見出し画像

小学生でもわかるサイエンス・フィクション入門

 直近一か月の実験で、noteの記事のタイトルにSFと付けると、閲覧数やスキの数が極端に減ることが分かりました。一方で、半年前に行った実験では、半導体や量子力学の記事でも、『小学生でもわかる半導体入門』や、『サルでもわかる量子力学の基礎』のようなタイトルにすると、読者数が急激に増えることが判明しました。但し、『サルでもわかる』を漢字で『猿でも解る』と書くと、同じ内容の記事でも読者数が減ってしまうのです。

 そこで今回は、皆が読みたくなる要素の『小学生でもわかる』と、皆が読みたくない『サイエンス』を組み合わせて『小学生でもわかるサイエンス・フィクション入門』というタイトルにしました。このように性質の相反するものを組み合わせて反応を確認するのは、科学や発明の基本的精神です。漫画やアニメなどに登場する博士が、緑の液体の入ったフラスコと赤い液体を混ぜると爆発して、顔が煤けて頭がアフロヘアになってしまうお約束のシーンが多いのは、本当の科学者も混ぜては危険な物を混ぜて遊びたがる習性があるからです。

SFのジャンルにはどのようなものがあるか?

ジュブナイルSF (Juvenile Science Fiction)
 ジュブナイルとは若い読者を対象とした内容で、冒険、友情、成長などがテーマの作品が多いです。ジュブナイルの名作と言えば、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』(The Door into Summer)、『月は無慈悲な夜の女王』(The Moon is a Harsh Mistress)、『赤い惑星の少年』(Red Planet)あたりが基本です。ロボット三原則で有名なアイザック・アシモフもジュブナイル作品を多数執筆しています。ハインラインもアシモフも、どちらも子供から大人まで楽しめる名作が多いです。『2001年宇宙の旅』(2001: A Space Odyssey)で有名なアーサー・C・クラークもジュブナイルSFを書いています。

 最近、日本ではジュブナイルという単語を使わないかも知れませんが、ラノベとは異なる概念です。どこが違うかを説明するのは困難ですが、私の定義では、ラノベは娯楽作品で、ジュブナイルは知的好奇心を刺激する作品という印象があります。

 私が小学生の頃に読んでいたのは、以下に説明するハードSF作品が中心で、サイエンスよりもドラマの要素が強い『スターウォーズ』のようなスペースオペラ作品は苦手でした。禁断の恋なら『ロミオとジュリエット』、親子の葛藤なら『ハムレット』を読んだ方が良いです。小中学生の時期に読むSF作品は将来に大きな影響を与えるので、ソフトSFやファンタジーSFが好きな人は、態々SFを選ばずに純粋なラノベやファンタジー作品を楽しんだ方が良いかも知れません。

 道野櫂さんは元博物館学芸員だけあって、ジュブナイルを意識した作品を書かれています。少年少女ほど正しい科学知識に基づいたジュブナイルSF作品を読むべきです。

 ジュブナイルSFを分類すると、以下のように分けることが可能です。細かく分けていくと、複数の分野を組み合わせることができるので、ほぼ無限のジャンルが生まれます。例えば、サイバーパンク+ディストピア+タイムトラベルのような感じで組み合わせることができます。

 サイバーパンク+ディストピア+ディテクティブSFの要素を持つフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(Do Androids Dream of Electric Sheep?)は、これらのジャンルの影響を受けた先駆的な作品です。しかし、この原作を映画化した『ブレードランナー』と『ブレードランナー2049』は、原作とは重要な点で異なる部分があり、独自の解釈や追加の要素が多数含まれています。

ハードSF(Hard Science Fiction)
 科学的な正確さと技術的なリアリズムを重視します。実際の物理学、天文学、生物学、情報工学、ナノテクノロジーなどの科学理論に基づいた物語が特徴です。

ソフトSF (Soft Science Fiction)
 社会科学や心理学などの『ソフト』な科学に焦点を当てます。科学的な正確さよりも物語の社会的、文化的側面に重きを置きます。

スペースオペラ(Space Opera)
 宇宙を舞台にした壮大な冒険とアクション。銀河帝国、宇宙戦争、エイリアンとの接触などの要素を含みます。

サイバーパンク(Cyberpunk)
 近未来の都市を舞台にしたディストピア的な物語です。ハイテクとローテクの対比、情報社会、サイバースペース、バイオ技術などが組み込まれることが多いです。

ディストピア(Dystopia)
 暗い未来の社会、全体主義国家、環境破壊などをテーマにした作品です。社会的・政治的問題を強調することが多いです。

ユートピア(Utopia)
 理想的な社会や未来を描きます。完璧な社会制度、平和と繁栄などがテーマです。

ポストアポカリプス(Post-Apocalypse)
 世界の終末後の生活を描きます。核戦争、パンデミック、環境崩壊などによる文明の崩壊と再建をテーマにします。

タイムトラベル(Time Travel)
 時間移動をテーマにした物語です。過去や未来への旅行、タイムパラドックス、歴史改変など、あらゆるSF分野と組み合わせができる基本的な作品の要素です。

