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日本の自動車産業が日本経済を滅ぼす:『ものづくり日本』の幻想が抱える致命的欠陥(2)
ガソリン1リットルの熱量(LHV:低位発熱量。混入した水分の気化熱を差し引いた値)は約31.5MJあり、これをkWhに換算すると約8.75kWhとなります。ガソリンの価格が170円/Lの場合、1kWhあたりのコストは170円を8.75kWhで割り、約19.4円/kWhになります。
日本のソーラー発電におけるFIT(固定価格買取制度)の売電価格は発電規模によって異なりますが、10~12円/kWh程度です。
日産リーフには40kWhと60kWhモデルがありますが、ここでは仮にEVのバッテリー容量を50kWh、1回のフル充電で平均400km走行できるとし、計算を簡単にするため電気料金を10円/kWhと仮定します。
実際の充電では約10~15%の充電ロスが発生しますが、ここでは無視して理論値を求めると、フル充電時のコストは50kWh×10円/kWh=500円となります。
但し、実際の電力単価は契約内容や充電方法によって変動し、夜間の割安プランを活用すれば10~15円/kWh程度で済む場合もあるものの、通常の家庭用電力料金では20~30円/kWhが一般的です。そのため、日本国内において現実的な充電コストは1,000~1,500円程度と考えるのが妥当でしょう。
一方、電気料金が10円/kWh程度であれば、プリウスのようなハイブリッドカー(HV)と比べて燃料代に相当する電気代はおよそ5分の1で済みます。これが、バッテリー電気自動車(BEV)の大きな利点なのです。しかも、この10円/kWhの電気代はソーラー発電コストが国際的に見て高いとされる日本でも、条件次第で十分実現可能といえます。
海外のソーラー発電コストとの比較
ソーラー発電の発電コスト(LCOE: Levelized Cost of Energy)を計算するには、以下の要素を考慮する必要があります。
・CAPEX(初期投資費用)
・OPEX(年間運用費用の合計)
・廃棄コスト(システムの解体・廃棄費用)
・寿命期間中の総発電量
計算そのものは、上記をすべて合算して総発電量で割るというシンプルな構造です。日本の場合、平地の地価が高く、屋上設置に伴う工事費も膨らむため、発電コストは6~8円/kWhの範囲になるといわれています。ここにFITの売電価格(10~12円/kWh)とのギャップが、ソーラー発電事業の利益となります。
一方、サウジアラビアやアルジェリア、モザンビークなどでは、全天日射量が東京の1.7~2.0倍近くに達する地域も存在します。シリコンベースのソーラーパネルは高温下で発電効率が低下するため、単純に日射量が2倍なら発電量も2倍というわけではありませんが、それでも1.5倍程度の発電量は期待できます。
さらに、これらの地域では地震や台風などの自然災害がほとんどなく、土地代がほぼ無料に近いケースも多いため、最終的な発電コストは1円/kWhに迫る水準まで低下しています。サウジアラビアや南米のチリなどで行われる公共入札案件には、丸紅などの日本企業も多数参加しており、売電価格が2円/kWhでも高い収益が期待できる状況です。さらに、南欧諸国においても、売電価格3円/kWhでソーラー発電事業者が十分な利益を確保しています。
日本国外では、日本のFIT制度に基づくソーラー売電価格(10円/kWh)の1/5以下、すなわち2円/kWhの発電コストを実現することは、それほど困難ではありません。つまり、日本以外の国々では、ハイブリッド自動車のエネルギーコストの1/5、そのさらに1/5、すなわち1/25にまで低コスト化することが可能なのです。
ソーラー発電×BEVのシナジー効果
ソーラー発電システムにおいて最も大きなコスト要因の一つは大容量バッテリーですが、BEVには標準で大容量バッテリーが搭載されています。これをエネルギー貯蔵手段として活用すれば、発電コストの低減だけでなく、電力需給の最適化も図れます。
具体的には、日中に余った電力をBEVに蓄え、夜間や電力需要のピーク時に放電することで、家庭やオフィスの電源として利用可能です。これにより電気料金の削減や非常時のバックアップ電源確保など、多様なメリットが得られます。
さらに、ソーラー発電の導入とBEVの組み合わせは、エネルギーの地産地消を促進し、送電コストの削減や電力インフラの負荷軽減にも寄与します。このモデルが普及すれば、既存の発電・送電網への依存度が下がり、エネルギー自立性の向上が見込めるのです。
近年はV2G(Vehicle-to-Grid)技術も進展しており、電力会社との連携による需給調整が可能になりつつあります。例えば電力需要が低い時間帯にBEVを充電し、ピーク時に逆に電力を供給することで、再生可能エネルギーの変動を平準化し、電力の安定供給と経済性を両立できるのです。
