ポスト人間中心時代の暮らし、空間作り、アーバンデザインに挑戦する4ヶ月"GIVE SPACE"実践者コミュニティプログラム#1 レポート
あいだラボメンバの中村安里です!
今回は「ポスト人間中心時代の暮らし、空間作り、アーバンデザインに挑戦する4ヶ月 GIVE SPACE 実践者コミュニティプログラム」の第一回に参加して感じたことや学んだこと、自分の変化を執筆したいと思います。
参加した経緯〜自然は誰のものでもないということ〜
今回のコミュニティプログラムに参加したきっかけとして、沖縄を旅した際に感じたことがあります。
私自身沖縄を旅した際に、「自然は誰のものでもない」という感情を強く感じました。
畑仕事や沖縄の大自然の中を歩く中で、植物は虫に棲家を与え土壌を豊かに保ち、周りの植物と共に生きながら、動物や人間の食糧となり、酸素と二酸化炭素の循環を、窒素の循環を担い、エネルギーの循環を担っていく。人には何ができるだろうか?と感じたのです。
生まれて死んでいくこのひと続きのいのちを巡って生じてくる数々の奇跡的な美しさと、そして同時に生じている歪みや争いがありますが、そこには何かに所有されたり、何かを所有することで、その所有物を巡って争っていることがあると思います。国家間の争いもその例です。人もきっと誰のものでもないのだから、所有を手放し、憎しみや争いを手放していく、放棄していく必要性があると感じたのです。
この沖縄での気づきが、今回なほさんが伝えてくださる、GIVE SPACE スペースを与えること、人間が独占していた生息域を返していくこと、そして人々ががんじがらめになっている社会的アイデンティティ や恐れを手放していくことにつながってくると感じ、今回の会に参加させていただきました。
ストーリーテリング〜人間という動物、地球の中で生きる同じ生きものとしての人間〜
なほさんは、エコロジカルアーティストの探求を現在していますが、元々は人間という動物の探求を12年間行なってきたそうです。「人間という動物が他の生きものとの関係性において、エコシステムで果たすべき役割はなんだろう?」という問いの元、探究し続けてきました。そのプロセスの中で、日本からベルリンに移住し現在はベルリンに住んでいます。
それでは、なほさんが度々使っている人間という動物とはどのような意味でしょうか?
動物というと野性的で野心的で生肉を食べる本能的、野蛮という印象を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、なほさんはそういう使い方をしているのではなく、人間という種が科学的な分類学で見ても動物の一種であると捉えています。だから数学をすることも本を読むことも会社組織を作ることも彼女からすれば人間らしいのです。
私たちの社会は他の生きものたちの社会と切り離された中で、私たちが作り上げた幻想によってここ数百年間、社会経済政治システムを構築しながら文明を発展させてきました。その中で地球環境にあるいは人間社会に綻びが生じているのが現代文明です。
なほさんは、人間の方が、能力が高いとか偉いとかではなく、他の生きものが何かの役割を果たして死んで生きているように、人間も他の生きものと同じ立場にあることを理解して行動している生物のことを人間という動物だと定義します。
そして人間という動物にとって大切になってくるキーワードが今回の主題でもある「GIVE SPACE」です。
なほさんは、アフリカのサバンナでライオンの保護活動の経験があり、その経験の中で、“スペース”という言葉を強く意識するようになり、人間という動物の役割は他の生き物たちに土地を返していくこと、生息地を守っていくことだと考えるようになりました。
なぜ彼女がそのように感じたかというと、ライオンたちを保護する保護エリアではフェンス越しにライオンたちは生きて育っているのですが、フェンス越しにライオンの周りにいる人々が、ライオンが嫌がっているにも関わらず、そのことに気づけないことがショッキングだったそうです。
「他の動物は種を超えてコミュニケーションをとっていますが、人間だけがメッセージを受け取れず、受け取れないから開墾などをして他の生き物の生息地を奪ってしまう。」と、なほさんはその時に考えました。
このことが契機となって今の「GIVE SPACE」の活動が始まりました。
「GIVE SPACE」 は、建造環境の作り方を物理的に変えることで他の生き物に生息地を返すだけでなく、人間同士が日々のコミュニケーションを通じて、メンタルや感情の間(スペース)を譲り合うことを学び、さらに一人一人の内にある己とつながるスペースを培う技を身につけることによって、当たり前に享受してしまっている周りの環境の重要さに気づき、慈愛を育めるようになることをねらいとしています。物理的なスペースだけでなく、内的な精神的なスペースも扱うことから全体的で包括的なアプローチになり内的外的統合が生じてきます。
