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日本政府が掲げるムーンショット目標を実現するために必要なこと (2)

 私はいただいたコメントを見逃すこともありますが、気が付いたコメントにはすべて回答しています。100~200文字の質問に対して、1000~2000文字のコメントを返すことが多いので、質問内容への回答がその10倍程度の分量で返ってくるのが一つの目安になるでしょう。

 今回は、三か月近くコメント欄を見落としていたので、いただいたコメントに対してどのような返答をしているのかを記事にしてみます。

オリガさん

> この計画政府がやっているのに、無名すぎで、扱いが都市伝説というのは、どうなんですか~

 ムーンショット目標の前に『革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)』がありました。ImPACTの事業期間は2014年度から2018年度までで、従来の枠組みにとらわれず、大胆な目標を設定し、日本政府は、その達成に向けた挑戦的な研究開発を支援しました。

 ImPACT終了後の2019年度からは、後継プログラムとして『ムーンショット目標』が開始され、2050年を見据えた壮大な目標を掲げ、技術革新を通じて未来社会の課題解決を目指しています。

 ImPACTの支援対象は、ユーグレナのような成果が乏しい研究ばかりだったので、プログラム自体の効果が疑問視されました。そのため、同様のプログラムを『ImPACT II』として継続するのではなく、新たな名称である『ムーンショット目標』に変更された背景があります。

 さらに、四年程度の事業だと官僚や政治家の責任問題につながる可能性が露呈したので、『ムーンショット目標』ではターゲットを2050年に設定し、誰も直接的な責任を負わない構造に改悪されています。

 この事業の『raison d'être』は、誰も責任を負わず、大量の天下り先を創出する新たな官僚の錬金術であると言えるでしょう。官僚の錬金術であるため、世間にあまり知られたくない部分もあり、毎年度の予算確保の口実としてだけ存在していれば良いというのが官僚の本音でしょう。

*オリガさんがコメントで使用している『raison d'être(レゾン・デートル)』は、フランス語で『存在理由』や『存在意義』を意味する言葉です。この表現は、個人や組織、プロジェクトなどが存在する根本的な理由や目的を指します。哲学的な文脈で使われることが多く、特に自己の存在理由やアイデンティティを考える際に重要な概念です。

油を多く産生するユーグレナ変異体を選抜する品種改良法の開発に成功
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の合田圭介プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、株式会社ユーグレナの岩田修主任研究員(ImPACTチームリーダー)、東京大学 大学院理学系研究科の合田圭介教授らは、ミドリムシ(学名:ユーグレナ)変異体を効率的に作出し、選抜する品種改良法(注1)を開発しました。

株式会社ユーグレナ

 ユーグレナ社のホームページにもある通り、ユーグレナ関連の開発は、『ムーンショット目標』の前身である『革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)』の支援を受けて行われました。この事業がどれほど酷い内容であったかについては、以下の記事をご覧ください。

 ユーグレナ社は『東大発ベンチャーの雄』として、マスメディアや日本政府、さらには東京都知事からも盛んに絶賛され、大量の税金が無駄に投入された事業です。

 現在、さらに事態を悪化させているのが、松尾研究室による『本郷バレー』構想です。単純計算では、ユーグレナは1社であるため、本郷ベンチャー100社はユーグレナ問題の100倍悪質であると言えます。

 1社につき官僚1人が2年おきに20年にわたって天下る前提だと、東大発ベンチャー1社では10人の官僚しか天下れません。

 一方、東大発ベンチャーが100社あると、上記の10人の100倍の1000人の官僚が天下れるという、数字のマジックです。キャリア官僚は毎年500~1000人が天下りしているため、東大発ベンチャーの100社は美味しい転職先と言えるでしょう。

 この流れがどれほど日本経済に悪影響を及ぼすかについては、野呂一郎先生のnoteをご覧いただくと分かり易いと思います。

葛西さん

> なんと…今調べたら、2020年頃からあるのですね……全く知りませんでした。

 実は前述の通り、ムーンショット目標の実体のImPACTは、2014年から進行していますが、そのさらに前には『サンシャイン計画(1974年発足)』が存在していました。サンシャイン計画では、2000年までに石炭液化(CTL)、地熱利用、太陽熱発電、水素エネルギーの実現が目標とされていました。

