見出し画像

MENA(中東・北アフリカ)専門家によるイラン解説 XV

#古代文明 が全て河川の近くで発生したという事実は、小中学校の授業で習うため、多くの方がご存じでしょう。水は人類をはじめとする全ての地上生物の生存にとって最も重要な資源です。現在の #イラク にある #チグリス川 #ユーフラテス川 の恩恵を受けて発展した #メソポタミア文明 は、人類最古の文明とされています。

 では、水資源が少ないにも関わらず、メソポタミア文明を凌駕することができた #ペルシャ帝国 の成功の秘訣は何でしょうか? その答えは、ペルシャ帝国で開発された #カナート と呼ばれる地下水脈利用システムにあります。このカナートは、古代から利用されている伝統的な地下水路システムで、乾燥地帯での水の確保と管理に非常に効果的です。このシステムは、農業用水や飲料水の供給に欠かせない役割を果たしてきました。

 カナートは地下水を採取し、重力を利用して水を必要な場所まで運ぶシステムです。このシステムは、地下の水脈に到達するための傾斜したトンネルから構成されています。水源地から始まる一連の傾斜トンネルは地表に近い場所まで続き、そこから水は用途の地まで自然流下します。カナート内は涼しく、ゆっくりと流れる地下水が非常に清涼感を提供します。初めてカナートに入ると、多くの人が感動するでしょう。

 日本でも近年、地下水冷房システムの普及に向けて多くの企業や自治体が努力を重ねていますが、 #イラン では3000年以上前から大規模な建物でカナートを利用した地下水冷房システムが実現されており、その構造が今も活用され続けています。

 土木建築の知識がある方は、カナートを流れる水の流速の遅さに驚くでしょう。この遅い流水速度は、勾配が1度あるかどうかの微妙な角度で、ほぼ水平に穴が掘られていることを示しています。たった100メートルのトンネルに1度の勾配を付けて掘削するだけでも非常に高度な技術が必要ですが、3000年以上前に数十キロにわたって正確な地下トンネルがイランの至る所に掘られていたこと自体が驚異的です。

カナートの伝播と名称

 カナートの技術は、紀元前1千年紀にはすでにペルシャで使用されていたとされ、その後、イスラムの拡大とともに中東全域、北アフリカ諸国(この地域では #フォガラ と呼ばれることが多いです)、そしてスペインまで広まりました。カナートの主な利点は、蒸発を最小限に抑えながら水を運ぶことができる点にあります。これにより、乾燥地帯でも効率的に水を利用することが可能です。カナートは再生可能な水源である地下水を利用しており、環境に優しい水の供給方法とも言えます。

 現代においてもイランを含む多くの地域でカナートは利用されていますが、近代的な水供給システムの普及により、その重要性は徐々に低下しています。さらに、地下水の過剰な汲み上げによる水位の低下や、都市化による土地利用の変化がカナートの運用に影響を及ぼしていることもあります。

 多くの地域でカナートは文化遺産としても価値が高く、これらの伝統的な技術の保存と保護が進められています。特に、カナートに依存するコミュニティでは、これらのシステムの維持管理が重要な課題となっています。カナートはその独自の技術と持続可能な水管理方法を提供することで、現代においても学ぶべき価値がある伝統的なシステムです。

つづく…

#武智倫太郎

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?