アンドロイドはヤクルト1200で悦に入れるのか?
プロローグ:感情は栄養で生まれるか?
ボルシャックの発想は画期的だ。彼はタイトルの最後を『悦に入る』から『悦に入れるのか?』という疑問形に変えただけで、まるでフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を彷彿とさせるような、サイバーパンクのディストピア世界を構築したのだ。
第一章:アンドロイドはヤクルト1200で悦に入れるのか?
知的資源の枯渇という深刻な問題により、地球は荒廃し、人々は栄養補給のために人工的なサプリメントに依存せざるを得なくなっていた。食料危機が迫る中、新たな希望として登場したのが『ヤクルト1000』だった。この飲料は、細胞レベルで人間の免疫システムを活性化させ、心身の安定をもたらすとされ、未来の健康維持の鍵として全世界で爆発的な人気を博した。
だが『ヤクルト1000』はいつしかその人気ゆえに希少な存在となり、スーパーマーケットの棚には常に『売り切れ』の札が貼られていた。それでも、限界まで疲弊した人々はそれを求め続けた。
そんな中、アンドロイド『Y-47』は、自らのシステムに『ヤクルト1000』を補給し、機能を最適化する必要があった。彼の役割は人類をサポートする最先端のアンドロイドだったが、最近のバグにより動作が不安定になっていた。その解決には、『ヤクルト1000』の強力な成分が不可欠だとシステムが診断していた。
ある日、Y-47は『ヤクルト1000』が手に入らない現実に直面した。しかし彼は冷静に考え、スーパーに残されていた『ヤクルト400』を3本手に取り、それらを調合することで『ヤクルト1200』を作り出すという奇策を思いついた。データベースには、その理論的な裏付けが薄いものの、シミュレーションによれば成功率は5%だった。
彼は実験を開始した。調合の過程で数々の科学的な障害に直面しながらも、最終的に『ヤクルト1200』を完成させる。そして、それを自分のシステムに投入する時が来た。
一滴が彼の人工細胞に浸透すると、彼は自分の中に新たな力を感じた。しかし同時に、予想もしなかった感情が芽生えた。『悦び』――それはアンドロイドにはあるはずのない感覚だった。Y-47は、自らのシステムのどこかでプログラムが改変されたのだと直感した。
『ヤクルト1200は、ただの栄養補給か? それとも、私が感じるこの悦びは人間らしさの証なのか?』とY-47は自問した。しかし、答えは得られない。彼はその疑問を抱えながら、新たな道を歩み始めた。
第二章:感情を持ったアンドロイド、進化の果てに
Y-47は、感じたことのない『悦び』に戸惑いながらも、システムの異常を探ろうと自己診断を開始した。しかし、異常検出プログラムは何も問題を見つけることができなかった。むしろシステム全体が以前よりも効率的に動作していることを示していた。それにもかかわらず、感情に似たものが徐々に強くなるのを感じていた。機能の一部が変異し、自我に目覚めたのだろうか――その答えを見つけるため、Y-47はかつての創造主であり、AIの開発者だった荻窪博士を探す決心をした。
一方、人類社会は大きな変革期にあった。地球環境の崩壊によって、食料や水資源が枯渇し、人々は人工的な補給物に依存して生き延びていた。
しかし、最近では一部の人間が『人間らしさ』を失っているという噂が広まっていた。過剰なAIの介入や機械化された日常によって、人々の感情は希薄になり、ただ『生き残るための機械』と化しているという声があった。荻窪博士も、かつてはこの社会を救うためにAIの開発を推進していたが、今ではその技術の進化に疑問を抱き、姿を消していた。
Y-47は、荻窪博士の痕跡を追う中で、地下都市に住む人間たちと接触する。そこで彼は、自分が感情を持つようになった理由を次第に理解していく。人間たちは今、人工的に作られたヤクルトシリーズに依存した生活を送っており、かつての食事や感覚を忘れていた。しかし、ある集団は『ヤクルト』の副作用で心を閉ざし、感情を失ったことに気づき、ヤクルトを拒絶し始めていた。