オルタナティブ・ヒストリー(Alternative History)
 歴史が異なる形で展開した世界を描きます。歴史的な出来事が異なる結果をもたらす『もしも』のシナリオです。最近日本では『世界線』という表現をすることが多いですが、パラレルワールドもオルタナティブ・ヒストリーのジャンルの一つと言えるでしょう。

マインド・アップロード(Mind Uploading)
 
人間の意識をデジタルデバイスに転送する技術をテーマにした作品です。意識の保存、クローン、デジタル不死などを探求します。ChatGPTがブームになってから、この分野の作品が爆発的に増えていますが、その手の話の大半はサイバーパンクブームの時代に書き尽くされています。人間の意識をAIにアップロードするという概念は、AIブームになる遥か以前の古典SFの世界です。劇場版の銀河鉄道999(1979年)にはキャプテンハーロックとアルカディア号も登場しますが、この時のアルカディア号を操縦しているAIには、ハーロックの盟友だったトチローのマインドがアップロードされています。攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL(1991年)も、電脳化されてゴーストが…みたいな話です。

クローン(Cloning)
 クローン技術を中心にした物語です。クローンの倫理問題、個人のアイデンティティ、遺伝子操作などがテーマです。

バイオパンク(Biopunk)
 生物工学や遺伝子工学の進歩をテーマにしたディストピア的作品です。人体改造、遺伝子改変生物、バイオテロなどを描きます。

エコパンク(Ecopunk)
 環境問題や持続可能な未来をテーマにした作品です。気候変動、環境破壊、エコテロリズムなどがテーマです。

ミリタリーSF(Military Science Fiction)
 
軍事行動や戦争を中心にした物語です。宇宙戦争、未来の兵器技術、戦争の戦略と戦術などを描きます。

ファンタジーSF(Fantasy Science Fiction)
 科学と魔法が融合した世界観です。高度なテクノロジーと魔法的な要素が共存する物語です。

ファーストコンタクト(First Contact)
 人類と異星人の初めての接触をテーマにした作品です。異文化理解、宇宙外交、異星文明との交流などを描きます。

スチームパンク(Steampunk)
 19世紀の産業革命期をベースにしたレトロフューチャーな世界です。蒸気機関、ヴィクトリア朝風のテクノロジー、機械仕掛けの装置などが登場します。

ロボット(Robotics)
 ロボットや人工知能を中心にした物語です。ロボットの進化、AIの倫理、ロボットと人間の関係などがテーマです。

宇宙西部劇(Space Western)
 西部劇の要素を取り入れたSF作品です。宇宙の辺境、無法者、ガンマンなどが登場します。

マシン・インテリジェンス(Machine Intelligence)
 人工知能や機械の知性をテーマにした作品です。AIの進化、人間との共存、AIの倫理問題などがテーマです。

異星生物(Alien Lifeforms)
 異星人や異星生物との接触や交流をテーマにした作品です。異星生物の生態、文化、技術などを描きます。

宇宙植民(Space Colonization)
 宇宙への移住や植民地化をテーマにした作品です。新しい惑星への移住、植民地の生活、異星環境への適応などを描きます。

トランスヒューマニズム(Transhumanism)
 人間の進化や超越をテーマにした作品です。バイオ技術、サイバネティックス、身体改造などがテーマです。

テレパシー(Telepathy)
 テレパシーや超能力を持つ人々をテーマにした作品です。精神感応、テレキネシス、超能力者の社会などを描きます。

ディテクティブSF(Detective Science Fiction)
 探偵小説の要素を取り入れたSF作品です。未来社会での犯罪捜査、サイバースペースの探偵などがテーマです。

アーコロジー(Arcology)
 巨大な自己持続型の都市をテーマにした作品です。アーコロジーの社会構造、環境問題、人間関係などがテーマです。

ヴァーチャル・リアリティ(Virtual Reality)
 仮想現実をテーマにした作品です。仮想空間での生活、VRの倫理問題、デジタル世界と現実世界の境界などがテーマです。

 他にも基本となるジャンルが多数ありますが、それぞれの分野の有名作品については、別の記事で解説します。最近、NLPを使ってサイバーパンクのディストピア小説を作成する人が増えていますが、その手の話は既に多く書き尽くされており、NLPで作成した小説では著作権問題を回避できないことが分かるでしょう。

 NLPの作品が斬新に感じられるのは、単にNLPでSF作品を書いている人が読んだ本の数が少な過ぎるため、著作権侵害に気づいていないだけです。

つづく…

武智倫太郎

いいなと思ったら応援しよう!