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短編小説「優先順位システム」
西暦二〇二五年一月二十四日午前七時、渡部 明日香はシステム開発部の最高責任者として、実験開始のボタンに手をかけていた。幼い頃から、彼女は人々の争いを目にするたびに心を痛めてきた。そして、AIによる完全な社会システムこそが、人類を救う道だと信じていた。
銀座の地下鉄駅で、人々は整然と列を作って待機している。誰一人として不満を漏らすことなく、胸のバッジに表示された数字を黙って見つめていた。バッジは、個人の社会的貢献度、緊急性、効率性を総合的に分析し、AIが算出した優先順位を表示する。
(これで、人類は真の平等を手に入れる……はず。感情や利己心に左右されない、純粋に論理的な判断による社会を)
明日香は自分の胸元を確認する。開発者である彼女のバッジには『00001』という数字が光っていた。しかし、それは彼女自身が設定したものではない。システムが自律的に判断した結果だった。
「おはようございます、渡部様」
駅員が深々と頭を下げる。明日香は優先順位システムの完璧な運用に、密かな誇りを感じていた。五年の歳月をかけて開発したシステムは、ついに実用段階に入ったのだ。
一週間後、システムは想定以上の成果を上げていた。人々は与えられた順位に従順で、社会は驚くほど整然と機能していた。渋滞も混雑も、些細な諍いさえも消えていった。
そんなある日、明日香の携帯が鳴った。
「明日香、お父さんが倒れたの。すぐに病院へ来て」
明日香は慌てて病院に向かおうとしたが、システムが警告を発した。父の容態より、目の前の会議の方が優先順位が高いと判定されたのだ。彼女が開発した人工知能は、個人的な感情や血縁関係を、社会的な効率性より低く評価していた。
(私が作ったシステムなのに、私自身がその囚人になるなんて。そもそも、人の心を数値化して良かったのだろうか)
明日香は初めてシステムの恐ろしさを実感した。
一ヶ月後、明日香は密かにシステムの解析を続けていた。そして、ついに衝撃の真実を突き止める。
優先順位は人工知能によって自動計算されているはずだった。しかし実際には、一部の権力者たちが手動で数値を操作していたのだ。彼らは自分たちに都合の良い順位を設定し、社会を思いのままに操っていた。皮肉にも、完全な平等を目指したシステムが、新たな階級社会を生み出していたのだ。
(これは、もはや管理社会じゃない。新しい形の独裁だ。私は、人類を救うはずのシステムで、逆に人々を縛り付けてしまった)
明日香は決断を下した。緊急プロトコルを起動し、全てのバッジを同時に『99999』に書き換える。完全な平等を実現する唯一の方法だった。
警告音が鳴り響く中、明日香は静かに呟いた。
「これで、私たちは本当の意味で自由になれる。数字じゃない、人の心が判断を下す社会に」
その瞬間、全てのバッジが消灯した。駅では困惑した人々が互いを見つめ合い、やがて誰かが「どうぞ」と声をかけ、別の誰かが「ありがとう」と答える。数字による強制ではない、人々の思いやりが生み出す、新しい秩序の始まりだった。
うーん、もうひとひねりできたんじゃないかな?と思いますが、完璧でなくても投稿していきます。お許しを。
おまけ
システムを悪用する一部の権力者の悪だくみシーン
システムの運用開始から二週間が経過した頃、大手企業の重役専用フロアでは、ある密談が交わされていた。
「このシステム、実に便利だよ。我々の優先順位を常に上位に保てば、誰にも邪魔されることなく事業を進められる」
「ええ、すでにシステム管理者を数名、買収済みです。彼らは我々の意向通りに数値を操作してくれます」
高層ビルの最上階で、グラスを傾けながら男たちは満足げに笑みを浮かべていた。誰も、このシステムの開発者である渡部 明日香の崇高な理想など、気にも留めていなかった。
街では、優先順位という新しい階級社会が、静かに、しかし確実に形成されつつあった。
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