星飼い-04

星使いと秋の星の話

とある少女は、とある時期、とある大人と旅をしていた。
その人は少女と同じ星使いで、旅人で、不思議な夢を持っている人だった。

少女がその人に出会った時は一人だった。この時少女はただぼんやりと空を見ていた。

「こんにちは」

音が聞こえると共に、少女の顔に影がかかる。

「あれ? こんにちは?」
「こん…は?」

それは人だった。少女はあまり物を知らなかったが、自分が人であることは知っていた。そして言葉を少し話せる事も。でも言葉はしばらく発してなかったから、うまく口が動かなかった。しかしその人は満足げに笑うと、王冠のモチーフのランタンへ話しかける。

「ほら、秋の星。良い子じゃない?」
「あいさつができただけで良い子ってのはさ、少し単純すぎない?」
「そう? じゃあ、もう少し話しをしましょう」

その人は、ランタンの中の秋の星とのやりとりを終えると、膝をおり、目線が同じになった少女に笑顔をみせた。

「はじめまして。私は星使い。こっちは秋の星」
「ほし、つかい…? あきの、ほし?」
「そう。あなたも星使いよね? あなたの星はどうしたの?」
「?」

少女は首を傾げた。その人はそんな少女をまじまじと見る。

「秋の星。この子もしかして困った状況かな?」
「そのようだね。僕は過去を見れないけれど」
「でも、あなたが見せてくれた未来にはこの子がいたわ」
「そうだね。でもどんな子までかはわからなかったでしょ」
「ええ。だから、会いに来たの」

言葉がたくさん頭に流れてくる。しかし、少女にはそのほとんどが理解できなかったため、黙って二人を見ることにした。すると、その人は少女に尋ねた。

「あなた、お名前は?」
「……なまえ」
「言えるかな?」
「……」
「わからないんだね?」

後に聞いた話では、その人は少女がとても困った顔をしていたので、そう思ったらしい。そしてその瞬間、その人は少女を連れ旅をする事を決めたとも言っていた。
名前もその時からたくさん考えたらしく、数日後にはその人が少女に一番似合うであろう名前をつけたのだった。

それから少女とその人はいくつかの街を転々としながら旅をしていた。少女は物覚えがよく、すぐに言葉も流暢に話せるようになり、その人と秋の星と一緒に星空を作る練習もした。星使いとしても少しずつ成長をしていた。

焚き火を囲んだある時、少女は聞いた。

「なんで旅をしているの?」
「?」
「今日、街の人に言われたの。星飼いの街の人は街を用事があって移動する人はいるけれど、旅なんて無茶をする人は知らないって」
「やっぱり無茶と思うんだね、みんな」

ランタンから秋の星が反応する。少しピカピカと輝いた。

「でもね、僕らは目的がきちんとあるんだよ」
「そうなの?」
「そうよ。私と秋の星はね、夢があるの」
「夢?」
「そう、夢なのさ」
「どんな夢なの?」
「知りたい?」
「知りたい!」

明るく手を挙げた少女は、その人と秋の星に答えをせがむ。その人は優しく微笑んだ。

「いいよね、秋の星」
「もちろんだよ」
「どんな夢なの?」
「実はね、私達は最果てを目指しているの」
「最果て? んー…、とっても遠い所?」
「うん、まぁ間違ってないね。正確にいうとこの世界の一番端さ」
「なんでそんなところに行くの?」
「そこにね、<星見の塔>というのがあるらしいのよ」
「<星見の塔>…?」
「そう。そこに行けば空が一等近く見えるらしいの」
「すごく大きく?」
「そうさ。そしてそこで僕たちの星空を作るんだ」
「素敵ね!!」

いつもたくさんの星を描く、その人と秋の星の星空が好きな少女はニコニコと笑う。少女の笑顔にその人と秋の星もニコッと笑った。

「でもこれからは2人の夢じゃなくて、4人の夢になるといいなって思ってるの」
「4人?」
「そう4人。私と、秋の星。そして、あいまとあいまの星。ほら、4人でしょ?」

ーーーーーーーーーー
ーーーーーー

「ーーーま?」
「……」
「あいま!!」
「! あ、どうしたの。秋の星?」
「どうしたの?はこっちのセリフさ。急にぼーっとしてどうしたのさ」

秋の星は呆れたように言った。あいまは辺りを見渡す。この星飼いの街では星をあらゆるモチーフのランタンで飼う。飼う星は己の相性で選んだり、自分の欲しい力を持つ星を買ったり、代々受け継がれたり…様々な経緯から人々は星と出会う。
あいまと秋の星は、ちょうどとある星歌いが星と出会うその瞬間に立ち会っていた。

「そういえばさ」
「なんだい?」
「僕らって結構刺激的な出会いをしたよね」
「?」
「あの子を見てふと思い出したんだよ。目を覚ましたら泣きながら僕を抱えてたキミがいて。僕がキミをあやしてあげたら、笑ったよね」
「……そうだったかな」

あいまは少し遅れて返事をすると、空を見上げた。

「ねぇ、秋の星」
「なぁに?」
「キミは僕と旅をする前の事、覚えているのかい…?」
「どういう意味?」
「そうだな…例えば、キミは別の人の星だったとか…」
「ん? それは変だよ。だって僕は目を覚まして以来、あいまの側にしかいなかったもの」
「……そうか、そうだよね」
「もー、冗談はやめてよね。僕だって少しくらいはびっくりするよ」
「ごめんごめん。そろそろ行こうか。最果てはまだ遠い」
「そうだね。今日星空を作る所も探さないとね」

杖につけた王冠のモチーフのランタンがカランと揺れる。
星使いと秋の星。二人は今日も星空を作る旅を続けるのだった。


end

なぜ、この星使いが旅をしているのか、について考えてみました。

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