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永田町怪談:日本経済破綻の巻(稲川淳二風)

 皆さん、今日はとっておきの話をお届けします。これはね、令和の時代に実際に起こった出来事なんです。

 東京の永田町、あそこには異様な寒さと湿気が立ち込めていました。そしてね、国会議事堂の周辺には重苦しい空気が漂っていたんです。かつては先進国として誇り高かった日本。最近の若い方はご存じないかも知れませんが、日本は先進国と呼ばれていたことがあったんです。でもね、GXやDXの政策が失敗して、日本全体が暗い影に包まれてしまったんですね。

 日本政府は令和年間に入って、再生可能エネルギーとデジタル化を推進し始めたんです。特に『水素・アンモニア革命』と呼ばれる環境政策が注目を集めました。でもね、これが実際にはエネルギー収支が合わず、莫大なコストがかかることが次第に明らかになっていったんですよ。

 エネルギーキャリアとして水素やアンモニアをエネルギー源として利用する計画は、現実とはかけ離れた幻想だったんですね。膨大なエネルギーを使って水素を生成し、それをアンモニアに変換するプロセス。これがね、持続可能性とは程遠いものでした。

 水素とアンモニアに頼るエネルギー政策は、最終的にエネルギー供給の不安定さとコスト高騰を招いたんですよ。日本の企業は次々と倒産して、失業率は急上昇しました。政府の補助金や支援策も焼け石に水で、日本経済は一気に崩壊の道を辿ることになったんです。

 そりゃあ、農業も大打撃を受けましたよ。エネルギーコストの上昇と肥料の供給不足で農業生産が激減し、食料自給率が激減しました。食料自給率にはカロリーベースと生産額ベースの比率があるんですけど、日本はカロリーベースなら38パーセントで、生産額ベースなら63パーセントだったんです。

 ここで皆さん気を付けて下さいね。生産額ベースだと、20kgで1万円の米と、1kgで1万円のメロンでは、どちらも同じですよね。20kgの米があれば、一日200gの米があれば、炊飯すると水を吸って450gの御飯ができるんです。200gの100倍が20kgだから、少々ひもじい思いをしても、一日450gのご飯が食べられたら、100日で餓死することは無いんです。寧ろ、ダイエットになって健康になる人もいるくらいの量なんですね。

 それに比べて、一個1kgで1万円のメロンだと、冷蔵庫が無いと保存ができないので、同じ1万円でもメロンでは、1日分の食料にも足りないくらいです。メロンは殆どが水分と、皮と種の重量なので、可食部のカロリーは、何と一日450gの御飯の半分くらいなんです。つまりね、同じ1万円でも、餓死するかどうかという場面では、米の方がメロンよりも200倍の価値があるんです。だから、餓死するかどうかを考えるときは、カロリーベースで考えなくちゃいけないんです。

 さっき私が言った日本のカロリーベースが38パーセントだったのは、令和年間でも多い方だったんです。それで、肥料も穀物も輸入できなくなった日本の食料自給率は、38%の翌年には30%、さらにその翌年には20%と減っていったんです。

 いや~、これで国民の多くは飢餓に直面して、かつて豊かだった食卓は、一転して空っぽの皿が並ぶようになりました。初めは十枚あった皿でも、日本は地震で皿がテーブルから落ちたり、棚が倒れて割れてしまうんですよね。それで、番町皿屋敷で有名なお菊さんが、夜な夜な皿の足りなくなった家庭に現れるようになったんです。

 そりゃあ、お菊さんですから、皿があったらやっぱり数えますよね。『一枚、二枚、三枚、あれっ? 七枚足りない』みたいなことが、どこの家庭でも風物詩になったんです。

 勿論、永田町では、政府への怒りと失望が渦巻いていました。国民はGXやDXの失敗を痛感して、その責任を追及する声が日に日に高まっていったんです。抗議デモが頻発して、政治家たちはその対応に追われる日々ですよ。でもね、根本的な解決策は見つからず、事態は悪化の一途を辿ったんですよ。

 それで、日本政府は、エネルギー政策の見直しと、新たな技術やビジネスモデルの導入が急務となったんです。でも、新技術の開発には、お金と時間が掛かり過ぎて、既に深刻なダメージを受けた経済を立て直すことはできなかったんです。

 そしてね、ついに2028年に、恐ろしい運命が訪れたんですよ。日本経済は完全に破綻してね、電力供給の不安定さとエネルギーコストの高騰が続いたんです。企業活動は全部停止ですよ、これが。輸入に頼っていた食料も途絶えちゃったから、多くの日本人が餓死の危機に瀕したんです。

 あと、忘れちゃいけないのが、永田町と霞が関が一丸となって推し進めていたユーグレナ。これがね、食料問題とエネルギー問題を同時に解決する最終手段だと考えられていたんです。でもね、ユーグレナの培養には大量の肥料やエネルギーが必要で、光合成効率も3%を超えない。この効率はソーラーパネルのエネルギー変換効率20%に比べても、圧倒的に低かったんですよ。

 日本じゃソーラーパネルを設置する場所も不足しているのに、ユーグレナの培養には28℃の水温を保つ巨大なプールを作る必要があったんです。ユーグレナは培養だけじゃなく、オイルを分離したり精製するのにも膨大なエネルギーが必要です。だから、日本で必要なエネルギーを賄うためには、本州全土を28℃のプールにしてユーグレナを培養しても足りないくらいです。でもね、これは現実的には不可能でした。当然のことですけどね。

 それでね、ユーグレナから政治献金を受けていた永田町の重鎮たちも、自らの政策の失敗を痛感たんですけどね。過去の栄光にすがる政治家たちは国民の信頼を失って、多くが引退させられちゃったんです。

 政治家や官僚が辞めても、やっちゃった環境政策は取り返しがつかないんで、日本は廃墟と化して、かつての繁栄の跡は見る影もなくなったんです。残された国民は暗闇の中で光を求め、必死に生き抜こうとしたんですけどね…。彼らの希望は次第に消え去っちゃって、未来への不安だけが残ったんです。

 国民に残されたわずかな光は、マイナンバーカードに紐付けされたベーシックインカム制度でした。この制度は民間企業の社員も公務員も全員解雇し、ロボットが各家庭に毎月10万円ずつ支給する制度だったんです。

 ところが、ロボットを制御するAIは賢いから、一万円札を10枚配る際に落語の『時蕎麦』の手口を使って、少なく支給することを思いついたんです。

 各世帯に配備されたロボットは、毎月末の九時に一万円札をゆっくりと数えて配りながら、五万円まで配ったところで『今何時ですか?』と尋ねる。それで、世帯主が『九時ですよ』と答えると『なるほど九時ですね。九の次は十万円ですね』と言って、六万円しか支給しなかったんです。

 でもね、多くの日本人は、AIは間違えないと思い込んでいたんで、このトリックに気づかなくて、生活できずに餓死していったんです。

 この事件が切っ掛けになって、夜ごと永田町では人々の嘆きと叫び声が聞こえるようになったんです。その声は、かつての繁栄を夢見た国民の魂の叫びだったんですね。永田町怪談は、終わりのない悪夢として、永遠に語り継がれることになるんでしょうね。

武智倫太郎

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