
そして誰も脱退できなくなった
2025年1月20日。第47代アメリカ合衆国大統領にドナルド・トランプが電撃的に返り咲いたその日、ホワイトハウスの執務室では、新たな大統領令の乱発が始まっていた。
『まずはパリ協定だ! こんなフェイク科学に付き合ってられない!』
トランプが勢いよく署名すると、アメリカは即座に国連へパリ協定からの脱退を通告した。
『WHO? もはや中国のWHOだ!アメリカは自分たちでやる!』
『UNHRC? 人権なんて俺が決めるんだ!』
『UNESCO? 教科書に俺の伝記が載らないならいらん!』
さらに畳みかけるように次々と国際機関からの脱退を宣言する大統領。スタッフたちは最初こそ目を丸くしたが、数時間後には妙に慣れ、もはや何の抵抗も示さなくなっていた。
トランプ大統領の『アメリカ第一』政策がさらに暴走したのは、WTO(世界貿易機関)からの脱退によってだった。
『中国に都合がいいだけの組織だ! 我々には必要ない!』
かくしてWTO離脱が決定すると、世界中で関税戦争が勃発し、貿易は大混乱に陥った。日本の企業は『え、もう輸出できないの?』と絶句し、中国は『ほら見ろ』と得意げな顔をした。ヨーロッパ各国も激怒し、NATO脱退について質問が飛ぶと、トランプは満面の笑みでこう言い放った。
『アメリカはもうヨーロッパの財布じゃない! 俺たちはNATOを卒業する!』
次なる脱退先は宇宙だった。トランプ大統領はNASAに対し、ISS(国際宇宙ステーション)からの即時撤退を命令した。
『ISS? なんでアメリカがタダで宇宙を提供しなきゃいけないんだ?』
残されたロシアと中国は『中露宇宙連盟ステーション』を設立してISSをCRSに改名した。NASAの職員は『我々の研究データが…』と涙をのんだが、もはや後の祭りだった。
トランプ大統領の怒りは、ついに国連(UN)に向けられた。
『国連? そんなものは、アメリカにたかるだけの組織だ!』
大統領がそう言い放つと同時に、アメリカは国連からの離脱を公式に宣言した。ニューヨークの国連本部はゴーストタウン化し、資産価値ゼロと査定された。するとトランプ大統領は、『これはビッグディールだ!』と1ドルで買い取り、翌日には『トランプ・グローバル・タワー』に改名した。スタッフたちは『やっぱりそうなるか…』と呆れながらも拍手を送った。
国連安保理でも、アメリカがいなくなった途端、中国とロシアはしたり顔で次々と行動を起こしはじめた。ホワイトハウスのスタッフが『どうせ拒否権で何も決まらなかったし、これもまたビジネスチャンスだな』と肩をすくめたが、そこまで世界が変わると予想していた者はほとんどいなかった。
ついに、トランプ大統領は『民主党の州はいらない!』と宣言した。共和党の強い『赤い州』だけを『新アメリカ連邦』としてまとめ上げてしまった。残る『青い州』は、『北アメリカ連邦』と名乗ってカナダとの合併を発表した。もはやアメリカ合衆国そのものが分裂する事態に至ったのだ。
かくして、世界は否応なく新たな時代を迎えた。
そして誰も脱退できなくなった。
武智倫太郎