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8文字で全俺が泣いた『電気がもうない……ガクッ』
トランプ政権のエネルギー戦略と米ドル基軸通貨維持の試み
米国産エネルギー輸出拡大の背景
2025年2月7日、トランプ米大統領と石破茂首相はホワイトハウスで初の首脳会談を行い、米国産液化天然ガス(LNG)の輸入拡大で合意しました。この動きは、米国の貿易赤字削減と、日本のエネルギー供給の多様化という双方の利益を考慮した結果です。トランプ大統領は対日貿易赤字の解消手段として、米国の石油や天然ガスの輸出拡大が有効であると認識しており、これを日本のみならずEUにも適用し、輸入拡大を求める圧力を強めています。
しかし、米国のエネルギー供給体制には課題もあります。トランプ大統領は2025年1月にアラスカでの石油・ガス開発規制を緩和する大統領令に署名しましたが、既に生産量が高水準にあるため、さらなる増産には限界があるとの指摘もあります。加えて、エネルギー市場の需給バランスやインフラ整備の問題も絡み、米国のエネルギー輸出政策の実効性には疑問が残ります。
LNG輸入の技術的課題と日本の対応
日本は世界最大級のLNG輸入国であり、エネルギーの安定供給確保のために米国産LNGの導入を進めています。しかし、日本国内のLNG備蓄には以下のような技術的制約があります。
ボイルオフによる損失
LNGは-162℃で液化されますが、時間とともに気化(ボイルオフ)し、圧力上昇を防ぐために定期的に放出する必要があり、長期間の備蓄が難しいという課題があります。
備蓄設備の制約
LNGは専用のタンクでしか保管できず、石油のように地下備蓄施設を設けることができません。現在の技術では、日本国内のLNG備蓄は約2週間分程度に限られます。
米ドル基軸通貨の維持と『脱ペトロダラー』の脅威
近年、資源産出国の間で米ドル決済を回避する『脱ペトロダラー』の動きが加速しています。例えば、2024年11月のCOP29では、発展途上国が重要鉱物の利益を公平に分配することを求める声が上がり、ナイジェリア政府も天然ガス産業に注力し、石油依存からの脱却を図っています。
こうした動きは米ドルの基軸通貨としての地位を脅かす要因となります。従来、石油取引は米ドルでの決済が主流でしたが、人民元やユーロ、デジタル通貨による決済の増加により、米国の金融支配力は弱まる可能性が高まっています。
米国のエネルギー輸出と基軸通貨維持の関係
このような背景から、米国は自国の化石燃料を積極的に輸出せざるを得ない状況にあります。米国が世界のエネルギー市場で影響力を維持することで、米ドルの需要を確保し、基軸通貨としての地位を維持する狙いがあります。
シェールオイル・ガスの生産拡大
米国は世界最大級のエネルギー生産国としての地位を強化し、エネルギー取引を通じてドル決済の維持を図っています。
欧州・日本へのエネルギー供給
米国は、ロシア産エネルギーへの依存を減らす欧州や、中東依存を低減したい日本への供給を通じて、経済的影響力の拡大を目指しています。
エネルギー企業の安定した収益
Shell社などの主要エネルギー企業は、化石燃料の生産と低炭素事業の両立を進めながら、米国の国際市場での影響力を強化しています。しかし、資源産出国の脱ドル化が進み、各国が独自の決済通貨を模索する中で、米ドルが基軸通貨の地位を失えば、米国の経済的優位性も大きく損なわれることになります。
トランプ政権のエネルギー戦略と日本の対応
トランプ政権は日本を含む同盟国とのエネルギー協力を通じて、米国の貿易赤字削減と米ドルの基軸通貨維持を両立させる戦略を進めています。しかし、日本側にはLNG備蓄の技術的制約があり、長期的なエネルギー安定供給のためには、再生可能エネルギーの導入やLNG備蓄技術の向上が不可欠です。
また、世界的な『脱ペトロダラー』の流れが強まる中、米国はエネルギー輸出を通じてドル決済の優位性を維持しようとしていますが、各国の独自決済システムへの移行が進めば、米ドルの覇権が揺らぐ可能性もあります。
今後、日本は米国とのエネルギー協力を維持しつつも、リスク分散のための新たな戦略を模索することが重要となるでしょう。
アメリカではAI普及に伴う急激な電力需要の増加に追随できるか?
私のnoteでは、AIの普及による電力不足について何度も取り上げてきました。 本来、私は魅力的な短編小説や童話の提供を目指しているのですが、なぜか私の記事の中で最もアクセスが多いのは、AIと消費電力に関する記事ばかりなのです。
そこで、今回もAIと電力の関係について解説します。
AIに対するアプローチは国ごとに異なります。中国や日本では、省電力型のAI技術や、環境負荷の低い『責任あるAI』の開発に力を入れています。 これは、1970年代のアメリカ自動車業界と日本自動車業界の対比に似ています。当時のアメリカは燃費の悪い大型車の開発に注力する一方、日本は低燃費で安全な自動車を開発し、結果として世界屈指の自動車産業を築き上げました。 AI分野においても、同様の流れが見られます。
ところが、孫正義とOpenAIのサム・アルトマンが目指しているスターゲート計画では、アメリカが過去に失敗してきた『大量のエネルギーを浪費するAI開発』です。以下の記事にもあるように、彼らの計画は莫大な電力を消費するAIデータセンターの建設に依存しています。
サム・アルトマンは、『AIデータセンターには大型原発数十基分の電力が必要になる』と主張しています。しかし、アメリカで1GW級の大型原発を新規建設する場合、設計・許認可・建設・試運転を含めて最低でも10〜15年を要します。 原子力発電では到底間に合わないのです。
さらに、全米の電力インフラは極めて脆弱であり、定期的に大規模停電が発生しています。 日本では考えられないような規模の停電が頻発しており、5年以内に数十GWの発電設備を新設するという計画は現実的ではありません。 つまり、スターゲート計画は、実施前から破綻が確定している事業なのです。
孫 以前『AGIがいつ来るんだ?』『コンピュータのパワーはどれくらい必要になるのか?』など、サムに聞いたことがありましたね。そのときの答えは『大きければ大きいほどいいんだ』という話でした。非常にシンプルな答えだったと思います。大きければいいということは、つまりたくさん必要なんだなと。それをかなえるためにStargateを発表しました。
限定的な演算能力ではなくて、より多くの能力があった方がいいというのは間違いない。人によっては『小規模でもできる』と言うかもしれないが、それだと得られるリターンも小さくなる。
サム 多くの人は、リターンがどれだけ大きく変わるかという部分を分かっていません。小規模モデルでも、大きなコストかけた方が大きなリターンがあると思います。
それでは、ガス発電なら解決策になり得るのか?
『原子力発電が間に合わないなら、ガス火力発電を増やせばいいのでは?』と考えるかもしれません。しかし、たとえ豊富な天然ガスが確保できたとしても、肝心の『ガスタービン』が入手できないのが現実なのです。
ここまで読んでいただいた皆さんには、ようやくこの記事のタイトル、『電気がもうない……ガクッ』の意味がお分かりいただけたのではないでしょうか。
武智倫太郎