朝倉海に授ける弱者戦略は存在するか?
格闘系YouTuberの朝倉海(あさくら・かい)は、1993年10月31日生まれなので、2025年には32歳です。彼が本格的に格闘技を始めたのは18歳のとき、禅道会豊橋道場に入門してからです。この時点で彼は、格闘技に向かない道を選んでしまったと言わざるを得ません。
禅道会は、極真カラテの黎明期である1981年に東孝が独立して創始した大道塾から派生した流派です。東孝は陸上自衛隊出身で、極真カラテではローキックを得意とする突撃型の選手でした。
その後、極真カラテの最も攻撃しやすい部分である頭部への打撃を禁止したルールに嫌気がさして、『スーパーセーフ』というヘッドギアを導入し、グローブを着用して顔面打撃や締め技を取り入れたルールを構築しました。
一見すると、これは武道として進化しているように見えます。しかし実際には、格闘術の形態としては退化しています。なぜなら、ムエタイや中国拳法といった、顔面打撃や蹴りを武術体系に取り込んでいる武術や格闘術が淘汰されずに存在しているためです。しかも、中国武術や東南アジアのシラットなどは、攻撃してもよい急所が多いのみならず、様々な武具や複数の敵とも対峙できる技術体系ができあがっています。
さらに、大道塾系統では、スーパーセーフとグローブの使用により、実際の顔面のヒッティングポイントよりも5cm以上ずれるため、道場外では通用しない中途半端なパンチを練習することになります。
そのため、大道塾のルールで東孝が強かったとしても、それが門下生の強さを意味するわけではありません。単に東孝が昔の極真カラテで宮城県支部長を務めるほどの実力者であり、さらに顔面攻撃を取り入れたことで自身の強さが増した、というだけの話です。一方、関節技に関しては、打撃技で仕留められず、つかみ合いや押し倒される場面で露呈する極真カラテの弱点を補完したものに過ぎません。
大道塾の技術体系では、総合格闘技(MMA:Mixed Martial Arts)のルールの制約条件下において、投げ技、寝技、関節技、絞め技などの組み技(グラップリング)を得意とする総合格闘家、いわゆるグラップラーに対して、圧倒的に不利な状況に陥る可能性が高いです。
武道や武術は、理が備わり、技を伝授できる体系が整っていなければ淘汰されるものです。このように体系が十分でない大道塾から派生したのが、朝倉兄弟が学んだ禅道会です。この話を聞いた時点で、武術を理解している人なら、彼らの試合を観る気すら起きないでしょう。実際、私も野呂先生のnoteを拝見するまでは、朝倉兄弟のことなど知りませんでした。
朝倉海は身長173cmにもかかわらず、ボクサーのような減量を行い、55~60kgで試合をしています。つまり、彼は少しでも体重が軽く、弱い相手と戦うという、格闘家には不向きな道を選んでしまっています。173cmのMMA選手であれば、ベストコンディションは80kgのライトヘビー級が適切です。ボクシングのように弱者を相手に戦うスポーツであっても、67kgのウェルター級以上でなければ、単に軽くて弱い相手を探しているだけです。
武術や格闘技の歴史は、弱い人間が武器などを持った強い人間に対抗するために進化してきた背景があります。これは、軽量で弱い相手を選び、頭突きや猿臂(エルボー)、金的攻撃、蹴り、関節技、動物としての本能である噛み付き攻撃を反則とするボクシングとは、まったく異なる性質を持ちます。体重制限を気にする必要がないヘビー級以外のボクサーが強いのは、素人や自分より体重が軽いボクサーを相手にした場合だけです。しかも、想定される相手は一人だけなので、二人以上の相手に勝てる技術体系すらありません。
ちなみに、朝倉海と同じ身長の平本蓮は、リングに上がる際の体重が66kgで、フェザー級に該当します。平本蓮は朝倉海の兄である朝倉未来(身長177cm、体重66kg)と対戦し、1ラウンドでKO勝利を収めています。つまり、朝倉海よりも圧倒的に強いとされていた朝倉未来でさえ、ボクサー崩れの平本蓮に1ラウンドKO負けを喫しているのです。
ちなみに、マイク・タイソンの身長は178cmと朝倉未来の177cmと1センチしか違いませんが、タイソンの階級はヘビー級の200ポンド (90.719kg) 以上でした。そして、彼自身が述べているベスト体重は98~99kgでした。これがボクシングで弱さではなく、強さを競うべき基準なのです。
朝倉海の兄の朝倉未来は、暴走族崩れでストリートファイト無敗という経歴が売りのようです。一般人には暴走族は怖い存在かも知れませんが、武術家の観点からは、彼らは群れることでしか行動できない『鰯(いわし)』程度の存在です。ヤクザの下っ端チンピラよりも格下の暴走族を何百人倒しても、何の練習にもなりません。それは、暴走族は口先だけで、実際には驚くほど弱いからです。
暴走族の体力のなさは、普通の高校生と比較しても明らかです。彼らの大半は、柔道や空手、剣道などの武道を経験していない陸上選手や卓球選手よりも体力が劣ります。意外に思うかも知れませんが、暴走族は日頃スポーツをしていない上、中学生のころからタバコやドラッグに手を出しており、さらに夜遊びをするなど不規則な生活を送っているので、体力だけでなく脳までもが蝕まれています。
そんなか弱い暴走族を相手に勝っていたことを誇る朝倉未来より、さらに弱いのが弟の朝倉海です。朝倉兄弟は、武術や格闘術を軽視しているとしか言いようがありません。
