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アイスクリームの天麩羅、あるいはケン・イシイ。

 本国よりも海外で広く知られているかもしれないテクノアーティスト、ケン・イシイ、6年ぶりのアルバム。幾つかの変名でも知られる彼だが、今回は菊地成孔をはじめとするミュージシャンたちとセッションした異種格闘技戦ともいうべき新プロジェクト。タイトル通り、夜、特定の人々を踊らせるためのダンスミュージックではなく、昼間の街を行き交う人々の環境を高揚させるための音楽である。
 デジタルかアナログか。あるいは生音か人口音か。そんな二分法がいつかにつまらないかを思い知らされる「通い合う」音色のありようは唯一無二のケン・イシイ調。緻密な手描きと形容すればいいのだろうか。音楽ならではのぬくもりがキチンとおさまるべきところにおさまっていく品のよさ。ときに楷書のような端正さを見せながら、ときに草書のように自由にくずされていく余裕の「雅び」が、日本人が、そして外国人が、日本という国に期待する慎ましい「潔白」を撫であげていく。反復によって浮き上がってくる、独特の情感。背景だけに留まるのではなく、背景そのものがせり出して、音楽の全容をくるんでいく呼吸が、安易なダイナミズムも、凡庸なミニマリズムにも陥らず、絶妙の距離のまま届けられる。
 高尚なクリエイションではなく、世俗の隙間を掬いあげ、磨き輝かせてしまう平易なアプローチ。それは言ってみれば「アイスクリームの天麩羅」と呼んでもいいものかもしれない。温度差と、テクスチュアの変幻自在ぶり、ファニーフェイスでキュートなありようは、食わず嫌いなリスナーの先入観をにっこり呑みこんでしまう。
 スピードがつかみとるニュアンスの豊かさ。あるいは稜線の鮮やかさを彷彿とさせる余韻のやわらかさ。親近感のある驚きが宿る音楽。 

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