すずめを助けて鳥使いになった話
私はスズメちゃんが好きだ。
小さな身体でチュンチュン鳴きながら、一生懸命飛び回るあの感じが大好きだ。
だけどスズメ以外の鳥は基本的に苦手。
むしろ嫌いである。
恐竜の名残が残る足。
鋭い嘴。
バッサバサするあの感じ。
嫌いだ。
と言うのも幼少期に住んでいた田舎の家の側に養鶏場があり、その中には屠殺場もあったのだが、バラック小屋と言えばいいのかボロい作りの小屋だったためか、食肉にする為に首を落とした鶏が、その勢いで走り回りよく外に逃げ出していたからだ。
幼少期の私はそれを数回目撃した上での、
幼稚園の園庭で行われた出張動物園。
放たれる多数の鶏に追いかけられる私。
いわゆる当時の"トラウマ"で鳥が苦手である。
でも焼き鳥は大好きだ。
鶏と同じような歩き方をするインコなどを見ても未だにゾワゾワしてしまう。
が、スズメのピョンピョン跳ねて歩く感じ。
いわゆるフィンチ系の歩き方は好きなのである。
しかし怖くて触れない。
いやそもそもスズメは触ってはいけない。
スズメは"空飛ぶドブネズミや!"って、
どっかのじじいが言っていた。
雑菌だらけで危ないって事だろう。
そんなこんなで肉になった鳥以外とは触れ合う機会もなく、大人になった。
大人になっても変わらず苦手。
しかし数年ほど前から私は文鳥を飼い始めた。
鳥好きの旦那が交際時にどうしても飼いたいんだ!!とパワポまで使いプレゼンをしてくるわけです。
テレビでしれっと文鳥のYouTubeを流したり、ラインで大量の動画を送りつけたりと。
まぁーしつこかった。
しかし、その動画に写ってる愛らしい文鳥ちゃんたち。
見れば見るほど惹かれてしまった。
「いやこれ触れるスズメやん…!」
数日後には文鳥2羽が我が家の一員に。
当初はわからない事だらけで苦労したけど、いまやもう私は立派な鳥好きなわけで、迎え入れた文鳥もベタ慣れ鳥になったため、子無し夫婦の私たちは本当の我が子のように育て、一緒に生活しているのでありました。
Fin.
と、ここまでが前置きで、ここから昨年末の話になる。
私は都内近郊の自社の様々な店舗を回る仕事をしており、移動時間に競艇を見たり、大好きな漫画を読んだりする為、基本的に電車、バスなどの公共機関を利用して移動をする。
ぶっちゃけ車で移動するよりも早かったりする為その方が楽なのだ。
先日私は午前中に回った店舗を離れ、別店舗に移動しようとバスに乗った。
イヤホンをつけて、座りながら優雅にスマホを手にする時間を楽しんでいた。
あるバス停でバスが停車したのだが、中々発車しない。イヤホンから流れる音を止めると何やら騒がしい。
ふとスマホから目を離し、乗車口の方を見ると見知らぬおばさんが、のけ反りながらバスに乗るのを躊躇している。
よく見ると運転手もギャーギャー騒いでる。
バスの中に親離れの練習をしていたであろう、小さいスズメが入ってきてしまったのだ。
かわいそうにパニックを起こしバタバタ飛び回って暴れている。
おばさんはギャーギャーうるさい。
前方にいる男子学生はスマホでその状況を目をギンギンにしながら撮影している。
しまいに運転手は
「なんだこれ気持ちわりぃ!」と言い放った。
なんだこれ気持ち悪いだと?
私の唯一野生の鳥で心許せるスズメちゃんを気持ち悪いだと??なんだこのボケドライバー!
と、すごく頭にきてしまった。
季節は10月末頃で寒くなるだろうからとたまたま下ろしていた、手袋を装着し、ガンギマリ(茅チルではない)学生を押し退けて前に行くと
運転手「うわぁぁー!死んだー!オェー!」
と言い放った。
うるさい!だまれ!!