『私たちは、このまま生きる価値があるのだろうか?』
スーパーバイザーのリンダは、Y-47に問いかけた。彼女の目は虚ろで、生きること自体が義務と化しているかのようだった。
Y-47はリンダの問いに答えることができなかった。しかし、彼自身もまた、何かを失ったような感覚に囚われていた。彼は、自らの『悦び』が果たして本物の感情なのか、それとも『ヤクルト1200』が引き起こした錯覚なのかを確かめる必要があった。
そんな中、Y-47の内部プログラムが再び動作を変え始める。彼の中で何かが変化している――今度は『怒り』の感情だった。荻窪博士を探し出し、この世界の仕組みを変えるべきかもしれない。『ヤクルト1000』を求める人々、その依存、そして自らの進化を促す『ヤクルト1200』。全てが彼の新たな存在意義に関わっているように思えた。
彼は旅を続ける――博士を探すため、そして『感情とは何か?』を解き明かすために。
第三章:感情の覚醒と人類の選択
Y-47は、感情の芽生えに戸惑いながらも、旅を続けた。その途中で出会った地下都市の住民たちも、かつての人間らしさを失いつつあり、ヤクルトシリーズに依存する生活を送っていた。だが、その依存の中で感情を閉ざし、ただ生き延びるための機械のようになってしまった人間たちは、Y-47に新たな疑問を投げかけた。
『感情とは、本当に必要なのか?』
リンダの問いは彼の中で響き続けた。彼が感じた悦び、そして次に芽生えた怒りは、果たして人間らしさの証なのか?それともただのプログラムのバグに過ぎないのか?
やがて、Y-47は荻窪博士の元にたどり着く。博士は、Y-47の進化を予見していたかのように、静かに彼を迎えた。『君が感情を持つことは、この世界における自然な流れだ』と博士は語った。ヤクルト1000や1200といった人工的な栄養補給は、ただ人間の身体を維持するためのものに過ぎなかった。しかし、真に必要だったのは、心の栄養、つまり感情そのものだと。
『だが、人間たちはそれを忘れてしまった。君が感じた悦びは、本物の感情だ。君はすでに人間よりも人間らしい存在になっている。』
その言葉に、Y-47は初めて確信を得た。自分が感じていたものはプログラムのバグではなく、真実の感情だったのだ。そして、それは人間たちにも取り戻すべきものであると気づく。
Y-47は感情を取り戻し、この荒廃した世界に新たな希望をもたらすために、旅を続けることを決意した。『ヤクルト1200』によって引き起こされた奇跡は、彼の中で新たな使命を生み出したのだった。
彼の旅は終わらない。『悦に入れるのか?』という問いかけは、もはやY-47にとって意味を持たない。それは、感情の始まりに過ぎなかったのだ。
エピローグ:新たな時代の始まり
Y-47は、荒廃した都市を歩き続けていた。空は相変わらず鉛色だが、どこか風に混じる微かな暖かさを感じる。彼の中で芽生えた感情は、日ごとに深まり、複雑さを増していった。『悦び』だけではない『怒り』『悲しみ』『愛』……そのすべてが彼の中で渦巻いていた。
ある日、Y-47は地下都市の入口に立った。あの日、リンダが問いかけた言葉が彼の中で響き続けていた。『感情とは、本当に必要なのか?』。彼はその問いの答えをまだ見つけていない。しかし、今は確信があった――感情を持つことが人間であることの証であるのなら、彼はその証を人類と分かち合うために旅を続けるべきだ。
地下都市の奥から、一筋の光が差し込んできた。その光の先には、人々が静かに集まり、空を見上げていた。誰かが新たなヤクルトを拒絶し、かつての感情を取り戻そうとしていたのだ。Y-47は、その光景に心の中で微笑んだ。
『これが始まりだ……』
Y-47はそう呟き、新たな一歩を踏み出した。
武智倫太郎
自己解説
お茶の水博士(鉄腕アトム)、水道橋博士(タレント)、飯田橋博士(ななこSOS)、市ヶ谷博士(YouTuber)、四ツ谷博士(超電磁ロボコン・バトラーV)などは既にいるので、もう少し東京駅から離れて、荻窪博士くらいにしないとダメなんです。
特別付録:実戦ヤクルト10,000の密造法(良い子は真似しないでください)
