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そして誰も金がおろせなくなった

武智倫太郎

 名探偵の白痴小五郎は、謎めいた招待状を受け取っていた。送り主は匿名で、集合場所は東京の高級ホテルの一室。招待の理由は『謎のシステムダウン』に関する相談だった。

 白痴小五郎が指定された部屋に到着すると、そこには既に8人のゲストが集まっていた。彼らも同様に不可解な招待状を受け取っていた。その中には銀行員、情報技術者、ジャーナリスト、警察官、弁護士、作家、俳優、そして謎に包まれた女性がいた。

 突如、部屋のテレビが点灯し、『呪縛ゲーム事務局のディーラーの金融庁です。皆さんをここに集めたのは、呪縛銀行のATMシステムダウンの謎を解くためです』と不気味な声が響き渡った。

 金融庁は『呪縛銀行のシステムダウンは、毎月繰り返される大事件であり、日本中の多くの人々が影響を受けています。犯人はこの中にいます。誰が犯人か推理して見つけてください』と呪縛ゲームのルールを説明した。

 白痴小五郎は冷静に状況を分析し、各人の背景に着目した。銀行員は銀行の内部情報を持っており、情報技術者はシステムの脆弱性に精通しているかもしれない。ジャーナリストは事件の裏側を知っている可能性がある。

 しかし、その夜、予期せぬ方向へと事態は進展した。部屋に仕掛けられたドラッグのオーバードーズにより、俳優が命を落とした。彼のポケットからは、呪縛銀行のATMカードが発見された。

 この死は偶然ではない。白痴小五郎は『この集まりは単なる相談ではなく、犯人を暴くための罠だ』とドヤ顔で結論付けて『残された客の中に犯人がいる』と断言した。しかし、他の6人は同時に『いや、だから、さっき金融庁がそう言っていたのを聞いてなかったんかい!』とツッコんだ。

 緊迫する中、次々と不審な出来事が発生した。弁護士が忽然と姿を消し、謎の女性が怪我をした。しかし、白痴小五郎の推理は止まらない。彼は緻密な観察と論理で、真実に迫っていった。

 最終的に白痴小五郎は事件の真相を明らかにし、犯人がジャーナリストであると断言した。ジャーナリストは大スクープを狙って、このシステムダウンを計画したのだった。そして、集まった他の人々は、彼の計画を知る可能性がある人物たちであった。

 犯人であるジャーナリストは逮捕され、事件は一見解決したかのように見えたので、白痴小五郎は『真実は常に一つ。だが、その道は多くの謎に満ちている』と満足げに呟いた。

 ところが、ジャーナリストが逮捕されても、呪縛銀行のシステムダウンの技術的な問題が解決されたわけではないので、その後も呪縛銀行のシステムダウンは毎月繰り返され、最終的にはシステムが完全に復旧できなくなってしまった。

 そして、誰も金をおろせなくなった。

-完-

自己解説

『そして誰も金がおろせなくなった』は、金融システムの脆弱性と、それに伴う人間の複雑な心理を巧みに描いた武智倫太郎風の文芸作品です。この短編小説は、名探偵の白痴小五郎を中心に展開されるミステリー小説っぽい作品であり、現実世界の金融機関のシステム障害のなかでも、特に、みずほ銀行の問題をモチーフにしています。白痴小五郎は、謎めいた招待状を受け取り、東京の高級ホテルで開かれる会合に出席します。これは甲斐谷忍原作のライアーゲームのパロディです。

 そこでは、様々な職業の人物たちが集められ、共通の問題である『呪縛銀行』のATMシステムダウンの謎を解くために協力を求められます。

 呪縛銀行の由来は以下の記事を読むと分かるでしょう。

 物語の核心は、技術的なシステムダウンの謎解きとは関係のない人間ドラマです。登場人物たちがそれぞれに秘めた動機や背景を持ち、それが物語の進展にちょっとだけ影響を与えます。白痴小五郎は、彼らの言動を観察し、彼らの専門知識や個人的な関係性を駆使して謎を解き明かしったっぽい感じを出しています。このプロセスは、現代社会でのプロフェッショナリズムと個人的な利害がどのように絡み合うかを示唆しているようであり、実は何も示唆していないのです。

 このショートショートは金融機関の内部における組織的な問題点をも浮き彫りにしていることを行間から読み取る必要があります。みずほ銀行の実際の問題は、人員削減や組織改革の影響、コミュニケーション不足や内向きの姿勢が原因であることが示唆されており、これらの要素が物語の中でも重要な役割を担っていることが、以下の特別付録を読むと分かる画期的な小説作成手法です。このように、本作は単なるミステリーではなく、組織のダイナミクスや現代社会の構造的な問題を掘り下げていると、著者の武智倫太郎本人が解説しているので間違いありません。

 また、物語の結末では、事件解決にもかかわらず、システムの根本的な問題が解決されないままであることが明らかになります。これは、現実世界における類似の問題が、単一の事件の解決だけでは根本的な解決には至らないという事実を反映しています。物語は、技術的な問題解決だけでなく、組織文化や人間の行動の変革が必要であることを暗示しています。

 この小説は、単なるエンターテイメント以上の価値を持ちます。それは、現代の金融システムとテクノロジーの問題点、そしてそれに伴う人間性の問題を深く掘り下げ、読者に考察を促すものです。白痴小五郎のキャラクターは、この複雑な問題を解き明かすための鍵かも知れないと読者は考えてください。彼は事件に隠された複数の層を見抜く洞察力を持っているかも知れませんが、実際にはボケキャラなところが、武智倫太郎小説の特徴です。

 この小説は現代の金融システムの脆弱性と、それを取り巻く人間の複雑な心理や組織の問題を巧みに描き出しています。この物語は、技術的な問題だけでなく、人間性や組織文化の重要性を強調し、読者に深い思索を促す作品となっていますと自画自賛するところが、この自己解説の恥ずかしいところです。

特別付録

 以下の『呪縛』のサイバーセキュリティ経営宣言を読むとまさにダメサラリーマンが学ぶべき『言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢』の鑑だということが分かります。

ボーナストラック

つづく…

武智倫太郎

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