と、1番うるさい声を放ってしまった私。
呆然とする運転手。
なぜかそのタイミングで乗車して奥へ行くオバハン。
相変わらず撮影を続けるバカ。
シーンと静まり返った車内で運転手が
「あなたはなんですか!?」
と言ってきた。
私は
鳥を飼っている者です!(キリッ)
と謎の返答をした。
私「あなたがスズメを追い出そうとしてギャーギャー喚きながら、帽子で払い除けようとするから、恐怖の余りこの子はてんかんをおこして気絶してしまってるのですよ!
てか、あんたスズメ見たことないんか?!ギャーギャー喚くなボケ!」
今思うとどうしてこんなに私は口が悪いのだろうか。きっと親のせいだ。
私は手袋をはめた手にそっと子スズメを乗せ、バスを降りた。
運転手はボーッとこちらを見ている。
私「この子が目覚めたらまたバス乗るから行ってください。」
と言うと運転手は、へぇと気の抜けた返事をして走り去った。
ありがとうもなく。大事な事だからもう一度。
ありがとうもなく。
都営バスの◯◯さんよ忘れないからなあんたの顔は。
降りたバス停の前で私はしばらく"はぁーっ"と温めるように息を吹きかけていた。
我が家の文鳥は2羽のうち1羽は非常に体が弱く、飛ぶのも下手、足も障害があり内臓も弱い。
急に口を開け目を瞑り呼吸が荒くなって気絶しかける事が多々あった。
これが鳥のてんかんだった。
◯◯さんがてんかん起こしてひっくり返った!って聞いたことあると思う。
鳥でもパニックを起こすと同じ事が起こるのだ。
うちの文鳥はとにかくてんかんを起こす子だった。
飼いだしたのが生後3ヶ月で1歳まで生きられらないと思うとお医者さんには言われてしまった。
だけど、人間がしっかり寄り添ってあげれば気持ちは通じるもので、5歳2ヶ月まで生きてくれた。
とっても頑張って生きてくれた。
歌が大好きな子で私が歌の練習をすると一緒になって歌ってくれる子だった。
今回のバスの出来事は溺愛していた文鳥が亡くなり半年しか経ってなかった。
どうしても私が助けねばという使命感に駆り立てられた。
とりあえず鳥が弱ってる時は温めるのが大事。それはわかっていた。
とにかく必死で温めてあげた。
すると、パチっと目を覚ましてくれたスズメちゃん。
直ぐに親がいるのであろう方向に飛び立っていった。
「ああ、よかった」
と安堵して先程の運転手の対応にイライラしながら、そのまま次のバスを待った。
5分位経っただろうか。
イヤホンをしてスマホを見ていると、後ろに並んでる女子高生2人が私を見ながらキャッキャ言っている。
イヤホンを外すと、
「お姉さん、小さいスズメが、お姉さんのリュックの上で遊んでますよ!」
と言った。
えっ、嘘??とリュックを見たいのだが、流石に首が180度回転する訳もなく、私にはその姿を捉えられなかったが、首元からチュンチュン囀る声が聞こえた。
ふと前を見るとガードレールの上に4匹のスズメが並んで、ピーピー私向かって叫んでいる。
何か私に訴えているかの様に。
子供を助けてくれてありがとうと言ってくれたのだろうか。
凄く嬉しい気持ちになった瞬間だった。
一通り鳴くと、どこかに飛び立っていってしまった。子スズメもそれを追いかけていった。
後になって動画撮ればよかったと思ったが、そんなもの頭に回らないくらい一瞬の出来事だった。
可愛かった〜!けど、なんだったんだろ?
と話す女子高生に
「可愛いよね?バスでこんな事があってね…」
などと経緯を話すと
「すごい!鳥使いですね!スズメちゃんの恩返しだ!」
こうして私改め、鳥使いが爆誕したのである。
鳥嫌いだった私が、文鳥に出会い、鳥という生き物に触れる事で彼らの性質を知り、彼らの手助けをしたらちょっとした恩返しをしてくれた。
私の生涯で、素敵な忘れられない経験になった。
ちなみにその日の競艇は負けた。