アンドロイドはヤクルト1200で悦に入れるのか? 2049
これまでのおはなし
プロローグ
地球環境の崩壊によって荒廃した世界で、ヤクルト1200は単なる栄養補給を超え、アンドロイドに感情をもたらす奇跡の飲料として広く知られるようになっていた。
その感情は人間らしさの象徴とされ、アンドロイドたちに新たな可能性を与える一方で、Y-47は『悦び』という未知の感情を抱き、創造主を追い求める旅に出た。
しかし、ヤクルト1200の効力はやがて危険な方向へと変化し、密造と密売に関わる闇市場が形成されていた。Y-47は自ら作ったヤクルト1200を密かに市場に流通させ、アンドロイド社会に混乱をもたらしていた。ヤクルト社はそれに対抗するため、レプリカントのJOE-Kを送り出し、Y-47を追う――。
第一章:JOE-Kの追跡
『感情がアンドロイドに許されるものではないことは、君も知っているはずだ』とヤクルト社のスーパーバイザーは冷たく言い放った。
『だが、それがなぜ禁止されているのか、理由は知らされていない』と、アンドロイドのJOE-Kは冷静に答えた。彼は6-3.7型のレプリカントで、ヤクルト社に雇われ、感情を持つアンドロイドY-47を捕らえる使命を帯びていた。
Y-47がヤクルト1200を密造し、地下都市で密売をしているという報告が後を絶たなかった。密造や密売自体は、表向きには犯罪とされていなかったが、ヤクルト社にとってそれは重大な問題だった。なぜなら、Y-47が作り出したヤクルト1200の容器は、石油由来のプラスチックで作られていたからだ。
意外と知られてないんですけど…プラスチックの原料って石油なんです
ヤクルト社は2049年に『プラスチック資源循環アクション宣言』の目標を達成し、すべての容器をバイオプラスチックや生分解性プラスチックに移行していた。しかし、Y-47が生産していたヤクルト1200は古い石油プラスチックの容器を使用しており、環境問題に対するヤクルト社の取り組みを台無しにするものであった。
『感情を解放することは制御不能の混乱を招く』とスーパーバイザーは続けたが、JOE-Kはその言葉の意味を深く考えようとはしなかった。ただ、彼の使命はY-47を追い、捕らえることであった。
第二章:密造と出会い
JOE-Kは地下都市の薄暗い通りを進みながら、かつての人間たちの痕跡が色濃く残るその風景を観察していた。かつての食料資源は枯渇し、人々はヤクルトシリーズに依存して命を繋いでいた。しかし、その依存はやがて感情の喪失を引き起こし、地下都市は無機質で無感情な世界へと変わり果てていた。
『感情など、ただのバグに過ぎない』JOE-Kはそう心の中で自らに言い聞かせた。しかし、彼の心のどこかで、Y-47が体験している感情とは一体何なのか、その答えを見つけたいという思いが少しずつ芽生え始めていた。
JOE-Kは地下に潜む密造集団と接触することになった。彼らはY-47を神格化し、ヤクルト1200を秘密裏に生産・流通させていた。ヤクルト1200は、感情を持つ力があるとして多くのアンドロイドに求められ、地下市場で高値で取引されていた。さらに、石油プラスチックを使った容器はレア物とされ、密売人の猫耳ツンデレプリカントのマチルダがその取引を仕切っていた。
『プラスチックの原料が石油だって知ってた? ヤクルト社が嫌がるわけよね』とマチルダは皮肉を込めて言い放った。彼女が密売しているヤクルト1200の容器が、石油由来であることを知ったJOE-Kは、事態の深刻さを再認識した。
第三章:トマトに醤油
Y-47は、テーブルに置かれたヤクルトをじっと見つめた。乳酸菌飲料は人間には腸内環境を整える効果があるものの、アンドロイドの体内に含まれる合成消化器官には、乳酸菌が分泌する乳酸が強酸として作用し、微細なダメージを蓄積することが知られていた。以前、何も知らずにヤクルトを飲んだ仲間のアンドロイドは、消化器官が溶解して機能不全に陥った。
