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バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫:(ラブコメ編)
これまでのあらすじ
マンハッタンの場末の探偵事務所で、プロの殺し屋として『読まれないことを目的とした小説』を書きながら孤独に生きてきた俺は、レストランの店主からの依頼を完璧に遂行して、誰からも読まれない『未来から来た碧い猫型サイボーグのミッキーが、俺を救ってくれる近未来小説』を書いて暮らしていた。
俺がむかし書いたコミックのシナリオは、最も発行巻数が多い単一漫画シリーズとして、ギネス世界記録載ってしまった。そこで次は、逆に『最も売れなかった本のギネス記録』を狙って、講談社から経済ジャンルのハードカバーブックを書いたが、これも月間売り上げ記録で一位になってしまった。
一位になることに飽きた俺は、学術論文なら目立つことは無かろうと思い、エルゼビアで英語の学術論文も書いてみたが、学術界でも国際的な注目を浴びてしまった。読まれない文章を書くのは、意外と難しいものだ。
ところで、日本人工知能学会の同人誌のThe Japanese Society for Artificial Intelligence のIF(インパクトファクター)は、0.0(影響力0)から上昇して0.117になったようだ。これくらいマイナーな同人誌を狙えば、松尾君のように、人工知能学会論文賞くらいは取れるだろう。だが、そんな賞をもらっても、東京大学の教授なら恥ずかしくて経歴に書けない黒歴史にしかならない。
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2002年度 「語の共起の統計情報に基づく文書からのキーワード抽出アルゴリズム」
松尾 豊,石塚 満
え゛っ、松尾君って一体何年間人工知能同好会で同人誌やってたの?
松尾豊先生が人工知能学会 2016年度全国大会優秀賞を受賞しました。
それで、俺はAIを駆使してリサーチし、『バーボン』+『煙草』+『猫』を組み合わせたハードボイルド探偵小説が、最も人気が出ない可能性が高いことを突き止め、『バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫』シリーズを執筆することに決めていた。
■ ここからが本編です。
恋のトリガー:マンハッタンの殺し屋とツンデレ・サイボーグ
俺は未来のサイボーグ猫ミッキーに、『今度はラブコメが書きたいんだけと、ラブコメが書ける未来ガジェットはねぇのか?』と質問した。
何時ものミッキーならこの手の質問には、『そんなに怠けてちゃぁ、ダメな大人になっちゃうよぉ』的な小言を言うところだ。ところが、今日のミッキーは、目をキラキラさせて、『で、どんなラブコメが書きたいの?』と何故か嬉しそうだった。そう、ミッキーは、どら焼きと、しょこたんと、ラブコメが大好きだったのだ。
『俺とミッキーが恋してもラブコメにはならないだろう? お前には性別とかないし、そもそも恋愛対象じゃないしな…。』と俺はぼやいた。
するとミッキーは、『ボクはサイボーグだから性別は無いけど、女性タイプのアンドロイドに変身できるよ。それで、キミはどんなタイプの女の子が好きなのっていうか、キミって中年オヤジだよね。いまさらラブコメって無理過ぎじゃない?』と痛いところを突いてきた。
『俺はイタリア系移民で、マンハッタンで殺し屋をしてるんだから、マチルダみたいな娘と恋をしたっていいじゃないか…』と俺が言うと、ミッキーから『いや、それって、レオンのパクリでしょう。パクリはダメだよ』とダメだしされてしまった。
『じゃぁ、マンハッタンの探偵が、未来のツンデレタイプの猫耳アンドロイドを好きになる話なら良いんじぇねぇの?』と俺が言うと、『キミって、ツンデレ好きだよね』とミッキーがすかさずツッコんだ。
『べ、別にそんなこと書いたのもう忘れてたし、ツンデレテストの論文書きかけたからって、全然、そんなんじゃないし。でも、だからってツンデレが嫌いだって言っているんじゃないからな。碧い髪でツンデレな猫耳アンドロイドなら、好きになるしかないでしょう普通…』
ミッキーはどこでそんなくだらないセリフを機械学習したのか『それってあなたの趣味ですよね?』と言った。
『そんな、2ちゃんのひろゆきみたいなバカっぽい話し方は止めてくれないか? 碧い髪のマチルダボムのツンデレ猫型アンドロイドさえいれば、今度は絶対に読まれない作品を書く自信があるから』と、俺はこのコンセプトに乗ってくれる絵師を探しに、Twitterを彷徨うことにした。
つづく…