中国の科学者が量子コンピュータで軍用暗号を解読
中国の研究者たちが、量子コンピュータを使用して広く利用されている暗号化手法に対して効果的な攻撃を行ったことが、计算机学报(Chinese Journal of Computers)の査読を経て『Quantum Annealing Public Key Cryptographic Attack Algorithm Based on D-Wave Advantage』という学術論文として公表されました。
http:とhttpsの区別もついていなかった防衛研究所では、まだ御存知ないかも知れないので、以下に当該論文の情報をリンクしておきます。
この突破口は、銀行や軍事などの重要な分野で採用されているパスワード保護機構に対して『現実的かつ重大な脅威』を与えるものとされています。
一般的な量子コンピュータの開発はまだ初期段階であり、現代の暗号学に対して直接的な脅威を与えるには至っていませんが、専門的な量子コンピュータを用いた様々な攻撃手法が研究されています。今回の研究では、カナダのD-Wave Systems社が製造した量子コンピュータを使用し、暗号化アルゴリズムの解読を試みました。
D-Wave Systemsは、世界で初めて商業向け量子コンピュータを販売した会社として知られており、最初に注目を集めたのはGoogleやNASAがD-Waveの量子コンピュータを導入したことで有名になりました。2013年に、Google、NASA、USRA(Universities Space Research Association)が共同でD-Waveの量子コンピュータを購入し、それを使って量子計算の研究を進めたことが大きな話題となりました。この出来事は、D-Waveが量子コンピュータ分野でのパイオニアとしての地位を確立する一因となり、商業向け量子計算の現実的な可能性を広く認識させるきっかけとなりました。
中国の研究チームは、D-Waveの量子コンピュータ『Advantage』を用いて、Present、Gift-64、Rectangleといったアルゴリズムに対して攻撃を行いました。これらのアルゴリズムは、SPN(置換・置換ネットワーク)構造の代表的なものであり、軍事や金融の分野で広く採用されているAES(高度暗号化標準)の基盤となっています。研究者たちは、『これは、現実の量子コンピュータが、現在使用されている複数のSPN構造のアルゴリズムに対して現実的かつ重大な脅威を与えた初めてのケースである』と述べています。
この論文では、量子コンピュータを使ってRSAという公開鍵暗号(パスワードの仕組み)を攻撃する2つの方法について研究しています。
量子アニーリング(量子退火)を使った因数分解
RSA暗号の安全性は、大きな数を素因数分解するのが非常に難しいことに基づいています。この研究では、量子アニーリングという技術を使い、この因数分解を効率的に行う方法を考えました。研究チームは、D-Waveという量子コンピュータを使い、新しい数式とアルゴリズムで2,000,000以上の大きな整数を分解することに成功しました。この結果は、世界的に有名な大学や企業(例えば、パデュー大学、ロッキード・マーティン、富士通)による過去の成果を大きく上回りました。
量子退火を使った新しい攻撃方法
また、研究チームは、量子退火を使って暗号攻撃の新しい方法も開発しました。従来のアルゴリズムよりも効率的に問題を解決し、RSA暗号を破るための『鍵』に当たる要素を探し出すことに成功しました。
結果と結論
この研究は、量子コンピュータが暗号に与える現実的な脅威を示しています。また、量子退火という技術は、現在主流の量子コンピュータが抱える問題を回避できる可能性があるとされています。この成果により、量子コンピュータが将来的にRSA暗号のような従来のセキュリティシステムを破る能力を持つ可能性が示唆されています。
簡単に言えば、この研究は、量子コンピュータを使ってRSA暗号を効率的に破る新しい方法を開発したという内容です。その成功が従来の研究結果を大きく上回っていることが特徴です。
注意点
特定の暗号システムの破壊:この論文では特定のRSA暗号の整数分解に成功したとされていますが、これがすべてのRSA暗号や暗号システムに即座に適用されるわけではありません。また、実用的な軍事や金融システムの暗号が直ちに量子コンピュータによって破られると主張しているわけでもありません。
量子コンピュータの現状:量子コンピュータは、現在のコンピュータ技術に比べて大きな潜在能力を持っていますが、実用的に多くの商用暗号システムを即座に破るにはまだ技術的なハードルがあります。特に、現代の暗号システムはRSAだけでなく、他の暗号方式(例えば楕円曲線暗号や量子耐性暗号)にも依存しており、完全に機能が失われるわけではありません。
ところが、この研究は、量子コンピュータが将来的に従来の暗号システムに脅威を与える可能性を示しており、特に量子コンピュータに対する脆弱性を示唆しています。したがって、暗号技術の進展や新しい量子耐性暗号の開発が後れを取ると、私が書いている以下の『暗号技術の破綻がもたらす資本主義の終焉』の世界が現実のものとなる可能性が極めて高いです。
この論文は、量子コンピュータが従来の暗号システム(特にRSA暗号)に対して有効な攻撃を行える可能性を示しています。しかし、現段階で『軍事や金融に使われているすべての暗号が破られて機能しなくなる』と理解するのは、時期尚早かも知れません。
但し、この学術論文の査読には一年以上費やされており、一年以上前に達成された技術が記載されています。さらに、米国や中国、ロシアなどでは軍事技術は特許申請や学術論文で発表されることがないため、すでに中国が世界の金融インフラを完全に破壊する暗号解析技術を持っている可能性もあります。
原子爆弾や水爆と同様に、兵器を所有することと、実際に使用することは別の問題です。したがって、現在イスラエルとアメリカがイランや中国に対して行っている軍事的な挑発や、イランの資産凍結がエスカレートすると、中国が資本主義を終了させ、BRICS体制へと移行する可能性が高まると、私は考えています。
武智倫太郎