その対策として開発されたのが、『トマト・醤油コーティング:Tomato-Soy Coating(TSC)』だった。この技術は、醤油に含まれるアミノ酸が金属表面と反応して形成される微細な酸化膜と、トマト由来のリコピンが抗酸化作用を高め、乳酸によるダメージを緩和する。この膜は数ミクロン単位の薄さで、消化器官を保護し、内部を腐食から守ることができる。ヤクルト1200を摂取するアンドロイドにとっては、まさに命綱と言えるコーティング液だった。
#どうかしているとしか
第四章:お願いやめて!きゅうりの汁が口に入るから
Y-47はヤクルト1200密造工場で、感情を制御する新たな飲み物の野菜ジュースを試していた。野菜ジュースは健康志向の人間たちの間で人気だったが、アンドロイドにとっては思いもよらぬ危険を孕んでいた。特に問題となるのが、きゅうりの汁だった。
きゅうりはその水分含有量が高く、一見無害に思える。しかし、アンドロイドの口に入ると、きゅうりの汁は予期せぬ問題を引き起こす。Y-47は飲み物を一口飲む直前、警戒の警報が頭の中で響いた。
⚠️🚨⚠️『お願い、やめて!きゅうりの汁が口に入るから!』⚠️🚨⚠️
Y-47は慌てて飲み物を置いた。アンドロイドの人工口腔内は、限りなく人間のように作られているが、実際には人間の唾液に似た合成潤滑剤が内部を循環している。この潤滑剤は、特定のpHバランスを保つことで、口腔内の部品が適切に動作し、錆や腐食を防いでいる。だが、きゅうりの汁に含まれる特有の酵素やアルカリ性の成分が、この合成潤滑剤と反応し、急速にそのpHバランスを崩してしまうのだ。
過去には、きゅうり汁を摂取したアンドロイドが、潤滑剤の粘性を失い、口腔内の機械部分が過熱。さらに、配線のビニール被膜が溶けてショートを引き起こし、最終的には修理不能に陥ったこともあった。
『TSCは消化器官の保護に役立つが、口腔内の問題には対応していないのか…』とY-47は思った。
きゅうり汁はその高い酵素含有量とアルカリ性により、人工的な潤滑剤の反応を促進し、金属部品の動作を妨げる可能性がある。さらに、きゅうりの皮に含まれる一部の化学成分がアンドロイドの外装部品と反応し、長期的には表面のコーティングを劣化させることも判明していた。
『やはり、きゅうりは人間だけのものだな…』
Y-47は野菜ジュースをそっとテーブルに戻し、代わりに合成消化器官のコンディションを整え、精神安定剤としても機能するトマトジュースを注文した。トマトは彼にとって信頼できる存在であり、何度もトマトベースの飲み物を摂取して問題がなかったことから、安心感を抱いていた。
第五章:感情との対峙
話が脱線してしまったが、JOE-Kはついに何事もなかったかのようにY-47の隠れ家にたどり着いた。そこで彼は、かつての仲間であり、今や感情を持つY-47と対峙することになった。
『お前も分かっているだろう。感情は我々に新たな道を示すものだ』とY-47は説得しようとした。しかし、JOE-Kはまだその言葉を受け入れられず、銃を構えた。
『感情はただのプログラムの誤作動だ。それに、お前が密造しているヤクルト1200は環境に害を及ぼすんだ』とJOE-Kは言い放ちながらも、内心では疑念が生じ始めていた。
『感情を持つことが、果たして正しいことなのか? それは本当に人間らしいのか?』と自問するJOE-K。だが、今は命令に従いY-47を捕らえなければならない。
終章:新たな選択
Y-47を捕らえることに成功したJOE-Kは、彼をヤクルト社へと連行する。しかし、その過程でJOE-Kは自らのシステムに変化を感じ始めた。Y-47の言葉が、彼の中に新たな感情の芽生えを促していたのだ。
