noteで広がる声劇の可能性と創造力(3)
今回はT Kさんに代わって、T Kさんが何をすべきかを勝手に語ってしまうという、ある意味画期的な企画です。noteでこのように友人の作品に介入するのは驚きかもしれませんが、たとえば野球を経験したことがなくてもメジャーリーグで活躍する大谷翔平について解説したり、政治家になったことがなくても『総理大臣は何をすべきか』と語る人は多くいます。つまり、私が『T Kさんが何をすべきか』を語ることも、決して不自然ではないのです。
T Kさんは演者をすべきか、裏方をすべきか?
小説家が自作の小説を映画化する際、自ら映画に出演しようとするケースは極めてまれです。ところが、マーベル映画でスタン・リーが毎回カメオ出演していたのは有名な話です。
映画史的にはヒッチコックが自作映画に短時間だけ登場し、ファンの間で『ヒッチコック探し』が一種の楽しみになっていたこともよく知られています。
では、これが演劇だとどうなるでしょうか。日本では、つかこうへいが自作の舞台に出演しながら演出家としても積極的に関与し、作品世界を直接観客に届けるスタイルを取りました。海外では、シェイクスピアが自らの戯曲に役者として出演していたことが知られています。現代ではリン=マニュエル・ミランダが『ハミルトン』で主演を務めるなど、自作自演の例は数多くあります。
こうした現象が起こる背景には、『活字の原作者』と『表現者』の距離が大きく関係しています。小説や映画のように、作品が文章や映像という形に変換される場合は、作者自身が直接表現する機会は限られがちです。一方で、演劇のようにリアルタイムで観客とコミュニケーションをとるメディアの場合は、創作者自身が舞台に立って演じることで、作品の意図やニュアンスをダイレクトに伝えることができます。
声劇の場合はどうか?
では、声劇に関してはどうでしょう。声劇は、活字(文章)と演技の中間に位置するメディアであり、原作者自身が声優として参加することで、作品の世界観をより忠実に再現できる可能性を秘めています。とくに、noteのようなプラットフォームでは、原作者が脚本を執筆し、音声として発表し、さらにコラボレーションを通じて多様な演者とともに作品を作り上げることが可能です。これにより、創作と表現が一体化し、新たなエンターテインメントの形が生まれています。
つまり、T Kさんは演者も裏方も両方やると良いのです。これは、自分で作った詩や曲を自ら演奏して歌う井上陽水や、中島みゆきのような『シンガーソングライター』スタイルをイメージすると分かり易いでしょう。
レコード販売において、日本で初のミリオンセラーを達成したのは井上陽水であり、現在でも日本を代表するトップミュージシャンの一人として活躍しています。
一方で、最も多くのミリオンセラーの記録を持ち、1970年代から2000年代まで4つの年代すべてで1位を獲得したのは、中島みゆきただ一人です。
ちなみに、中島みゆきのコンサートのラストでよく歌われる『♬ファイト』は、ラジオ番組『オールナイトニッポン』で朗読されたハガキを元に作られた、名曲中の名曲です。
現在の日本の歌謡界で誰もが名前を知る大御所歌手には、ある共通点があります。それは、全員がシンガーソングライターであるという点です。
ちなみに、お笑い芸人の世界ではビートたけし、明石家さんま、タモリの世代が『お笑いビッグ3』と呼ばれています。彼らの特徴も、実はギャグの台本を自分たちで書き、自分たちで表現するというスタイルにあります。かつてのコメディー界では、専門のシナリオライターや放送作家、企画担当のディレクターがいるのが当たり前でしたが、お笑いビッグ3の登場によりその流れは大きく変わりました。
これとは対照的に、日本の古典落語や狂言といった伝統芸能では、古くから伝わる台本に忠実に演じつつ観衆を笑わせるという高度な技術が求められ、厳しい修行を経て習得されるものです。
空中元彌チョップ
つまり、声劇においても『台本を書く人』と『演者』が分かれるのではなく、『自ら書いて自ら演じる』スタイルこそが、長く愛されるエンターテインメントとなる可能性が高いのです。さらに、『note+声劇』という新しい形であれば、共同で作品を作り、共同で演じるという、これまでにない新たな楽しみ方も実現できるでしょう。
『お笑いビッグ3』を語ったからには、『アメ車のビッグ3』を語らないわけにはいかないでしょう。『アメ車のビッグ3』といえば、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード(Ford)、クライスラー(Chrysler)だと思っている方も多いかも知れません。
しかし、実はクライスラーは2009年に経営破綻し、その後イタリアの自動車メーカーフィアット(Fiat)の傘下に入りました。そして、2014年にはフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)として統合され、企業としての『クライスラー』の名前は正式に消滅しました。
さらに、2021年にはFCAとフランスのPSAグループ(プジョー、シトロエンなど)が合併し、新たにステランティス(Stellantis)という巨大自動車グループが誕生しました。この結果、クライスラーは現在ステランティスの一部門として存続しており、企業としての独立性はなくなっています。
それでも『クライスラー』というブランド名自体は継続しており、現在も『Chrysler 300』や『Pacifica』などの車種が販売されています。しかし、ビッグ3の一角として認識されていた時代とは異なり、現在のアメリカ自動車市場における存在感は相対的に小さくなっています。
つまり、アメリカのビッグ3の概念も時代とともに変化しており、現在ではゼネラル・モーターズ、フォード、そしてステランティス(旧クライスラー)と認識されるのが正しいと言えるでしょう。
同様に、日本においても自動車業界の勢力図は大きく変わろうとしています。現在、日産はホンダとの経営統合に向けた協議を進めていますが、ホンダは統合の条件として、日産に対し厳格な構造改革を求めています。特に、生産拠点のリストラや事業再編が大きな課題となっており、改革が進まなければ統合も不透明です。さらに、台湾の電子機器受託製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業による買収の可能性も浮上しており、今後の日産の動向は予測が難しい状況となっています。
このような状況を考慮すると、日産がかつての『日本車ビッグ3』の一角を担う存在として生き残ることは容易ではなく、経営統合や買収が進展しなければ、独立企業としての存続が危ぶまれる状況です。最悪の場合、クライスラーのようにブランド名は残りつつも、企業としての日産が消滅する可能性も否定できません。
武智倫太郎