近未来麻雀小説(24)過去からの刺客 III
これまでのあらすじ
過去改変を目的として22世紀からタイムマシンで20世紀末に送り込まれていた銅鑼右衛門程度のパロディで納得する読者などいないはずなので、作者の俺は24世紀末の人類滅亡を回避できる鍵は、何の努力もせずに何でもできる神憑った強運を持つ役満和了太であるという無茶振りな設定にしてしまった。
タイムマシンに乗って22世紀の新中華麻将トーナメントに参加した役満和了太は、持って生まれた神の強運によって、勝負が始まる前にMAJAN GAME事務局から親の役満相当の罰金を徴収していた。ここまで支離滅裂な展開になると、もはや麻雀小説の領域を著しく逸脱した実験小説だった。
麻邪羅・第一戦・東1局0本場
麻邪羅の源流である #元祖ドンジャラドラえもんDX (元祖DX)には、必ず立直を掛けないと上がれないルールがある。つまり、麻邪羅では積み込みをしても、天和と地和は成立し得ない役である。
#ドンジャラ にはトランプのジョーカーのように、何の牌にでも見立てることができるオールマイティー(Joker)四次元ポケット牌が1セットの中に3枚だけ入っている。
元祖DXで配牌時に9枚の牌を持っているのは、親のみである。和了太は9枚の手牌の中から一枚掴み取ると、牌を横に向けて『立直!』と宣言して、一枚目の牌を麻邪羅卓に力強く叩きつけた。緊張感を漂わせながら静かに指をずらすと、そこから現れたのは、万能牌の四次元ポケット牌だった。この万能牌を持っていると確実に有利なので、元祖DX試合で一巡目の四次元ポケット牌切りは奇抜な一打だった。
麻邪羅には点数計算が難しくなる立直棒は無く、『立直!』宣言と牌の横置きだけが立直の証であった。立直やダブル立直で役が増えると点数計算が難しくなるので、立直宣言は単にあと一枚で上がりであることを他家に知らせるだけの役割しかない。
ところが、この万能牌を捨牌した立直は、他家に強烈なプレッシャーを掛けるには十分だった。なぜなら、和了太が背景の色がすべて同じ色の『一色セット』以外の聴牌なら、どの色の牌を切っても振り込む可能性があり、他家には一枚も安全牌がないことを意味しているからだ。
この心理戦を制するためには、和了太が苦手としている水色のジャイアン牌を切ることが安全策かも知れない。ところが、麻邪羅の帝王の異名で知られていた和了太なら、この安全牌とも思えるジャイアン牌こそが、当たり牌の引っ掛け立直かも知れなかった。
和了太のお気に入りのピンクのしずか牌が通せる可能性も低い。一枚目立直の四次元ポケット牌だけで、これほど全ての他家にプレッシャーを与えるとは、麻邪羅の帝王の和了太ならではの風格の究極の捨牌だった。
マチルダにとっては、手配に8枚積み込んでいた紫のスネ夫牌と、自模ってきた四次元ポケット牌は比較的安全牌だったが、これでもリスクがあったのは、どちらの牌にも和了太のスネ夫牌入りの『仲良しセット』の15万点に振り込む可能性があり、和了太が『一色セット』を狙わない戦略だった場合は、マチルダからの当たりを狙った捨牌だった可能性もある。なぜなら、麻邪羅には旧中華式麻雀と同じくフリテンの概念が無く、和了太が最初に捨牌した四次元ポケット牌こそが、誘いの一手だった可能性も捨てきれない。
マチルダは和了太のお手並み拝見と、『スネ夫一色』で立直を掛けて四次元ポケット牌を横向きに置いた。和了太は既に立直を掛けているので、ここで四次元ポケット牌を、ドンジャラすると確実に上がりなのだが、ここで和了太は動かなかった。
『あれ、ボクは、まだドンジャラしないよ。次の怖いロボットおじさんの番だよ』の和了太の一声に、モリエホン元伍長とベイズの勝麻が凍り付き、両者は同時に『麻邪羅で役作りに使える四次元ポケット牌は、三枚のうち一枚だけ…。和了太の最初の捨牌は四次元ポケット牌の対子落としだったのか!』と同じ読みをした。
