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RPG式マルチエンディング小説の書き方入門

はじめに

 RPGのように選択肢によって物語が変化するマルチエンディング小説は、読者に『自分が物語を操っている』という感覚を与える独特の魅力があります。本書では、RPGの要素を取り入れたマルチエンディング小説の書き方をステップごとに解説し、実際の執筆に役立つ具体的なテクニックをお伝えします。

第1章 マルチエンディング小説とは?

1-1. マルチエンディング小説の特徴
選択肢の存在:物語の途中で読者が選ぶ分岐点が存在する。
複数の結末:選択によって異なる結末(ハッピーエンド、バッドエンド、トゥルーエンドなど)に到達する。
読者参加型:読者が主人公と同じ立場で物語を体験する。

1-2. 他の形式との違い
リニア型小説:物語の筋書きが1本しかない。
分岐型小説:読者の選択で物語が変化し、リプレイ性が高い。

第2章 設計:ストーリーの骨組みを作る

2-1. 主人公とテーマの設定
主人公:読者が感情移入しやすい人物像を描く。
例)『過去を失った記憶喪失者』『選ばれた勇者』『普通の学生』
テーマ:物語全体を通じて伝えたいメッセージを明確にする。
例)『選択の責任』『愛と犠牲』『自己実現』

2-2. 分岐点の作成
・物語の流れを分岐図で可視化する。
・主な分岐点を決める(例:選択肢A、選択肢B、選択肢C)
・分岐ごとに異なる展開と結末を用意。
・トゥルーエンドへの到達条件を設定する。

2-3. 必要な要素
メインプロット:物語の大筋(例:路地裏での苦しい生活からプロレスラーとして成長し、最終的に悪と戦う主人公のストーリー)
サブプロット:登場人物の個別ストーリーやサイドクエスト。
エンディング:主要な結末を3~5種類程度用意する。

第3章 執筆のポイント

3-1. 選択肢の書き方
明確さ:選択肢の意味が分かりやすい表現を使う。
例)『剣を取る』『逃げる』
緊張感:どちらを選んでも魅力的な展開になるよう工夫。

3-2. 分岐後の展開
・分岐後のストーリーがそれぞれ興味深く、独立して読めるようにする。
・共通ルートと個別ルートを組み合わせ、全体の構成にバランスを持たせる。

3-3. 読者を引き込むテクニック
感情的な選択肢:道徳や感情に訴える選択を盛り込む。
例)『仲間を見捨てる』『自分を犠牲にする』
隠し要素:特定の条件でのみ解放されるルートやエンディングを追加。

第4章 エンディングの種類と書き分け

4-1. エンディングの種類
ハッピーエンド:全員が幸せになる結末。
バッドエンド:主人公や登場人物が不幸になる結末。
ノーマルエンド:可もなく不可もない結末。
トゥルーエンド:物語の核心に迫る結末。
ギャグエンド:おもしろさを重視した結末。

4-2. 読後感を操作する
ハッピーエンド:爽快感や満足感を強調する。
バッドエンド:読者に考えさせる余韻を残す。
トゥルーエンド:すべての伏線を回収し、カタルシスを与える。

第5章 実践例:プロット作成とサンプルシーン

5-1. プロット例
テーマ:『選択の代償』

主人公:平凡な大蔵キャリア官僚。ある日、ノーパンしゃぶしゃぶな異世界に召喚される。
分岐1:MOF担を討伐する/MOF担と手を組む
分岐2:ザブンする/ドブンする

エンディング
トゥルーエンド:高額所得者番付でトップ10入りする悪徳弁護士として暗躍する。
バッドエンド:大蔵省が滅びて、財務省と金融庁が誕生する。

5-2. サンプルシーン
選択肢前

東京地検特捜部が目前に迫る。あなたは疲労困憊の仲間たちを見回した。
選択肢A:『この場で東京地検特捜部を討つ』
選択肢B:『東京地検特捜部に仲間を密告して自分だけは助かる』
選択肢C:『警察庁や警視庁に手を回して捜査を中止させる』

第6章 実践ツールとアイデア発想法

6-1. 執筆ツールの活用
フローチャート作成ツール:
使いやすいツールを自分で検索して選ぶ。例としてLucidchartやXMindが挙げられるが、個人の好みに合わせた選択が重要。
ライティングツール:執筆スタイルに合ったものを選ぶ。ScrivenerやGoogle Docsなどが一般的だが、共同作業の場合はチームで共有しやすいクラウドサービスを利用し、チーム全体で最適なツールを選定することが推奨される。
黒夢さんの手法を研究してみる:どんなルールや発想法があるかを黒夢さんのnoteを読んで研究する。

6-2. 発想を広げる方法
Noteそのものを発想ツールとして活用:武智倫太郎コメント欄方式

RPGやアドベンチャーゲームをプレイ:ゲームのシナリオや世界観からヒントを得る。
ジャンルのエッセンスを取り入れる:SF、ミステリー、ホラーなど、他ジャンルの物語要素を組み合わせることで新しい展開を作る。ただし、自分の不得意分野(例:恋愛小説)については、無理に挑戦するより得意な分野に集中する方が効果的。私はロマンスポンコツなので、恋愛小説作法は私には聞かないこと。

第7章 仕上げと公開方法

読者フィードバックの収集:執筆後、オンラインプラットフォームに公開して意見を募る。例:note、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスなど。
分岐図や選択肢を視覚的に整理:ストーリーの構造をビジュアル化することで、読者が全体像を把握しやすくなるよう工夫する。

おわりに

 マルチエンディング小説は、構想や執筆に多くの時間と労力を要します。しかし、その分、読者に特別な体験を提供できるという魅力があります。本書を参考に、ぜひあなただけのオリジナルな物語を生み出してください。

