くちかず 「短歌人」2019年7月号
くちかず 相田奈緒
風の中にいる、いた、風の外に出る 噴水の飛沫は日に当たる
風が吹く力に撓む木の枝の戻る力に葉は光りだす
膝までを日なたに入れて立っている信号待ちの間にも風
もし馬を飼ったらとても大切にするだろう毎日梳いてやる
根雪にはならない首都に雪予報 ここにしか住んだこと無い人ら
悪い言葉はふせられていてわからない私は想像力を使った
簡単に会えない人の事は思うしかなく、思う たまに連絡
雪だるま式にふくらむものでしょういかなるものも芯さえあれば
関東の南は冬によく晴れるおのおのの頬の水分は減る
街路樹の根元の土に自転車のわだちあり見れば、青い影
夕方のなか向き合ってあけましておめでとう 凍っている駅前
ビルの影斜めに差して面白いかたちに口数が減っていく
この先の全ての賭けに勝つようにあなたが これは私の心
心の形がわかったところでどうしよう冬の桜の木のいいにおい
葉の音と枝のとを聞き分ける耳 木は風が吹くだけで動ける
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髙瀬賞応募作。佳作として「短歌人」2019年7月号に掲載されました。