このように、ソーラー発電とBEVを組み合わせることは、単なるコスト削減を超えて、エネルギーをより効率的に使い、環境負荷の低減にも大きく貢献する、次世代の持続可能なエネルギーモデルといえます。
再生可能エネルギーに不利な日本の地理的条件
日本国内にはソーラーパネルを設置できる平坦な土地が少なく、ソーラー発電が原因で土砂災害が増加したケースや、台風・豪雪による被害も無視できません。もともと山が多い国土で、限られた平地は住居・耕作地・工場・道路などに利用されているため、ソーラー発電に適した土地は極限られています。
対照的に、アフリカ大陸や南米大陸には見渡す限りの地平線が広がり、植物すらほとんど生えないような広大な土漠があります。アメリカや中国にも未開発の土漠が多く、なかには地上核実験が繰り返された地域など、既に環境そのものが失われており、ほかに利用価値のない土地も存在します。こうした地域は『飛行機の墓場』にする程度しか使い道がなかった場所であり、ソーラー発電にはうってつけとされます。
また、中東の砂漠地帯は石油やガスが産出される関係で、既に環境負荷が高いと見なされる地域もあるため、ソーラー発電を導入すること自体が環境改善策ととらえられる場合もあります。こうした海外の広大な土地と比べると、日本国内でのソーラー発電には物理的な制約が大きいのは否めません。
それでも日本でBEVを普及させるべき理由
私は以前から、日本政府が掲げる水素やアンモニア利用について、簡単な四則演算だけでもエネルギー収支や金銭的収支が成り立たないことを『小学生でもわかるシリーズ』として指摘してきました。さらに、トヨタ自動車による水素エンジン開発のように実用性が低い研究開発は、早急に中止すべきだと学術論文などを通じて警告してきたのです。
実際、この結論は既に形になっており、関西電力と丸紅が進めていたオーストラリアでの水素製造事業は、2024年11月時点で撤退が決定しています。
トヨタがどれだけ努力して水素エンジン車や水素燃料電池車、アンモニア燃料車、ギ酸燃料電池車などを開発しても、肝心の水素の安定供給が不可能になった今、これまでの数兆円規模の水素関連投資は事実上、無駄になってしまいました。この投資額は今後数十兆円に拡大すると見込まれていますが、その原資は私たちが納めた税金です。
『【衝撃】トヨタが開発『ギ酸を使う燃料電池』に世界が震えた!』という表現は、決して誇張ではありません。あまりの馬鹿らしさに、世界中の有識者が爆笑し、震えが止まらなかったのです。このプロジェクトの即時中止を勧告していた私は、トヨタのあまりのお粗末さに、怒りで震えが止まりませんでした。
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そもそも、日本にはソーラーパネルを設置する十分なスペースもないにもかかわらず、エネルギー変換効率20%のソーラー電源を用いて、わずか7.2%の変換効率を『達成した』と誇らしげに主張しているのです。ギ酸の化学式はHCOOH。つまり、大量のエネルギーを投入して回収したCO₂に、高価な水素を付加し、さらに貴重なソーラー電源を投入して、変換効率10.5%を『成功』と称しているのです。こうした取り組みからは、豊田中央研究所の合理的な思考力に疑問を抱かざるを得ません。
さらに、この研究成果を同社の『最大の成果』として大々的に掲げている点も問題です。加えて、ギ酸は非常に腐食性が高く、有毒であり、取り扱いが極めて困難な物質です。このような特性を考慮すれば、実用化には相当な課題が伴うことは明白です。
こうした状況下で、日本の自動車産業は国民の血税を使い続け、加えて車検費用や道路税、ガソリン税なども海外と比較して著しく高額です。日本人がいかに自動車業界に資金を吸い上げられているか、改めて考える必要があるでしょう。
もし日本の自動車メーカーが、中国などの海外勢が投入する安価なBEVに対抗できないのであれば、日本人は海外から安価なBEVを輸入し、地方では自宅のソーラー発電を活用して充電・運用する道を選ぶことも可能です。そうすれば、日本の巨額な貿易赤字要因である石油や鉄鋼などの資源輸入への依存度を減らし、エネルギー面での自立性を大きく確保できるはずです。
一方、東京では日当たりの良い庭付き一戸建てに住む人が少なく、自宅で発電した電気をBEVに充電できる世帯数は限られています。さらに、都心部では徒歩2~3分圏内に東京メトロ、都営地下鉄、JRの駅があるため、そもそも一般の人々にとって自動車を所有する意義自体が薄れつつあります。加えて、カーシェアリングの普及が進めば、都内を走るのは業務用自動車だけで十分といえるでしょう。
武智倫太郎