 とはいえ、『書けないからこの記事を読んでいる』という方もいらっしゃることでしょう。そのため、次章では実際にマルチエンディング形式の短編シリーズを通じて、実践的な手法をお見せします。以下はその練習作品のプロローグです。

練習作品:国営トピアの野望:ロピアの逆襲

プロローグ
#なんのはなしですか

 2025年、日本。
 かつて『豊かな消費文化』として世界に知られていた日本のスーパーマーケット業界は、資本主義の崩壊と国営化政策によって激変していた。

 財政赤字の拡大や格差問題が深刻化する中、自由共産党政府は主要なスーパーチェーンを買収し、『トピア・グループ』として再編成した。

 しかし、ロピアだけはその波に飲み込まれなかった。『国に頼らない独立経営』を掲げたロピアは、スーパー激戦区の関東から全国展開を成功させ、今や唯一の民営スーパーチェーンとして残る存在となっていた。

 トピアは国営らしく、『国民全員を満足させるスーパー』を標榜していたが、実態は消費者を二極化し、富裕層向けの『ユー・トピア』と、貧困層向けの『ディス・トピア』という二つの顔を持つ巨大機関だった。どちらの区分に入るかは、政府が発行する『経済適性証明書』によって判定される。証明書は税収や購買履歴などのデータを基にAIが判定しており、市民は自分の購買行動すら監視されている現実を受け入れるしかなかった。

 一方、ロピアは派手な広告や洗脳的なスローガンに頼ることなく、『お買い得』というシンプルな言葉だけを武器に、どの層にも公平な商品を提供していた。しかし、そんなロピアが政府の標的から外れるはずもなかった──。

第一章 赤字覚悟の洗脳装置

 トピア・グループの広報部長の導師花子は、東京の夜景を見下ろしながら微笑んでいた。
『損して得取れ、か。今日のスローガンは完璧だったわね。』

 背後のディスプレイには、トピアの売上データが次々と映し出されている。

『ディス・トピアの消費者層が増加しています。特に、AI推奨の『最低限生活セット』の購入率が先月比20%上昇しました。』
 若手社員が報告するデータに導師花子は満足げにうなずいた。

 最低限生活セットとは、白米2kg、乾燥野菜パック、冷凍豆腐など、安価な食品をまとめたパッケージだ。消費者には『これを買えば、社会貢献になる』というメッセージが強調されていた。

『良い傾向ね。国民にはもっと“損する喜び”を知ってもらわなきゃ。』
 導師花子の言葉に一瞬空気が凍りついたが、若手社員は慌てて笑顔を作り、うなずいた。

ディス・トピアの現場
 その頃、東京都郊外の『ディス・トピア立川店』では異様な光景が広がっていた。店内には、消費者に『損することの美徳』を無意識に刷り込むような、ことわざや格言を朗読する電子音声が繰り返し流れていた。

♬あなたのトピア『大欲は無欲に似たり』…♬あなたのトピア『商いは牛の涎』…♬あなたのトピア『蒔かぬ種は生えぬ』…♬あなたのトピア『見切り千両』…♬あなたのトピア『損して得取れ』…♬あなたのトピア『身を斬らせて骨を断つ』…♬あなたのトピア『一歩退いて二歩進む』…♬あなたのトピア『損せぬ者は得せぬ』…♬あなたのトピア『急がば回れ』…♬あなたのトピア『虎穴に入らずんば虎子を得ず』

 薄暗い店内では、古びたカートを押す人々が無言で『最低限生活セット』を手に取って歩いている。棚の商品はどれもパッケージが簡素で、内容量は最低限に抑えられていた。

 一人の女性が、商品の値札をじっと見つめていた。
『どうしてこれ、こんなに高くなったの?』

 その問いに答えたのは、同じ棚の前に立つ初老の男性だった。
『高くなったんじゃない。これが“平等”なんだってさ。』

 その言葉に、女性はうなだれるようにカートを押し出した。その目には、かつて自由市場で感じていた活気が失われていた。

ロピアの反撃
 一方で、トピアの攻勢が続く中、ロピアの店舗はいつも通り賑わっていた。
『いらっしゃいませ! 今日のお買い得は国産牛の切り落とし! 特売です!』

 主婦たちは週替わりチラシを手にしながらカートを押し、店内は活気に満ちていた。
『なんだかんだ言って、やっぱりロピアが一番安いのよね。』
 主婦の一人が笑いながら友人に話しかける。

 しかし、その陰では政府の妨害が着々と進行していた。物流の遅延、新規店舗開設許可の不承認、税務調査の頻発など、ロピアの経営に圧力をかける手法が次々と行われていた。

『国を敵に回して、どこまで持つんだろうな。』
 トピアの上層部では、ロピアの崩壊を既定路線と見なす声が増えていた。

今後の展開

 この作品は、RPG的なマルチ展開の形式を通じて、読者の選択によって物語が進む小説作法を実演するものです。

分岐の選択肢

1.トピアの陰謀:ロピアを買収するための策動が描かれる。
2.消費者の反乱:トピアに不満を抱えた市民が団結し、ロピアを支援する運動が始まる。
3.ロピアの秘密兵器:技術革新や新しいビジネスモデルでトピアに対抗する展開。
4.意外な結末:民営と国営の対立を超える新しい『スーパーのあり方』が提示される。

 次回は『1. トピアの陰謀』を基軸とした展開をお届けします。ロピアの信念とトピアの陰謀が交錯する中、どのような選択肢が読者に提示されるのか、乞うご期待。

つづく…

武智倫太郎

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