ツンデレ童話(11):ジャンキーの青い鳥
むかしむかし、1969年に森の中に『妹萌えのダンデレ』と『兄萌えのツンデレ』という兄妹が住んでいました。
ある夜、突然、漫才言葉の胡散臭い魔術師がダンデレとツンデレの家に押しかけてきて、『そのダンデレ・ツンデレっていう名前があきまへんな。なんや最近、アンドレ・カンドレっちゅう駆け出しの歌手がおるやろ。
いまは全然売れてへんけど、再来年の1971年に芸名を井上陽水っちゅう本名に変えよったら、あっちゅう間に日本で初めてLPレコード販売数100万越えのフォークシンガーになりよったんやで。おっちゃんは魔術師やから、未来のこともお見通しなんや。まぁ、おっちゃんとしては、♬氷の世界のLPも好きやけど、やっぱ、井上陽水&忌野清志郎の♬帰れない二人が好きやな』と訳の分からない未来の話を始めました。
気の強かったツンデレは『あ、あんた、こんな夜中に人の家に押しかけてきて、なに言ってんのよ。ちょっとおかしくなくなくない!』と魔術師に文句を言いました。
『せやな。ツンデレはんの言うとることも分からんことないわな。せやけど、おっちゃん、今夜はあんたらが幸せになれるっちゅう、えぇ話を持ってきたんやでぇ』と如何にも胡散臭い話を続けました。
ダンデレは警察に通報しようかと思いましたが、この時代には、まだスマホがなかったので、事を荒立てないように『これから寝るところだから凄く迷惑なんだけど、手短に話して帰ってもらえますか?』と、胡散臭い魔術師に尋ねました。
『まぁ、すぐに終わる話やさかい、時間のことは気にせんでもええがな。でな、ワシは胡散臭そう見えるかも知れへんけど、こう見えても幸福をもたらす魔術師なんやで。そんでな、まぁ、簡単に言うたら青い鳥を探すだけのホンマに簡単なことで、あんたらが大金持ちになれるっちゅう夢のある話やねん』と言いました。
この胡散臭い魔術師は、『脳にチップを入れたら不老不死の天才になれる』とか、『人類が火星に行ったら幸せになれる』とか、『太陽光で作ったエレキテルの馬車を動かしたら、馬糞の問題なんか一発で解決できる』と世界中の人を欺いていることで有名な詐欺師でした。
最近は、LSD、ケタミン、コカイン、エクスタシーなどの違法薬物を常用していることでも有名ですが、この時代にはインターネットもなかったので、ダンデレもツンデレも、魔術師がそんなに悪い詐欺師だとは知りませんでした。
魔術師はダンデレとツンデレに、様々な違法薬物が詰まった『時の帽子』を渡してから、『そん中に入っとるクスリを飲みよったら、気持ちよ~なったり、過去や未来に自由に行けよったり、全ての物が虹色に見えたり、妖精が見えたり、幽体離脱ができる凄いもんなんやで』と言って、違法ドラッグの入った『時の帽子』を渡して帰っていきました。
ダンデレとツンデレは胡散臭いとは思いましたが、まだ子供だったので、興味津々でとりあえず、『アイス』と書かれた薬を飲んでみると、目が冴えて急に元気になった気がしました。
『ダンデレお兄ちゃん! これって凄くない?』とツンデレが聞くと、ダンデレが飲んでいたのは、『スマック・ダスト』と書かれていたクスリだったので、全身の力が抜けて、フワフワと空を飛んでいるような気になっていました。
ハイになっていたツンデレが、『アシッド』と書かれた角砂糖を食べると、周りが虹色に見えたり、妖精が見えたり、これまで聞いたことがないような美しい音楽が聞こえてきたので、ダンデレにも角砂糖をあげました。
ところが、ダンデレはバッドトリップしてしまい、まるで地獄のような世界しか見えず恐怖で叫び続けました。ツンデレはそんなことは一切気にならず、ダンデレのことが青い鳥に見えて、幸せな気分になっていたので、『あぁ、あの魔術師の言っていたことは本当だったのね』と信じてしまいました。
この童話の教訓は、胡散臭い話に乗ってドラッグ常用者の話など聞いていたら、ロクな人間にはなれないということです。
つづく…
武智倫太郎