 特にCTLは最も現実的な技術であり、現在、世界最大のCTL技術大国は南アフリカです。今日でも南アフリカの飛行機は、サソール(Sasol)社という南アフリカの企業がCTLで製造した航空燃料を使用して飛んでいます。

 かつて日本は、CTL技術において世界の最先端を走っていました。しかし、その後、マレーシアに追い抜かれ、さらに中国にも後れを取り、最終的には南アフリカがCTL技術の世界を制しました。

 南アフリカは石油資源がほとんどない一方で、非常に豊富な石炭資源を有しており、サソール社を中心に、石炭を液体燃料に変換するCTL技術の開発に力を入れてきました。

 もし日本がサンシャイン計画当時に持っていたCTL技術を南アフリカに導入していたら、日本が世界の石炭産業を支配する可能性もあったかもしれません。ところが、近年実際に起こったことは、以下の記事にある通りです。

三井物産、モザンビークの炭鉱譲渡で契約締結
2021年4月20日 17:18
三井物産は20日、モザンビークのモアティーズ炭鉱事業と関連する鉄道・港湾事業で保有する権益を譲渡する契約を締結したと発表した。共同経営するブラジル資源大手ヴァーレにそれぞれ1ドルで売却する。

日経電子版

 日本政府は『サンシャイン計画』の発足時から、エネルギーキャリアである水素を『水素エネルギー』と呼び、あたかも水素が一次エネルギーであるかのように誤解を招く一方で、成功していたCTL技術を縮小してきた歴史があります。

 もっとも、CTL技術には、石炭を液化する際に無駄なエネルギーを浪費する問題があるため、必ずしもCTL技術が優れているとは断言できません。

 但し、液化に伴うエネルギーロスは、研究開発が始まる前から明らかだったことであり、開発を減速させる根拠にはなりません。エネルギーロスが嫌であれば、初めから研究開発をすべきではなかったのです。

Puricoco_508さん

> ムーンショット計画は、映画『マトリックス』に通じる世界と理解しているので、失敗して欲しいですね。

 ムーンショット目標は1から10までありますが、目標1は『2050年までに、AIとロボットの活用によって、人間の肉体的、精神的な限界を超える社会を実現すること』を目指しており、その世界観はマトリックスに近いものです。

 しかし、実際には人体補強ロボット技術や意識のデジタル化といった要素も含まれており、これらは身体機能の拡張やサイバネティクスを扱う攻殻機動隊の世界観により近いと言えるでしょう。マトリックスが主に仮想現実やシミュレーションの世界を描いているのに対し、ムーンショット目標1は人間と機械の融合、つまり攻殻機動隊に見られるようなサイバネティクスに焦点を当てています。

 ところで、映画『マトリックス』の『人間が電池として使われている』という設定は、エネルギー収支の観点から成り立ちません。つまり、人間を栽培しエネルギー源として利用するには、得られるエネルギーよりも投入するエネルギーがはるかに大きく、このコンセプトは現実的ではないのです。

 つまり、『マトリックス』の『人間が電池として利用される』というアイデアは、エンターテインメントとしてのフィクションであり、現実の物理法則やエネルギーの観点から見ると、ユーグレナと同じで成立しません。

 一方で、ムーンショット目標1は、イーロン・マスクの脳埋め込みチップとマーク・ザッカーバーグのメタバースを組み合わせた部分も多く含んでいますが、これらの分野は両者によって知財が固められています。そのため、日本政府が2050年に向けてビジョンを描いても、両者の知財に抵触し、配線のマテリアルといった周辺特許の部分にしか参入できず、結果的にデジタル赤字が大きくなるだけです。

 つまり、日本政府がすべきことは、両者に莫大な資金を支払うことではなく、医療倫理やAI倫理の観点から、これらの技術を日本で過度に普及させないための努力をすることです。これらの技術は、できるかどうかが分からない未知の技術ではなく、できて当然の技術であり、その技術を如何にしてコントロールするかが重要な課題となります。これは核兵器に似ています。作れるかどうかではなく、如何に制御するかに重点を置いて努力しなければならないのです。

