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環境問題を理解するために必要なプラスチックの基礎知識 (2)

豆知識:英語で『CHINA』には陶器という意味がありますが、『JAPAN』にはどのような意味があるでしょうか?

正解:漆(うるし)

 前回は樹脂の歴史として松脂についてお話しましたが、『漆』は現代の最新科学技術でさえも追随できない、最強の塗装材料の一つです。適切に保存された漆は、千年以上の耐久性を持つ可能性があり、これは人工塗料では実現が難しい長寿命です。漆も塗装用の樹脂の一種です。

 漆器が『JAPAN』として知られるほど、日本の塗装技術は、歴史的に非常に高く評価されてきました。このような背景から、現代でも日本の塗装技術や塗料製造技術は世界的に高い評価を受けています。また、バイオプラスチックの分野でも、日本がリードしている技術や研究が存在します。

バイオプラスチックのお話し

 バイオプラスチックは、従来の石油由来のプラスチックとは異なり、再生可能な生物資源(バイオマス)を原料として製造されるプラスチックです。バイオプラスチックは大きく分けて『バイオマス由来プラスチック』と『生分解性プラスチック』の2つのカテゴリに分類されます。

1.バイオマス由来プラスチック

 バイオマス由来プラスチックは、炭水化物、脂質、蛋白質などの生物由来の成分から作られることが可能です。これにより、石油資源の枯渇を防ぎ、製造過程での二酸化炭素排出量を削減することが期待されます。ただし、バイオマス由来プラスチックの全てが生分解性を持つわけではなく、廃棄後の処理方法は従来のプラスチックと同様の場合もあります。

炭水化物由来:このタイプのバイオプラスチックは、主にトウモロコシやサトウキビなどの植物から得られるデンプンや糖を原料として製造されます。

脂質由来:植物油や動物油から得られる脂質を原料にしたバイオプラスチックです。

蛋白質由来:動植物の蛋白質を原料としたバイオプラスチックです。

 代表的なバイオマス由来プラスチックには、以下のようなものがあります。

ポリ乳酸(PLA):トウモロコシなどから得られるデンプンを発酵させて乳酸を生成し、これを重合して作られます。PLAは生分解性も持っていますが、特定の条件下でのみ分解されます。

バイオポリエチレン(Bio-PE):サトウキビから得られるエタノールを原料として製造され、石油由来のポリエチレンと同じ化学構造を持つため、リサイクルも可能です。

2.生分解性プラスチック

 生分解性プラスチックは、環境中で微生物の働きによって分解され、水と二酸化炭素、あるいはメタンなどの無害な物質に変わる特性を持つプラスチックです。これにより、従来のプラスチックが引き起こす環境問題、特に海洋プラスチック問題の軽減が期待されます。

 生分解性プラスチックの例には、以下のものがあります。

ポリ乳酸(PLA):上記のバイオマス由来プラスチックでもあるPLAは、生分解性も持ちますが、特定の温度と湿度条件が必要です。

ポリヒドロキシアルカノエート(PHA):特定の微生物によって生成されるポリエステルで、生物由来であるだけでなく、自然界でも生分解されやすい特性を持っています。

ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT):石油由来の成分を含みますが、生分解性を持つプラスチックで、従来のプラスチック製品の代替として使用されています。

バイオプラスチックの利点と課題

利点
・再生可能資源の利用により、石油資源の節約が可能。
・生分解性を持つものは、適切な環境下で分解され、廃棄物問題の軽減に貢献するかも知れない。
・製造時の二酸化炭素排出量が少ない場合があり、カーボンフットプリントの削減が期待できる。

課題
・生分解性プラスチックの分解には特定の条件が必要で、すべての環境で分解されるわけではない。
・バイオマスの生産には農地や水資源が必要で、これが食糧生産と競合する可能性がある。
・生産コストが従来のプラスチックよりも高い場合があり、価格競争力に欠けることがある。

 バイオプラスチックは持続可能な社会を目指すための一つの手段として注目されていますが、これを普及させるためには、技術革新とともに、適切なインフラの整備や政策の支援も必要です。

植物油から作られるバイオプラスチック

 植物油から作られるバイオプラスチックは、植物由来の油脂を原料として合成されるプラスチックの一種です。これらのバイオプラスチックは、再生可能な資源から製造されるため、持続可能性を高める目的で利用されています。

植物油由来のバイオプラスチック
 植物油は主にトウモロコシ、大豆、ヤシ、菜種などから抽出されます。この油脂を化学的に加工し、モノマーに変換して重合させることで、さまざまな種類のバイオプラスチックが製造されます。これにより、植物油を原料とするバイオプラスチックは、石油資源の代替として利用され、持続可能な材料として注目されています。