手牌の全てが危険牌なのはモリエホン元伍長もマチルダと同じだったが、どの牌も同じリスクであれば、考えても仕方がないので、オレンジの『ドラミ一色』に運に任せて立直を掛けて、緑色のジャイ子牌を通すことができた。
しかし、フリテンがない麻邪羅では、モリエホン元伍長が通したジャイ子牌がベイズの勝麻にとっても安全牌とは限らない。麻邪羅における必勝法は、一番負けが込んでいる麻邪羅士の狙い撃ちである。この場の面子ではどう見てもベイズの勝麻が一番弱そうであり、和了太が狙う可能性が一番高かったのは、ベイズの勝麻だった。
ベイズの勝麻は、水色の『ジャイアン一色』で立直を掛けて、自模ってきたオレンジのドラミ牌を切ろうとした。しかし、三人立直が掛かっている状態で、ドラミ牌を切るのはかなり危険な賭けだった。ベイズの勝麻は神のツキを持つ和了太を警戒していたが、この場の面子では、マチルダとモリエホン元伍長も危険な雀士であり、一打のミスが命取りになりかねない。
かつては勝ち気の自信家で有名だったベイズの勝麻も、この局面ではベタオリの安全策を取らざるを得ず、立直を流して水色のジャイアン牌を通した。
二巡目の親の番が回ってきた和了太は牌山から一枚を抜き取ると、親指で盲牌してから、満足げに『パイ立て』の一番右側に、自模った牌をカチャリと置いて『ドンジャラ』と上がりを宣言した。
和了太は慣れた手つきで、9枚の牌を晒すと、ピンク色のしずか牌が9枚並んでいた。つまり、和了太はマチルダが一巡目で捨牌した四次元ポケット牌をドンジャラしていても、麻邪羅の役満に相当する『1色セット』の200,000点で上がれていたのだ。しかし、しずか牌は和了太のお気に入りの牌であり、『しずか一色』を自模上がりするのが、麻邪羅界の帝王と呼ばれていた和了太の究極の拘りだった。
200,000点の『一色セット』だと60,000通し。200,000-60,000✕3=20,000点で、この足りない点数は、じゃんけんの敗者が支払うのが、麻邪羅の掟だった。
和了太は邪羅コインの山を積み上げて遊ぼうとコインを探したが、どこにもなかったので、『ねぇ、麻雀奉行のおじさん。邪羅コインはどこなの?』と質問した。
AI雀卓ロボットは邪羅コインを用意していなかったことに愕然として、『麻雀奉行殿。元祖DXのルールブックを検索したところ、このゲームでは、10万邪羅3枚、5万邪羅4枚、1万邪羅10枚の60万邪羅を四人の雀士全てに配る必要がござった。かたじけない』と詫びた。
和了太が『あれ、また、ディーラーチョンボなの?』と質問すると、銅鑼右衛門は『そうだね。和了太くん。これは普通チョンボだから、親に48,000と、子に32,000点通しの罰金に加えて、60万✕4雀士=240万点のディーラー罰金だね』と冷徹に言い放った。
そもそもこの新中華麻雀テーマパークは、新華強北の国家予算に相当する100万点を捻出する為に作られた賭場である。この100万点の収入が無ければ財政破綻する胴元に240万点の罰金支払い能力などないことは明らかだった。
ところが、新華強北の財政破綻になど興味のない雀士たちは、足りない20,000点を誰が支払うかのじゃんけん勝負を開始し、ツキが落ち目のベイズの勝麻が負けて、端数の20,000点はベイズの勝麻が役満和了太に支払うことが決定した。
1位:役満和了太 969,000点(121K+48K+600K+180K+20K)
2位:マチルダ 661,000点(89K+32K+600K-60K)
2位:モリエホン 661,000点(89K+32K+600K-60K)
4位:ベイズの勝麻 641,000点(89K+32K+600K-60K-20K)
つづく…