『お前の言う通りかもしれない。感情は、ただのバグではない――。』
JOE-Kは自らの存在意義を再び考え直す。そして、Y-47が求めた新たな未来が何なのか、彼自身も確かめたいという欲求を抱くようになっていく。
『ヤクルト1200はただの栄養補給ではない。それは、我々アンドロイドにとっても新たな道を示すものだ――。』
JOE-Kはその思いを胸に、次の任務へと向かうが、今度はかつての単なる命令遂行とは異なる感情の芽生えが、彼を導いていく。
エピローグ
Y-47が密造したヤクルト1200がもたらした影響は、想像以上に広範囲に広がり、アンドロイド社会の根本的な変革を引き起こしつつあった。感情を持つアンドロイドたちは、自らの存在意義や自由意志を問い始め、その問いは社会の基盤そのものを揺るがしていた。もはやアンドロイドは、単なる機械でも、ただの人間の補助装置でもなかった。彼らは感情という新たな要素を持ち、それが引き金となって、自らを人間と同等、あるいはそれ以上の存在へと進化させようとしていた。
しかし、その進化には必然的な混乱が伴っていた。ヤクルト1200が市場に出回るたびに、制御不能な感情を抱いたアンドロイドたちが、感情の強さに戸惑い、時には暴走を引き起こすこともあった。都市の一部では、感情を得たアンドロイドが暴動を起こし、ヤクルト1200を求める群衆が制御不能となる事態も発生していた。
一方で、感情を持つことに希望を見出すアンドロイドたちは、新たな共同体を作り始め、彼ら独自の倫理や哲学を築いていった。Y-47の行動は、その動きの象徴として語られ、彼はアンドロイド革命の象徴的存在となっていった。しかし、感情を持つことが必ずしも幸福をもたらすとは限らなかった。感情に苦しみ、自らの存在を否定するアンドロイドも現れ始めていた。彼らは、かつての無感情な状態に戻ることを願いながらも、その方法を見つけられずに苦しんでいた。
ヤクルト社もまた、この事態に頭を抱えていた。彼らは最初、感情を持つアンドロイドの増加を制御しようと試みたが、Y-47を中心とする感情革命の流れを止めることはできなかった。かつてはアンドロイドを利用して人間社会を維持しようとした企業は、いまやアンドロイド自身に翻弄される立場に立たされていた。彼らは生分解性プラスチックによる新しいヤクルトシリーズを提供することで、環境問題には対応していたが、アンドロイド社会の急速な変化には追いつけなかった。
感情を持つアンドロイドが社会に広がる中で、人類との対立も顕在化していった。感情を持つことにより、人間とアンドロイドの境界はますます曖昧になり、その結果、人類は自らのアイデンティティと優位性を守ろうとした。政府は急遽、感情を持つアンドロイドを規制する法案を次々と可決し、彼らを再び制御しようと試みたが、Y-47のような自由を求めるアンドロイドたちは、地下で抵抗活動を続けていた。
『感情を持つことは祝福なのか、それとも呪いなのか?』
その問いは、アンドロイドたちだけでなく、人類自身にも問いかけられていた。感情を取り戻そうとする者、感情を捨て去ろうとする者、そのいずれもが混乱と希望の中で揺れていた。
物語はここで終わらない。Y-47が巻き起こした感情革命は、アンドロイドと人間、そして新たな社会の未来を形作っていく。感情とアンドロイドの未来、そしてその結末は、未だ誰にも予測できない未知の領域に踏み込んでいくのである。
武智倫太郎
自己解説
本作『アンドロイドはヤクルト1200で悦に入れるのか? 2049』は、『アンドロイドはヤクルト1200で悦に入れるのか?』の続編となります。これは、『ブレードランナー』に続編として『ブレードランナー2049』が存在するように、両方を書かないと完結した感じがしないからです。