代表的な植物油由来のバイオプラスチック
ポリウレタン(PU):植物油から抽出される脂肪酸を原料として合成されます。これにより、従来の石油由来のポリウレタンに比べ、環境負荷を低減することが可能です。ポリウレタンは柔軟性や耐久性が高いため、フォーム材、接着剤、塗料など幅広い用途で使用されています。

ポリエステル(PET): 植物油から得られる脂肪酸を化学反応させることで、ポリエステル樹脂が製造されます。この樹脂は、繊維、ボトル、フィルムなどの用途に使用されており、リサイクル可能であることが多いです。

エポキシ樹脂(EP): 植物油を原料としたエポキシ樹脂も開発されており、これは高強度、高耐久性の材料として建築や自動車産業で利用されています。

植物油由来のバイオプラスチックの利点と課題
利点
再生可能資源の利用:植物油は再生可能な資源であり、持続可能なプラスチック材料として期待されています。

カーボンフットプリントの削減:植物由来であるため、製造過程での二酸化炭素排出量が石油由来のプラスチックに比べて少ない場合があります。

生分解性の向上:一部の植物油由来プラスチックは生分解性を持つため、環境中での分解が期待されます。

課題
生産コストの高さ:植物油由来のプラスチックは、現時点では石油由来のプラスチックよりも生産コストが高いことが多いです。

生産効率の改善が必要:大量生産にはまだ技術的な課題が残っており、効率の向上が求められます。

環境条件による分解の制限:生分解性を持つ場合でも、特定の条件が整わないと分解が進まないことがあります。

 植物油由来のバイオプラスチックは、持続可能な社会の実現に向けた重要な技術の一つですが、今後の研究開発や生産技術の進歩によって、さらに普及が進むことが期待されています。

動植物の蛋白質から作られるバイオプラスチック
 動植物の蛋白質から作られるバイオプラスチックは、再生可能な生物資源である蛋白質を原料として製造されるプラスチックの一種です。これらのバイオプラスチックは、持続可能性や環境への配慮を考慮して開発されており、従来の石油由来のプラスチックに代わる素材として注目されています。

動植物の蛋白質を利用したバイオプラスチック

 蛋白質由来のバイオプラスチックは、動物や植物から抽出された蛋白質(例:ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白質)を加工して製造されます。蛋白質は、アミノ酸が結合して形成される高分子化合物であり、適切な化学処理を施すことで、プラスチック様の材料に変換できます。

代表的な蛋白質由来のバイオプラスチック
ゼラチンベースのバイオプラスチック:
ゼラチンは、動物のコラーゲンから得られる蛋白質で、特定の化学処理を行うことで、フィルムや包装材料として利用できるプラスチックに加工されます。ゼラチンは水溶性であり、柔軟性を持つため、食品包装やカプセルなどに利用されています。

カゼインベースのバイオプラスチック:カゼインは牛乳に含まれる主要な蛋白質で、これを加工することで生分解性を持つプラスチックを製造することができます。カゼインプラスチックは、20世紀初頭からボタンや小物の製造に使用されており、近年では再注目されています。

大豆淡泊質ベースのバイオプラスチック:大豆淡泊質は、植物由来の蛋白質として利用されており、加工を経てフィルムや成形体などのプラスチック製品を作ることができます。大豆由来のプラスチックは、生分解性が高く、環境負荷を低減するための材料として期待されています。

蛋白質由来のバイオプラスチックの利点と課題
利点
再生可能資源の利用:動植物から得られる蛋白質は再生可能であり、持続可能な材料として利用できます。

生分解性:多くの蛋白質由来のプラスチックは生分解性を持ち、適切な環境下で自然に分解されるため、環境負荷を低減できます。

課題
水分への弱さ:多くの蛋白質由来のプラスチックは、水分や湿度に対して脆弱であり、使用環境に制限があることが多いです。

機械的特性の改善が必要:蛋白質由来のプラスチックは、石油由来のプラスチックと比べて、強度や耐久性に劣ることがあります。このため、機械的特性を向上させるための改良が必要です。

生産コストの高さ:原料調達や製造プロセスにコストがかかるため、価格競争力において課題があります。

アレルギー性: 蛋白質由来のバイオプラスチックは、特定の蛋白質(例えば、カゼインやゼラチン)にアレルギーを持つ人々に対してアレルギー反応を引き起こす可能性があります。したがって、食品包装や医療用材料に使用する際には、アレルギーリスクを慎重に評価する必要があります。

 蛋白質由来のバイオプラスチックは、特に食品業界や医療業界での利用が進んでおり、持続可能な社会を目指す上での重要な材料としての地位を確立しつつあります。技術開発が進むことで、さらに多様な用途での利用が期待されています。

結論

 このような様々なプラスチックの応用分野を理解すると、レジ袋の有料化が本質的な解決策ではないことが分かるでしょう。

武智倫太郎

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