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月に一度のサウナの日(桜台久松湯)

当方素直で健康、運もまあまあいい方でして、ごはんの時間になるとひとりで食事の支度をすることもできる、自分の家のお掃除も自分でできて靴下も一人で履ける、時々インターネットであることないことビーグル犬の顔で打ち込むといういたずらをすることはあるものの、基本的にはあまり手がかからずよく人に懐くので飼育にたいへん適していることから、近年動物愛好家の中で話題になりつつあるアニマル君こと僕ことおれですけれども。

求められればそれなりにカラオケも歌いますし、酎ハイ2~3杯でごきげんになるたいへんコスパのよろしい仕上がりになっています。日々のメンテナンスは月に1~2回サウナに入れるだけで充分、もちろんその際は詫び石代わりにたまごボーロをととのった目でお配りしています。

というわけで、この日も月に一度のサウナの日ということで、会社で仲良しの増永くんおよび後輩のアラタちゃんと仕事を早めに切り上げてサウナに向かったのです。いつもは大塚のまちでラーメンなど嗜んだのちにサウナに入り、ととのった目でスナックにホールインワンするという流れが定番なのですが、いつも行ってるスナックが、いつ行っても80歳のおバアと深津絵里似のチーママの2名体制でやっているので、たまには違うルートを取ろうよ、ということで、今回は練馬は桜台に上陸したのでした。

で、向かったのが久松湯という綺麗目系サウナなわけなんですが、まー綺麗でした。古き良き銭湯の香りも残しつつも、今風のミニマルなデザインが随所に見られる、いかにもサウナイキタイ的な、なんかそんな感じの場所でした。

こうした小綺麗なサウナというのは、たいていはサウナーと呼ばれる人種たちのたまり場と化しておりまして、いわゆる「サ活」というこまっしゃくれた活動をしているのがよく観測できます。いやおれたちも言ってしまえばサ活なんだけどさ、でもサウナの温室のことを「サ室」とか呼んじゃったり、サウナにおける所作を含むもろもろの立ち居振る舞いを「サ道」とか呼ぶ人たちを見ると、なんだかおれは心の奥のやらかい場所が締め付けられる想いになるということです。あいつらサウナハット被ってるからめちゃくちゃ頭三角だしな。こうしたことを思い表明することはあまり良くないことだとは思いつつ…

で、久松湯もサウナーたちでごった返しておりまして、彼らは一人で勝手気ままに楽しむぶんには害はないのですが、厄介なのが徒党を組んでるパターンですよね。サウナも定員が10名前後なので、3~4人の集団で来られると一気にお部屋が満室になってしまいますし、温浴後の外気浴のためのスペースも席は限られておりますから。

待てよ、とはいえおれも増永くんやアラタちゃんと徒党を組んでいるので、そういったサウナーたちと同じようなものっていうか同じじゃね?吐いた唾がブーメランとなって後頭部にめちゃくちゃ刺さってない?ちょっと見て!おれの後頭部見て!おれ怖くて見れないから!!出てる!?血出てる!?なにか言って!

それで、サウナを堪能したあとは混んでたな、とか徒党を組んでスペースを独占するサウナーたちに悪態をつきながら飲み処を探すわけでございますが、この桜台というまちは住宅街が主でして、駅前に多少お店が立ち並んでいるものの、駅から5分も歩けば住宅が密集しているというそんなまちなわけです。当然、おれも増永くんもアラタちゃんもそんな桜台に降り立つのは初めてなわけですから、お酒が飲めるお店など知らないわけです。

一駅歩けば繁華街のある練馬駅ですから、練馬まで歩いちゃう?とか話していたところ、いかにもおれ好みなお店を見つけました。それがこれです。

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うわもうここだ、ここしかないわ、という気持ちになり、練馬まで歩く覚悟を決めていたふたりに外コンの顔で猛烈プレゼンテーションをします。ここにしようよう、ここにしないと嫌いになるぞと喚いたところ、仕方なしに二人は帯同してくれました。

そこは白いひげのおじさんが一人でやっているお店で、ド平日なその日はお客さんも入っておらずでした。初めてのお店なのでシステムを聞きます。

そのお店は、1時間歌い放題、飲み放題で1,300円ぽっきり!というのです。ただこうしたお店は実はチャージ料が別途かかるとか、グラスに入れる氷でお金を取るとか、フードがめちゃ高いとかそういうからくりがよくあります。何度もそういうお店に行き当たり涙を飲んだ経験があるのでおれ分かるんだ。

めちゃくちゃ安くないですか?と聞くと、おじさんは
「ただうちも商売でやっているので…」と続けます。そらきた!

「1時間を過ぎた場合は自動延長になります。その際、2時間料金で一人2,500円、以降1時間ごとに1,000円が加算されるので、時間にはお気をつけて…もちろん、お通しは料金に含みますし、おかわりもあるからね!他に食べ物もあるけど別に頼まなくてもいいよ。」

ここは良心の塊なのでしょうか。三人とも即決し、席に座ります。お酒を頼みます。冷凍庫で冷やしたジョッキでビールが出てくる感じの、おれがたいへん好きな仕様です。すっかり気を良くした我々は、好き勝手飲んで歌います。

白ひげのおじさんがお通しを持ってやってきます。あの、小学生のときに友達の家に行ったときにお母さんが出してくれる感じの、ちょうどいいお菓子の盛り合わせに、枝豆もついていました。さらに、「これはちょっと早いけどお年玉だよ」といって、みかんを一つずつくれました。桜台!桜台!!!

それではじめは三人でたいへん楽しく飲み食い歌いを堪能していたのですが、ふと店内の張り紙を見ますと、「マスターがお手伝いするヨ!」という文言とともに、マスターの白ひげさんの十八番と思しき曲が並んでいるのを認めました。


一緒に歌ったらきっと楽しい!と思い、おれは「亜麻色の髪の乙女」をリクエストしました。

これは別に言わなくてもいい無駄情報なんですけど、おれの人生における、記憶の中の最古のニュースというのが、ヴィレッジシンガーズを騙る偽物が地方のお祭りに審査員として参加し、ギャラをだまし取ったというものです。無駄情報のコーナーでした。

それでマスターの白ひげさんとデュエットをし、後輩のアラタちゃんが拍手で盛り上げてくれましたのでたいへん気持ちよくなったおれ、「おい!いいお店ですね!」と思わず白ひげさんとハイタッチまでしてしまいました。

後輩のアラタちゃんという男はたいへん後輩力の高い男で、おれのグラスのお酒がなくなったら率先して発注してくれますし、おしぼりを投げ出しているとキチント畳んでくれるというホスピタリティを持っています。また、おれが歌う音楽を、「めっちゃ良いスね!」と言って、アップルミュージックのプレイリストに逐一追加するという、そういうことを衒いなくできる男なので、一緒に飲んでいてたいへん気持ちがよいです。人生の諸先輩方に対しておれもこうありたいと思えます。あとお願いするとエルレガーデン歌ってくれるし。

それでととのった目で終電に乗り込んで帰りました。3人でサウナに行くのはたいへん楽しい。次は忘年会だね。そんな感じです。

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