味を持ちそうなのは、以下のレーザーに何が使ってあるかということです。答えは #ルビーレーザー です。 #シリコンインゴット を作るのと同じ手法で、レーザーの主要部品の #ルビーロッド を作ることが可能です。

単結晶の育成
1904年、ベルヌーイがルビーの合成に成功した。第二次大戦後、単結晶育成技術が著しい進歩を遂げた。今日、単結晶は半導体や電子工業をはじめとする他分野の工業材料として広く利用されている。

単結晶の育成

多段階の精製プロセス:11N純度のシリコンを製造するには、複数の精製ステップが求められます。これには、CZ法やFZ法などの技術が使用されます。

高コスト:高純度のシリコン製造には、先端的な設備や技術が要求され、これらは高額です。さらに、一貫した品質を維持するための厳しい品質管理と検査もコストを押し上げる要因となります。

微量不純物の影響:11Nの純度レベルでは、ごく微量の不純物でも半導体の性能に大きな影響を及ぼすことがあります。このため、不純物の種類や濃度の監視と制御が極めて重要です。

 半導体デバイスの製造プロセスが進化し、より高度なデバイスが求められる中で、更なる純度の向上が要求されることも考えられます。しかし、11N以上の純度を持つSEG-Siの製造は、技術的な課題として残っています。

半導体製造におけるフッ化水素の重要性

洗浄剤としての役割:フッ化水素は、半導体製造過程において、シリコンウェハーの表面を洗浄するためのエッチング剤として使用されます。ウェハーの表面の不純物や酸化膜を除去するのに非常に効果的です。
 
高純度が求められる:半導体製造における #フッ化水素 は、非常に高い純度であることが求められます。微量の不純物が存在すると、半導体の性能や歩留りに悪影響を及ぼす可能性があるからです。
 
日本の零細企業による高純度フッ化水素の製造と韓国の課題

高度な技術:日本は長年にわたる半導体産業の発展の過程で、フッ化水素の高純度製造技術を確立しました。零細企業であっても、この技術と経験を持つことで高品質のフッ化水素を供給することができます。

韓国の依存:韓国の半導体産業は、長らく日本からのフッ化水素供給に依存していました。そのため、日本の輸出規制により、韓国の半導体製造におけるフッ化水素の供給が不安定となりました。

自給の困難:韓国は総力を上げて国内での高純度フッ化水素の製造を試みましたが、短期間で日本の企業と同等の品質を持つフッ化水素を大量生産することは困難でした。高純度のフッ化水素製造には、特定の技術や設備、さらには経験やノウハウが必要とされるため、短期間での製造能力の確立は難しいと言えます。韓国では何年掛けてもできないことでも、中国なら数ヵ月で大量生産が実現可能です。

 この輸出規制は、半導体産業における供給チェーンの脆弱性や、国際的な政治的対立が産業に与える影響の大きさを示す事例として、多くの関心を集めましたが、日本政府が見誤っていたのは、中国の半導体産業の実力です。

つづく…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?