 脳埋め込みチップについては、超人を作る技術を競うべきではなく、病気などの治療目的に限定すべきです。メタバースに関しては、ゲームやコミュニケーションツールとして使う範囲であれば、任天堂やソニーが持っている技術を後押しすれば良いだけで、2050年に実現を目指すほどの高度な技術ではありません。これはブロックチェーン決済に関しても同じことです。できるかどうかではなく、どう使うかの問題です。

> そもそも日本という国は、アメリカの属国であり、自ら計画性を持って動いていないし、デジタル化も遅れている位だから、良くも悪くも実現しないでしょう。

 日本がアメリカの属国であるという指摘には、戦後の歴史や安全保障面での関係性を考えると、一定の根拠があります。軍事面では日米安保条約に依存しており、自主防衛力には限界があります。さらに、食料やエネルギーの多くを輸入に頼っていることから、これらの安全保障面でも独立性に欠けると言えるでしょう。以下の点で安全保障上の問題にも注意する必要があります。

サイバーセキュリティ:日本はサイバー攻撃への対策が遅れており、重要インフラや政府機関が脅威に晒されています。

エネルギー自給率:日本はエネルギー資源に乏しく、輸入に大きく依存しているため、エネルギーの安定供給に対するリスクが高いです。

食料自給率:日本の食料自給率は低く、多くの食料を輸入に依存しているため、世界的な食料不足の影響を受けやすいです。

肥料自給率:日本の肥料自給率も非常に低く、主要な肥料成分の多くを輸入に頼っています。これにより、国際的な価格変動や供給不安が農業生産に直接影響を与えるリスクがあります。

水の安全保障:日本は水資源が比較的豊富な国ですが、気候変動や地域的な水不足が農業や工業に影響を与えるリスクがあります。また、一部の地域では地下水の過剰利用や水質汚染が問題となっており、長期的な水資源の持続可能性が懸念されています。さらに、水道水の民営化(ヴェオリアのようなウォーターバロンによる水資源の支配)や、バーチャルウォーターの問題を考慮すると、日本は深刻な水資源不足国と言えるでしょう。この点については、別の記事で詳しく説明します。

技術依存とサプライチェーン:半導体やハイテク製品の生産において、海外の技術や部品に依存しており、地政学的リスクが存在します。

人口減少と高齢化:人口減少と高齢化により、経済力や防衛力の維持が難しくなり、社会保障費の増大も懸念されています。

 経済や防衛においてもアメリカの影響を強く受けており、自主的な計画性が欠如している傾向が見られます。また、デジタル化の遅れは現実の課題であり、実現力の低さにつながっているという見方も妥当です。これらの要因から、今後も大きな変革が期待できないという意見には一定の説得力があります。

 一方で、日本は独自の文化や経済戦略を持ち、多くの分野で世界的なリーダーシップを発揮しています。デジタル化の遅れは指摘されていますが、最近では政府や企業が積極的にデジタル改革を進めており、変革が進行中です。これらの取り組みを無視して『実現しない』と断じるのは過小評価であり、長期的な視点から見ると日本はさらなる発展を遂げる可能性があります。

 ここで、日本の可能性を阻んでいるのは、松尾豊のような学者が日本のAI研究の第一人者として特別視され、AIやDX、情報通信産業のキーパーソンとされ、日本国の政策に過度な、間違った影響を与えていることです。彼自身がAI研究者としても、AI関連の実業家としても世間で通用しないことを認めており、現在彼がメインにしているのは『AI人材育成支援』です。しかし、自ら研究開発も事業もできない人が、他人をAI事業の起業家として育成できるという論理には無理があります。

 これも別の記事で詳しく説明しますが、松尾豊は電気代の計算もできないほど、電気のイロハさえ分かっていません。以下の資料を電気が分かっている人が見ると、大爆笑だと思います。

【大規模言語モデルの開発にかかる電力】
• 例えばGPT‒3の開発にかかった電力量は1,287メガワットと言われており、これは原子力発電1基の平均的な1時間における電力生産量(1,000メガワット)を上回っている。GPT‒4開発にかかった電力量は50ギガワット以上と言われている。
• 国際エネルギー機関(IEA)は生成AIの利用拡大による背景で、2026年の電力消費量が22年から最大で2.3倍になるとの試算を示した。今後、AIの活用は10倍、100倍といった規模になることも十分予想される。

東京大学 松尾 豊

武智倫太郎

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