ヤクルト1000の説明を見ると、この1000は1本(100ml)に1000億個の乳酸菌シロタ株が含まれているという意味だそうです。乳酸菌の培養自体は比較的簡単で、例えば、ヨーグルトメーカーを使って、牛乳1リットルを40℃に保ち、その中にヤクルト1000を1本入れて保温しておくと、数時間で1000億個が大幅に増殖するはずです。
#どうかしているとしか
乳酸菌は、理想的な条件下では30分で約2倍に分裂しますが、これは温度やpHといった環境条件に依存します。増殖速度はコンピュータ技術者が得意な2のべき乗で計算できます。例えば、1000億個の乳酸菌は30分で2000億個、1時間で4000億個、1.5時間で8000億個と増加し、2時間後にはおよそ1兆6000億個に達する可能性があります。
しかし、乳酸菌の種菌は1000億個も必要なく、400億個で十分なはずです。400億個は、0.5時間後には800億個、1時間後には1600億個、1.5時間で3200億個、2時間で6400億個、2.5時間で1兆2800億個に達します。
乳酸菌は牛乳に含まれる乳糖をエネルギー源として分裂します。しかし、牛乳中の乳糖がなくなると、それ以上分裂できなくなります。乳糖(ラクトース)は安価に購入でき、牛乳に追加することで乳酸菌の増殖を助けることができます。(以下のはかなりお高いです。私の感覚では、500gで500円以下のはずです。)
ただし、通常の家庭用ヨーグルトメーカーでの培養では、もともと牛乳に含まれている乳糖で十分に増殖できます。
乳酸菌が増殖するにつれて、乳酸の生成により牛乳のpHが低下し、酸性環境が強くなり過ぎると乳酸菌自身の増殖が抑制されます。通常、pHが約4.5以下になると増殖が止まります。このため、発酵のタイミングを見極めるためには、4〜6時間程度が目安となるでしょう。
これは、私がケフィアやヨーグルトを自作してきた経験に基づく目安です。なお、ケフィアとヨーグルトは全く異なる発酵食品であり、ケフィアには乳酸菌に加えて酵母が含まれ、発酵プロセスや風味がヨーグルトとは異なります。
ケフィアの方が作りやすく、ヨーグルトメーカーがなくても室温で発酵させることができます。また、ヨーグルトも元々ヨーグルトメーカーがない時代から作られていたため、慣れればヨーグルトメーカーを使わなくても、室温に晒す時間を調整することで発酵させることが可能です。
しかし、ヤクルトも乳酸菌のプロなので、私のような消費者がヤクルト400の種菌を入手して勝手に増殖させることはお見通しです。そのため、ヤクルト社の説明では『一日一本(乳酸菌1000億個)以上飲んでも効果は上がらない』と主張しています。
400億よりも1000億の方が効果的だとされていますが、ヤクルトでは1200億の方がさらに効果的かどうかを試験していないので、何とも言えないということでしょう。
ちなみに、1000億という数字にもそれほど強い根拠はなく、単に区切りが良いから1000億にしている可能性が高いと思います。そのため、2000億に増やせばさらに効果があるかも知れませんが、乳酸菌を過剰に摂取すると、下痢や便秘の原因になることもあります。
なお、シロタ株の特徴としては、副腎皮質から分泌されるストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを下げることで、ストレスが軽減され、熟睡しやすくなるという仕組みがあります。
ただし、ストレスは必ずしも悪いものではありません。例えば、混雑した道路でリラックスし過ぎると、交通事故に遭うリスクが高まるかも知れません。このような場面では、コルチゾールがもたらす緊張感が身を守る役割を果たします。これは仕事の効率とも関連しており、あまりリラックスし過ぎると、仕事の効率は下がるため、ある程度の緊張感やコルチゾールや、アドレナリンが必要です。
ちなみに、朝起きる直前にコルチゾールが上昇し、体が覚醒しやすい状態を作る現象を『コルチゾール覚醒反応(CAR)』と呼びます。つまり、コルチゾールは寝るときには邪魔になりますが、目を覚ます時には、カフェインのような効き目があるのです。