暴走族やチンピラの恐ろしさは、喧嘩の強さではなく、躊躇なく夜中に放火するような陰湿な凶暴さです。北九州市はいまだにロケットランチャーや手榴弾が倉庫や河原で発見される地域です。修羅の国の異名を持つ福岡県の中でも悪質なことで知られる地域の暴走族は、本当にたちが悪いです。喧嘩に弱くても寝込みを襲ってくるのです。
ちなみに、ロサンゼルスのギャングは、拳銃はもちろん、サブマシンガンやショットガンといった武器を所持していることが一般的です。また、ロサンゼルスでは殺人事件が発生しない日は珍しいほどであり、その多くがギャング関連の抗争や暴力事件によるものです。日本の喧嘩自慢などは、彼らと比較すればまさに可愛いものと言えるでしょう。
朝倉海の『弱者戦略』:限界を逆転の糧にする格闘哲学
格闘技の素養がない朝倉海が勝つための『弱者戦略』を授けることは非常に難しい課題ですが、以下に朝倉海専用の弱者戦略を検討してみましょう。
朝倉海の戦略を『弱者戦略』の視点から考察すると、単なる格闘技のテクニックや試合運びだけでなく、彼の『挑戦する姿勢』と『劣勢を逆手に取る思考法』が浮かび上がります。この戦略は、格闘技に限らず、多くの分野に応用できる普遍的な教訓を含んでいます。
1.逆転の思考:敗北から学ぶ再構築
まず、朝倉海が取り組むべきなのは、水抜きによる減量ではなく、20kg程度の筋力をつけてライトヘビー級を目指すことです。月に2~3kgの減量は比較的簡単ですが、毎月2kgの筋肉を増やすことは非常に厳しい作業です。それでも、約2年間しっかり取り組めば、20kgの筋力アップは十分に可能でしょう。
日本では、スーパーサイヤ人3のような力任せの『変身』は逆にスピードが落ちて弱くなると考えられがちです。しかし、朝倉海の体格を考えると、少なくとも80kg程度の体重は必要です。ただし、たとえライトヘビー級に到達しても、ロサンゼルスのギャングを相手に勝つことは難しいでしょう。
朝倉海は敗北を単なる挫折と捉えず、学びのプロセスとして昇華することをしきりにアピールする必要があります。これは『弱者戦略』の核心といえます。失敗や不利な状況を悲観するのではなく、それを次の挑戦への具体的な糧に変えることが成功への鍵となります。
私は、朝倉海がとるべきこの戦略を『のび太の弱者戦略』と名づけました。『STAND BY ME ドラえもん』において、のび太は体力的に圧倒的に不利なジャイアンの耳を引っ張ってジャイアンからタップアップを奪ったシーンに、日本中が号泣したという説があります。このように朝倉海も、自分よりも階級が上の選手の耳を引っ張ってタップアウトを奪うことで、のび太のような感動を与えることができるのです。
2.資源の最適化:持てる力を最大限に活かす
朝倉海は、自身の持ち味である打撃を中心としたスタイルを構築しつつ、MMA全体で必要なスキルを常に磨き続けています。彼の戦略は『弱点を補う』ことではなく『長所を最大化』することに主眼を置いています。このアプローチは、すべてを完璧にするのではなく、自分の持てる資源を最大限に活用し、勝てるポイントに集中することの重要性を示しています。
しかし、まともに会話もできないほど無理な水抜き減量を行えば、十分な打撃を繰り出すことは不可能です。減量の必要がない自然体の体重で、最大のパワーを発揮できる階級へランクアップすることが必要です。その体重で勝ち目がないのであれば、そもそも格闘家としての適性が問われることになります。
3.自己ブランドの構築:弱者の物語を共有する
朝倉海の試合後コメントやYouTubeチャンネルでの発信は、彼の『挑戦者』としての物語をファンと共有する場となっています。この物語は、ただの格闘家ではなく、人間味あふれる『挑戦者』としての彼を際立たせています。特に、劣勢を逆転しようとする姿勢は、ファンにとって共感を呼ぶポイントです。不利な状況でも、それを物語として発信することで共感を得られる。『挑戦する弱者』としての『のび太的な自己ブランド』が、強者との差別化を生む『同情戦略』です。朝倉兄弟が虚勢をやめて、自分たちが弱いことを認めることで、初めてYouTube視聴者からの同情を集めることが可能になるのです。
4.心理戦の優位性:相手の力を利用する
朝倉海がグラップラーとしてもストライカーとしても通用しない選手だということは、格闘技の選手なら誰でも気が付いていることです。そのため、彼がとるべき戦略は、相手の得意技をあえて引き出し、ボコボコにやられながらも、虎視眈々と逆転を狙うアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ戦略です。
『千の技を持つ男』の異名を持つノゲイラは、あえてマウントポジションを取らせてから、絶体絶命の状況に自らを置いたふりをして、相手が気を抜いた瞬間にいつの間にやら腕挫十字固で逆転するのです。このように相手の力や特性を観察し、それを自分の利益に変える思考が『弱者戦略』の真髄といえます。また、ノゲイラは寝技だけだと思わせておいて、立ち合いで打撃戦に持ち込む意外性も兼ね備えていました。実はムエタイの練習もしていたのです。
つまり、朝倉海は、これまで習得した中途半端な格闘術は全部忘れて、筋力を付けながらグラップラーとストライカーの両方の基礎から練習し、ライトヘビー級の最下位から一歩一歩のし上がっていくように共感を得る以外に勝機はないでしょう。
結論
朝倉海の『弱者戦略』は、格闘技の枠を超えた普遍的な教訓を提供してくれます。不利な状況を悲観せず、それを突破するための特化、再構築、心理戦、そして物語化。この弱者の哲学は、どの分野においても、挑戦者が成功するための道筋を示しています。
武智倫太郎