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13歳、チョコレート、反省文

日頃あることないこと喚いている番犬ガオガオことおれですが、ご覧の通りモテとは遠い生活を送っております。もっとね、こう日頃港区でナチュールワインを堪能しているとか、ドルの相場がどうとか言えばもっと違った生活を送れていたんじゃないかとね、思う日もありますけれども。


30を過ぎたいい大人がコンビニのアイスクリームがどうとか、自意識がオーバードライブして夏服を一人で買いに行けないとか、暇さえあればドーナツのことばかり考えているとか、どう見ても陰険な暮らしを送っていそうだな、と思いますでしょう?実際そうなんですけど…うるせえなこの野郎!


人生にはモテ期が3回訪れるなんて言いますけど、おれは明確に一度、これはモテ期ではないかと思った時期があります。それが田舎の村に一つしかなかった中学校に入った年、13歳の頃のことでした。


中学生の王道モテといえば、運動ができるとか、顔がいいとか、ちょっとヤンチャしているとかが当てはまりますでしょう?おれは、小さいころは手前味噌ながらなかなか可愛い顔つきをしていましてね。吉岡秀隆の子役時代、「北の国から」の純くんみたいだねとか言われておりましたが、中学にあがるころにはすっかり吉岡秀隆の面影は消え失せてしまい、運動も勉強も特段できるわけではなく、いわゆる普通よりもちょっと何かが足りていないあるいはズレている中学一年生の様相でした。



ただ、ウケを狙ってあることないこと喋っては一笑いかっさらっていたところは今と変わらず、おもしろキャラとしてやっていました。それから、二つ年上に姉がいるんですけれどね。彼女もまたひょうきん者で通っており、ギャルの先輩方とも分け隔てなくやれていました。そんな姉に顔がそっくりだったということで、中学三年生の先輩方と廊下ですれ違うと、弟くんじゃんなんてチヤホヤしてもらったり、ヤンキーの先輩からは「気に入らない奴がいたら殴ってやるからおれに言えよ」などと随分可愛がってもらえたものでした。


中学一年生の時分からしたら、三年生は神様みたいなものでした。ギャルやヤンキーといったスクールカーストの上位にいた先輩方から可愛がってもらった一方で、めっぽうひょうきんだったこともあり、自然と学年内でのさんしさんの株は上がり続けていたのでした。お姉ちゃんありがとう!


話は2月、バレンタインデーの時期のことです。学校にチョコレートを持ってきてはいけないという先生からの注意をよそに、クラスは浮足立ったムード。中学生にもなると悪知恵が働き、こっそりチョコレートを学校に持ち込み、意中の人の机の中に忍ばせたり、放課後に呼び出して手渡すなんてこともやるようになります。おれもまた、人気のないところに導かれてチョコレートを手渡されたり、机の中にいつの間に手紙を添えて入れられていたり、気が付けば10個ほどのチョコレートを持っていました。


10個も貰っていればモテ期だと言ってもいいでしょう。それで、これはおれモテ期が来ておる!と今までにない興奮に震えながら帰り、自宅でホワイトデーのお返しを考え、当然、思春期の只中にあって正直に家族に言うのは恥ずかしいですから、中学生の女子はホワイトデーにどんなものを貰うのか等、姉にそれとなく相談したりなどしていました。


翌日のことです。緊急の学年集会が開かれ、体育館に集められました。先生が言うには、昨日あれだけ禁止したにも関わらずチョコレートの受け渡しがさかんに行われていた。誰が誰に渡したかもある程度把握している。ついてはチョコを手渡した者・受け取った者は正直に名乗り出るように。一切バレンタインデーに関与していない生徒だけこの場を去るようにと言うのです。


これはいけません。トボけて体育館を後にしてもよかったのですが、おれはなんと10個も貰っています。これだけ貰ってしまえばシラを切り通すのはあまりにも困難であると判断したおれは、正直に名乗り出ることにしました。


体育館にはおよそ半分ほどの生徒たちが残りました。先生方に囲まれ、「学校の規則を破るとは何事だ」「お前のような人間が学校の風紀を著しく乱している」「性根が腐っている」等、散々な言われようです。おれはただチョコレートを貰っただけなのに。


小一時間ほどお説教をされた末に、罰として反省文が課されました。ついては、原稿用紙5枚以上の反省の弁を述べ、その中で必ず誰に貰ったかを明記すること、また親御さんに見せてハンコを貰った上で3日以内に提出するように、とのことでした。思春期の男子にとっては、両親にバレンタインデーにチョコレートを貰ったことなど知られたくないものです。それも10個も!!どんな顔で反省文を見せればいいのでしょう。途方に暮れながら帰路についたのでした。


反省文には、はじめにこんなことを書いたのを覚えています。

「僕は、●●さん、●●さん、●●さん…(中略)にチョコレートを貰ってしまいました。学校で禁止されているのを知っていたにも関わらず受け取ってしまったことは、僕の心の弱さが引き起こしたことです。来年は、チョコレートを手渡されても断る強い気持ちを持てるよう、勉強や部活に励みたいと思います。云々云々。」


チョコレートをまるで大麻や覚せい剤の類であるかのように書き、両親に見せました。10個も貰ったんだ、と鼻で笑われ、加えて、「来年もチョコレートを貰えると思っているとは、お前はなんて図々しいやつなんだ」とまで言われ、ハンコが押されました。こんな屈辱があるでしょうか?翌日、担任にすみませんでしたと提出をしたところ、10個も貰ったんだ、と鼻で笑われました。悪いかよ。


あれから20年近くが経とうとしています。毎年バレンタインデーが近づくと、「バレンタインデーにチョコレートを貰いすぎて反省文を書かされたことがある」と、人生最大のモテ期のエピソードトークとして話し、一笑いかっさらっています。なんとも情けない話です。本来であれば、もっとね、こう日頃港区でナチュールワインを堪能しているとか、ドルの相場がどうとか、30歳を迎えたひとりの大人としてそんな話の一つでもできていたらもっと違う生活が送れたんじゃないかと思っています。


コンビニのアイスがどうとか、自意識がオーバードライブして夏服を一人で買いに行けないとか、暇さえあればドーナツのことばかり考えているとか言っているのは、10代の多感な時期にこんな経験をしてしまったからに他ならないのです。次の世代の子どもたちにはこんな悲しい想いをさせてはいけない。そんな社会的使命を負っておれはこれを書いていますからね。そんな感じです。




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さんし
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