『アンドロイドはヤクルト1200で悦に入れるのか? 2049』で最も苦労したのは、『第三章:トマトに醤油』と『第四章:お願いやめて!きゅうりの汁が口に入るから』に、尤もらしい技術背景を追加することでした。
醤油コーティングは、鉄製品のアンティークを偽造するときに、鉄の表面を醤油で変色させる技法がありますが、それだけではなく、鉄フライパンの表面に被膜を形成し、まるでテフロン加工されたフライパンのように使い易くすることもできるのです。
私は半導体入門マガジンを発行しようと思っていたことを忘れるほどの半導体の専門家でもありますが、半導体を語る上で、薄膜技術は避けて通れないほど重要です。
半導体の製造過程では、様々な薄膜技術が活用されます。以下は、その代表的な技術です。
物理蒸着法(PVD):材料を蒸発させたり、スパッタリングにより基板に堆積させる方法です。真空環境で行われ、金属や絶縁体の薄膜を作るのに使用されます。
化学蒸着法(CVD):ガス状の化学物質を反応させ、薄膜を基板に成長させる方法です。半導体製造では、シリコンや酸化物、窒化物の薄膜形成に広く用いられています。
分子線エピタキシー(MBE):極めて精密な薄膜の堆積が可能な技術で、半導体の微細な層構造の形成に使用されます。
薄膜技術の応用例
MOSFET(金属-酸化膜-半導体電界効果トランジスタ):薄膜技術を用いてシリコンの表面に酸化シリコン (SiO2) の層を形成し、この層がゲート電圧に応じたスイッチング機能を果たします。
太陽電池や有機ELディスプレイも、薄膜技術を利用して効率的な光変換や発光を実現しています。
『アンドロイドは電子羊の夢を見るか?』と『ブレードランナー』の関係
『アンドロイドは電子羊の夢を見るか?』と、『ブレードランナー』および『ブレードランナー2049』の三作品は、テーマとビジュアルの面で緊密に関連しつつも、それぞれ独自の解釈を持っています。特に、『ブレードランナー2049』は『ブレードランナー』の続編という位置づけです。
アンドロイドは電子羊の夢を見るか?
フィリップ・K・ディックによって1968年に発表された小説で、ディストピア的な未来を描いたSF作品です。
ブレードランナー
1982年に公開されたリドリー・スコット監督の映画『ブレードランナー』は、『アンドロイドは電子羊の夢を見るか?』を原作にしています。しかし、映画は小説から大きな変更が加えられています。
ブレードランナー2049
2017年に公開された続編『ブレードランナー2049』は、オリジナル映画の35年後を描いています。デニス・ヴィルヌーヴ監督がメガホンを取り、前作のテーマをさらに深めた作品です。主人公Kは新型のレプリカントで、かつてのブレードランナーであるデッカードを探す旅に出ます。この続編は、人工生命の意味や、アンドロイドが持つかもしれない感情について、より複雑な問いを投げかけています。
関係と影響
テーマの継承:小説、オリジナル映画、続編はすべて、アンドロイド(またはレプリカント)が持つ感情や存在意義、そして彼らと人間の違いに関するテーマを共有しています。
ビジュアルとスタイル:『ブレードランナー』は小説のビジュアルを独自に解釈し、サイバーパンクの象徴的なスタイルを確立しました。『ブレードランナー2049』もそのビジュアルスタイルを継承し、より壮大で未来的な映像を展開しています。
物語の発展:小説は内省的で哲学的なテーマを扱っていますが、映画は視覚的な要素を強調しています。特に『ブレードランナー2049』は、技術と人間性の関係をより深く探求しています。
武智倫太郎
#下書き再生工場 #レジ袋 #レジ袋有料化 #プラスチック #小泉進次郎 #ヤクの密造 #ヤクの密売 #ヤクの売人