廃食油ビジネスの闇
日本の植物油の自給率は極めて低く、食用油に限ってもわずか約4%とされています。しかし、実際には植物油は工業用にも大量に使用されており、日本の実質的な植物油自給率はせいぜい2%以下です。
さらに、この2%の植物油を生産するために必要な化学肥料の大半や農機の燃料、搾油工場のボイラー燃料、電力の元となる化石燃料もほぼすべて輸入に依存しています。そのため、実質的な日本の植物油自給率はゼロと言っても過言ではありません。
国内で植物油を生産すると、膨大なエネルギーを消費するため、エネルギー収支の観点からは植物油自給率はマイナスとさえ言えるでしょう。このように、日本の植物油のほとんどは輸入に依存しており、特にパーム油、大豆油、菜種油がその中心を占めています。日本はこれらの油を主にインドネシア、マレーシア、カナダ、アメリカなどから輸入しています。
日本における廃食油の現状
日本では年間約38万トンの廃食油が発生しています。そのうち25万トンは国内でリサイクルされ、主に家畜の飼料やインク、石鹸などの工業製品に利用されています。また、約13万トンがバイオ燃料の原料として主に海外に輸出されています。
しかし、日本国内でSAF(持続可能な航空燃料)製造用に利用可能な廃食油はゼロに近い状況です。それにもかかわらず、数十社が日本には50万トンの廃食油があると宣言し、その廃食油を用いて環境に優しい製品を生産するとしています。仮に20社がそれぞれ50万トンを使用するとすれば、年間1000万トンの廃食油が必要となります。しかし、実際には世界中を探してもそのような大量の廃食油は存在しません。
廃食油の価格高騰と逆ザヤ現象
最近の円安の影響で、廃食油の輸出価格が1キログラム当たり300円を超えるケースが見られるようになりました。これは、主にバイオ燃料、特にSAF(持続可能な航空燃料)への需要増加によるものです。世界的にバイオ燃料の需要が高まっており、特に欧州では厳しい環境規制の影響で、廃食油を原料とするバイオ燃料の価値が上昇しています。これが輸出価格の高騰を引き起こしている主な要因です。
一方で、バージンパーム油の価格は1キロ当たり150円以下で取引されることが多く、これにより廃食油の価格がバージンオイルを上回る『逆ザヤ』現象が発生しています。この逆ザヤは、バイオ燃料やリサイクル業界における需要と供給の不均衡が原因です。廃食油は持続可能な燃料としての価値が高まっている一方で、パーム油の価格は豊富な供給と安定した生産により低価格に留まっています。
パーム油の世界的な生産と利用
世界の主要な植物油の生産量を比較すると、パーム油が圧倒的に多く、コスト面でも非常に安価です。2020年のデータでは、パーム油の生産量は約7300万トンで、世界の植物油生産の約35%を占めています。主要な生産国はマレーシアとインドネシアで、世界の生産量の約85%を担っています。
ビクトリー焼きそば麺の製造に欠かせないパーム油
パーム油が即席フライ麺の製造に使用される主な理由は以下の通りです。
コストの低さ:パーム油は他の植物油と比べて生産コストが低く、大量生産を行う食品産業にとって非常に経済的です。
揚げ物に適した特性:高い酸化安定性を持ち、長時間高温にさらされても品質が劣化しにくいため、不健康な揚げ物に最適です。
多機能性:常温で液体(オレイン)と、固体(ステアリン)の両方の形で利用でき、食品加工の様々な場面で活用できます。コンビニで売っている食品の80%以上にはパーム油が使われています。
即席麺の製造過程では、麺を揚げて脱水し、長期保存を可能にしています。この揚げ油としてパーム油が選ばれるのは、経済的で安定性が高いからです。
パーム油の種類と用途
パーム油にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる用途に利用されています。クルード・パーム油(CPO)は、未精製のオレンジ色の油で、ビタミンAやビタミンEを豊富に含んでいます。精製後は、食品の原料やバイオ燃料の原料として使用されます。未精製の状態では、ナッツのような独特な香りがあり、アフリカやアジアの料理で風味のベースとして使われることがあります。
RBDパーム油:精製、漂白、脱臭されたパーム油で、食品加工や化粧品、工業製品に広く利用されています。
RBDパームオレイン(RBDPO):液体部分で、調理油として人気があり、揚げ物に適しています。
RBDパームステアリン(RBDPS):固形部分で、石鹸やキャンドル、バイオ燃料の原料として使用されます。
RBDパーム核油(RBDPKO):パームの種から抽出され、化粧品や石鹸、洗剤の原料として利用されます。
パーム油の価格動向
日本のパーム油のCIF価格(1トン当たり)は、2017年から2023年にかけて以下のように推移しています。
2017年:平均約735ドル(1kgあたり100円未満です)
2018年:平均約614ドル
2019年:平均約586ドル
2020年:平均約760ドル
2021年:平均約1030ドル
2022年:平均約1572ドル
2023年:1月時点で約1030ドル(徐々に減少)
これらのデータから、パーム油のCIF価格は2020年から急激に上昇し、2022年にピークに達した後、2023年には再び低下傾向にあることが分かります。価格の変動は、世界的な需要、供給の不安定さ、燃料や物流コストの影響を受けています。
結論
日本の廃食油ビジネスは、供給量と需要のバランスが大きく崩れており、廃食油の価格がバージンパーム油を上回る逆ザヤ現象が発生しています。これは、持続可能な燃料への需要増加と、それに伴う廃食油の価値上昇が原因です。
しかし、国内の廃食油の供給量には限りがあり、多くの企業が掲げる目標を達成するには現実的な課題が存在します。今後、持続可能な資源の活用と現実的な供給計画の策定が求められています。
このような日本の歪な廃食油ビジネスを助長させたのが、小泉進次郎元環境大臣と、小池百合子東京都知事なのです。
環境大臣を二年間務めた経験を活かし、環境と経済の好循環を生み出していきます。
武智倫太郎
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