長野のジンギスカンがおいしすぎた話
ジンギスカンは、お好きですか?
赤木晴子の感じでお聞きしてみましたけれども。
おれはジンギスカン好きです。羊肉を食べることで、改めて牛豚鶏が食肉としてまこと優秀であることが再認識できるからという、ゼロ年代あるいは2010年代にサブカルを拗らせながら思春期を教室の片隅で駆け抜けた人特有の逆張りマインドでもって、実に歪な動機で食べていたんですけれどもね。
それから、成吉思汗と漢字で書くと「汗」という字が入るのもなんかちょっとイヤだな、とも思っておりまして。海外の人がポカリに"SWEAT"と入ってるからちょっと敬遠してるみたいなノリで、ジンギスカンと聞くと、どうしても汗だくのチンギス=ハンを連想してしまうことから、これまでそこまでうまいものだとは思っていなかったのです。
あとはジンギスカンを好んで食べる人に対してもつい悪態をつきたくなってしまいですね。彼ら、おいしいとされるジンギスカンを食べたときに「あんまり癖がなくておいしい」とか言いやがるじゃないですか。癖がないのが良いなら牛とか豚で良くない?羊肉の羊肉らしいところが薄い方が美味とされるのなら、ジンギスカンに敢えて羊肉を入れる意味ってなに?ってことですよね。
それで、先日長野県の信州新町というところに行ってきたんですけれども。このまちはジンギスカンで町おこしをしている地域ということで、大きな道路沿いに「ジンギスカン街道」という、ジンギスカンを取り扱う飲食店が軒を連ねているというユニークなまちでした。そこでおれもジンギスカンをいただいてみたんですが、これがすごくおいしくて!ジンギスカン観が変わるくらいの出会いをしてきたんです。
おれはシェアハピを行動原理として動いておりますから、おいしいものを見つけたらおすそわけをする、そうでなければすぐにできるだけ多くの人にお知らせをするようにしていますんでね。当noteをフォロ~いただいている各位には、フード・カルチャーの一歩先を行く小粋なアーバンライフをお過ごしいただきたいとおれは常々思っておりますから?僭越ながら紹介差し上げたいなど、様々ゴタクを並べておりますが、要は長野のジンギスカンめっちゃおいしかったから聞いて!ということです。
日本でジンギスカンといえば、北海道とか、東北のほうをイメージしますよね。実は長野県の中でも、この信州新町など一部の山間地域では羊肉を食す文化が古くから形成されていたようなんです。
当然、山間地域なもので冬は厳しい寒さに見舞われます。その中で、「めん羊」といっていわゆるウールを採取するために、古くから町を挙げて羊を育てていたというのが始まりのようです。信州新町は標高が700メートルくらいの高地にあたるので羊なんかを育てるのにも適している環境だったということもあるようです。このへんはパンフレットを見ながら書いていますけどね。
すげーどうでもいい話なんですけど、長野出身の人は自分の住んでるまちの標高をきちんと把握していて、その標高の高さでマウントを取り合っているとの噂を聞いたことがあります。以前に職場の長野県出身の先輩に地元の標高を聞いてみたところ、350メートルくらいじゃないか?と即答され、調べてみたところマジに350メートルだったので、少なくても標高を把握しているというのは本当のようです。
話を戻します。それで信州新町、最盛期には4,000頭もの羊がいたそうなんですが、歳をとってその役目を終えた羊も、最後は食用として命をいただくことで地域の暮らしをつないでいたということです。当然、老齢の羊なので食べるときに羊特有の臭みが強く出てしまいます。これを少しでもおいしく食べるための生活の知恵として、「タレにつけこむ」という独自の文化が発展したということです。事実、今でも信州新町のジンギスカンは、タレに漬け込んで食べるスタイルです。
それでこのタレが本当に素晴らしくて!長野県はフルーツをはじめ、幅広い食をカバーしていることもあり、基本的にはりんごやにんにくなど、地場産品を使ったタレを各店舗や家庭で作っているんですが、そのどれもが本当においしいんです。
あのー、おれは相当に神経が粗雑な人間で、なんにでもしょうゆをかけちゃうような人間です。実質どんな食べ物であっても、最終的には調味料を食べている感覚というか、しょうゆ味のお刺身じゃなくて、お刺身味のしょうゆを食べているといってもいいくらい、とにかく味覚に関しては雑なほうだと自覚をしています。
ただ、その粗雑さを加味しても本当にこの信州新町のジンギスカンのタレが優秀であると強く主張したいと思います!!じっくりと焼いた羊肉にタレをくぐらせて食べますよね。初手、りんごやにんにくなんかのタレそのものの味が口の中に広がります。ここだけでも相当おいしいんですが、遅れて羊肉の味が追いついてくるんですね。おまたせ~っつって。
それでタレの味に混ざり合うわけなんですが、羊の嫌なところが全くしない!いや、癖がなくておいしいとかじゃなくて。誰だそんなこと言ってるやつは!
羊の癖に当たる部分、つまり独特の臭みなんかは当然あるんですが、それとうまく調和するようにタレが作られている!臭みを味方につけて、うまく折り合いをつけながらおいしい方向へ一直線に進んでいる!ちょっと表現力が追いつかず、これ以上の言葉であらわすことができないんですが、つまり抜群においしいということです。
連日、全国各地からこの長野のジンギスカンを求めて多くの人が集まってくるということです。実際、おれがお店に立ち寄ったのは夕方4時くらいのことだったんですが、その時点でも30分待ち。御殿場のインターとかじゃなくて、長野の山間部にです。すごい話ですよね。
これはもう羊の命をいただく際、少しでもおいしく食べたいという古の長野の人たちの創意工夫によって生み出され、そして綿々と受け継がれてきたからこそ、今もこうして多くの人の心を掴んで離さないということなのでしょう。
それから、日本国内に出回っている羊肉の99%は海外からの輸入に頼っているなんてデータも出ております。多くはオーストラリアやニュージーランドから届いているということなのですが、当然、空輸をする際に冷凍したりなんかしますんで、輸送中にお肉が劣化してしまうんだそうです。だから、本当においしい羊肉を食べるためにはチルドにする必要があるものの、コストや手間の関係でなかなか手が出ないのだと、以前にジンギスカン屋さんが言っていたような気がします。
一方、信州新町では、最盛期と比べて数は相当少なくなりましたが、今でも200頭ほどの羊が食用に飼育されているそうです。信州サフォークとブランド化されていて、一部のお店では実際に食べることができるのも魅力の一つなのだとか。
どんな羊肉もおいしく食べることができるタレがあることに加え、質の高い羊のお肉が地域で食べられることも、信州新町がジンギスカンのまちとして成功している理由なのだな、と思ったのでした!きっとまたすぐに食べに行くでしょう。そんな感じです。