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笑うと誰かが救われる。『旅猫リポート』の福士蒼汰。




有川浩原作・脚本による映画『旅猫リポート』で、福士蒼汰はキャリア最良の芝居を見せている。猫とふたり旅という特異な構造の作品だからこそ、この俳優の見たことのない表情がいくつもある。彼は、これほどまでのポテンシャルとスキルを隠し持っていたのか。ネタバレしない範囲内で、本作の「福士蒼汰リポート」を試みてみたい。


近年の福士は、アクションの印象が強いかもしれない。今年公開の主演作2本『曇天に笑う』『BLEACH』はいずれもバリバリの活劇だったし、昨年の『無限の住人』ではラスボス役で存在感を発揮した。
その一方で、やはり彼は恋愛ものの王子様だというイメージも相変わらず根強いと思う。『好きって言いなよ。』『ストロボ・エッジ』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』などで見せた「ときめきの純化形」は忘れがたい。
ところが、『旅猫リポート』には、アクションもなければ、恋愛要素も(ほぼ)ない。基本的には、もう自分では飼えなくなった猫を、新しい飼い主候補たちの許に送り届けようとする主人公の旅の道行きが綴られるだけである。言ってみればこれは、猫と青年のロードムービーなのだ。
ひとり芝居とは違う。だが、人間相手の演技とは明らかに違う。
福士蒼汰はここで、これまでとは別次元の優しさを見せている。

かつてインタビューしたとき、彼が教えてくれたことがある。「笑顔は自分の武器だと思っています」。衒いなく、そう語る姿には、誇示がまるでなかった。ナルシシズムでもない。むしろ自身の表現を冷静に見つめる目があった。
福士蒼汰の笑顔は、だれにも似ていない。さわやかだが、はかない。どこか潤んでいる。だから、理由もなくせつなくなることがある。どんなに明るい映画でも、彼が笑うと、時間というものは永遠ではないと感じてしまう。刹那と憂いが、笑顔の輪郭のどこかに仕舞い込まれている。そんな気がしていた。
『旅猫リポート』で福士は、彼オリジナルの笑顔の本質をいよいよ本格的に垣間見せている。わたしは、何度か息を呑んだ。なぜなら、彼の表情には、人はなぜ笑うのか? という究極の問いの答えが、映し出されていたからである。
詳細は差し控えるが、これはひとりの青年が愛猫を手放す旅の物語であり、なぜ手放すかという秘密をめぐる物語である。
主人公は、その悲しみをそっと抱きしめるように笑う。ぎゅっと抱きしめるように笑う。笑うことで瀬戸際の自分をぎりぎりキープするために笑う。誰かに大切なことを伝えるために笑う。
だから、笑顔は悲しみのすぐ隣にいる。悲しみの背中をそっと撫でるように笑顔がある。悲しみの小指と、笑顔の小指とが、そっとふれあい、束の間の約束をする。福士蒼汰の笑顔は、淡い水彩画のようにデリケートだ。デリカシーだけで創り上げられているその笑顔は、たとえアップにならなくても、わたしたちの心を満たす。豊かな、ほんとうに豊かな笑顔だ。
人は、誰かのために笑うのだ。人は、何かのために笑うのだ。
そんな「当たり前」を、福士蒼汰の笑顔は言葉を超えた実感そのものとして送り届ける。
笑うと誰かが救われる。笑うと世界が救われる。誰かが救われ、世界が救われると、自分も救われる。とてもシンプルな真実を、『旅猫リポート』の福士蒼汰は伝えている。


主人公の叔母を演じる竹内結子が素晴らしい。愛猫ナナの独白を体現する高畑充希の声が素晴らしい。だが、それらの素晴らしさをうっかり忘れてしまうほど、福士の孤独な笑顔は素晴らしい。





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