グローバル市場で戦うために:日本企業が政府依存から脱却すべき理由
日本企業が持つ高い技術力や革新性は、世界市場で十分に通用するポテンシャルを秘めています。しかしながら、これらの企業が国内市場や政府の指導に依存し続ける限り、国際的な競争力を発揮する機会は限られてしまいます。日本の企業がグローバル市場で戦うためには、既存の枠組みにとらわれず、新たな挑戦を続けることが必要です。その一例として、ジャストシステムを見てみましょう。
ジャストシステムとは?
ジャストシステムは、1990年代半ばに日本語処理技術において世界最高水準の技術を有していた企業であり、特にATOKの入力予測変換技術は自然言語処理(NLP)における大きな強みでした。しかし、同社が官庁向けのシステム開発や『一太郎』の法案作成に依存するビジネスモデルに注力したため、世界的なNLP技術の波に乗り遅れたと考えられます。
これはジャストシステムに限らず、日本の多くの企業が国内市場の狭さや所轄官庁の指導に依存した結果、ガラパゴス化現象を引き起こした典型例といえるでしょう。
ATOKがNLPのチャンスを逃した理由
1995年にWindows 95が登場し、マイクロソフトのWordが普及することで、ワープロ市場は一変しました。この時点で、ジャストシステムは日本の官庁向けシステム開発に注力し、Microsoft Officeの普及に対抗しようとしましたが、これが最大の経営ミスだったと言えます。
ATOKは当時、日本語の文脈解析や変換技術において非常に優れており、日本語処理の分野では世界最高水準でした。しかし、もしジャストシステムが日本語以外の言語やグローバル市場を視野に入れ、生成AIやNLPの研究にさらなるリソースを投入していれば、低消費電力NLP技術を2000年代には実現していたかもしれません。ただし、当時のハードウェアやソフトウェアの技術的限界を考慮すると、この仮定はやや過大な評価かもしれません。
ジャストシステムの最新の生成AIへの取り組み
最近、ジャストシステムは生成AIの分野に再び注力し始めました。2024年7月に発表された『JUST.DB Blueprint』はその一例です。この機能は、ノーコードクラウドデータベース『JUST.DB』に生成AIを搭載し、対話形式で業務内容を入力するだけでシステム設計を自動的に行うものです。
AIが業務に最適なシステムを設計することで、従来のシステム開発の時間を大幅に削減でき、ジャストシステムはAIを活用した効率的なシステム開発で新たな展望を開き、国内外のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を支援しています。
Sakana AIとは?
Sakana AIは、2023年に設立されたAIスタートアップで、進化的アルゴリズムという手法を用いて、従来のAIモデルよりも効率的かつ低消費電力でNLPモデルを生成しています。進化的アルゴリズムとは、生物の進化を模倣した手法で、最適解を探索するAI技術です。Sakana AIはその技術を用いて、データとリソースを効率的に活用し、エネルギー消費を抑えながら高性能のモデルを生み出しており、他の大手企業と競争するほどの技術力を持つ存在となっています。
Sakana AI型の低消費電力NLPの開発可能性
Sakana AIは、進化的アルゴリズムや低消費電力のNLP技術を活用して効率的なAIモデルを生成しています。しかし、1995年当時、このような技術を開発するのは現実的には非常に困難だったと考えられます。当時の技術的な制約やハードウェアの限界を考慮すると、現在のSakana AIのような革新的技術を生み出すには、より多くの時間とリソースが必要だったでしょう。
SETI@homeと分散コンピューティングの可能性
SETI@homeは、多くの一般ユーザーが自分のパソコンの未使用時の計算リソースを提供することで、膨大な計算能力を集めることに成功した分散コンピューティングプロジェクトです。この取り組みは予想を上回る支持を得て、2009年6月時点で約600 TFLOPSの計算能力を達成しました。SETI@homeの成功例からわかるように、分散型コンピューティング技術を活用すれば、企業は高価なスーパーコンピュータに依存せずとも広範な計算リソースを低コストで活用できる可能性があります。
もしジャストシステムがこのような分散コンピューティング技術を活用していれば、さらに大きな計算リソースを低コストで利用し、NLPモデルの開発やトレーニングが可能だったかもしれません。
SETI@homeはボランティアによる計算資源の有効活用が特徴です。一方で、日本の官公庁や地方自治体、独立行政法人、国公立学校などが所有する、稼働率の低いコンピュータや、未使用の夜間の計算リソースを強制的に有効活用する仕組みを作っていれば、比較的短期間でSETI@homeを超える計算能力を確保することができたはずです。
ジャストシステム逆転の可能性
ジャストシステムが今後、OpenAIやSakana AIを逆転できる可能性は依然として残されていますが、いくつかの課題もあります。ATOKは現在も強力な日本語処理技術を有しており、特に日本語のような複雑な言語に対応するNLP分野では優位性を保っています。分散コンピューティング技術を利用して広範な計算リソースを集め、低消費電力で効率的な生成AIモデルを開発することで、再び国内外の競争に勝ち抜ける可能性があります。
結論
ジャストシステムが1996年以降に官庁向けシステムに焦点を当てたことは、NLP技術で世界的なリーダーシップを取るチャンスを逃した大きな経営ミスと見なせます。しかし、もし分散型の計算リソースを活用していれば、低コストで広範な計算リソースを集め、大規模なNLPモデルを開発できた可能性があります。
現代においても、ジャストシステムは生成AIを活用した新たな製品展開を進めており、分散コンピューティング技術やグローバル市場への展開を活用することで、OpenAIやSakana AIに対抗する道が開かれる可能性は十分に残されています。
武智倫太郎
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