GIVE SPACEの目的〜自分のいのちを感じられることで、他のスピリットを感じられる ”ガイア“と”GIVE SPACE”が交差するとき〜
GIVE SPACE の目的は、人間の生息域と自然の生息域が融合していくこと、そして、これまで占拠してきた場所を他の生き物たちに返していくことで、人間以外の生存域を拡大拡張していくことです。
下の図の右側の半円が、人間の生息域で左側の半円が他の生きものの生息域で、この二つの半円が地球儀のように癒合していくのが図のイメージです。
GIVE SPACEでは他の生きものたちのwell-beingを考えてエコシステム、地球環境システムの一部であるように都市や経済システムや日々の暮らしをアレンジしていきます。そうすることによって、水も空気も綺麗になり私たちのwell-beingも豊かになっていくのです。
また後ほど説明しますが、GIVE SPACE ではphysicalなスペースだけではなくemotionalなスペースも扱うため、人間同士のコミュニティーを形成していくことも考慮します。
そして、GIVE SPACE を達成するために必要なのが、マインドセット、知識、スキルになってきます。ここでのマインドセットは、なほさんにとっては、“人間という動物“ですが、個々人で自由に決めていくことができます。人間という動物は、二つのタイプの恐れを持っています。一つが本能的なもの、二つ目が文明的なものです。この文明化された恐れ、こうしないといけないと信じ込んでいるものを、一つ一つ手放していくこと。生きるためにその恐れは本当に必要なのか問い直すことを、なほさんは大切にしています。
知識、スキルに関しては、後ほど5つの知識とスキルを紹介していきます。
そして大切になっていくのが、コアな部分、真ん中のグレーにあたるところで、コアなるエネルギーの源です。
ここは、自分という生き物を感じられる力であり、自分がいのちなんだと感じられる力でもあります。いのちだということを具体的に体感できる瞬間が日常にあると、他の生き物も生きていって死んでいっていることがどこに住んでいても気づくことができ、自分のいのちを感じられることで、他のスピリットを感じられるようになります。これが「GIVE SPACE」で考えるスピリチュアリティーです。
私の感想として、地球という大きなスペースの中で様々な生きものがともに生きていく際に、”奪い合い”から”分かち合い”へマインドセットが変化していくことが面白いと思います。なぜそのように言えるかというと、自分がいのちで他の生きものもいのちであると感じとった瞬間に、いのちといのちは互いに繋がり合う中で生かしあうことでこの地球という大きな生命体を生かしているのではないかと思うからです。”ガイア”という考え方もありますが、ガイアの考え方とGIVE SPACEの考え方は共鳴する部分があるように感じます。
いのちが互いに生かしあって支えていること、皆がつながっていのちは生きていることに気づけば、そのいのちに対して暴力的なことができなくなるし、そのいのちを傷つけることをしなくなるように思えます。こうした気づきと気づきに伴う具体的実践が、生きものとしての人間(私はマインドセットの部分で、生きものとしての人間と定義するとしっくりきたのでこの言葉を使っています。)に託された使命ではないかと感じました。
GIVE SPACEの4つの領域〜全てを感じ取ることができる人間の心身を生かして、他の生きものと共により善く生きていくには〜
GIVE SPACE にはフィジカル、メンタル、エモーショナル、スピリチュアルの4つのスペースがあります。
フィジカルなスペースでは他の生きものたちの生息域を具体的に増やすことが目的となり、今まで数が減ってきた虫の数が増えるとか、何十年も見られなかった鳥の種が増えてきたりすることが考えられます。
メンタルスペースは頭の中で作り出すものであり、組織や会社、コミュニティー教育もメンタルな部分に入ります。
エモーショナルスペースでは感情と感覚双方がつながった形で現れてきます。例えばドキドキするワクワクするというのは、感情であるとともに、身体の中の感覚でもあるのです。
またメンタルとエモーショナルの間に意思決定やコミュニケーションは入ってきます。ロジカルと感情は分離しておらず、感情もロジカルな意思決定をする際に必要であることが脳科学でもわかってきています。
スピリチュアルスペースでは、いのちの感覚、他の生き物が生きていることも感じられる力が大切になってきます。
そしてこの4つのスペースからのフィードバック全てを全部感じられるのが私たちの心身なのです。
私自身、日々ボディーワークを通じて人の心身に向き合ったり、エネルギーを介して、自然環境とつながる経験を日常的にしています。その際に、いのちといのちの関わりを大切にしています。他のいきもののいのちに向き合うのは旅そのものであり、そこに予め決めた設計図や計画はありません。純粋な他者への生きものへの想いが私たちのいのちの旅路をより面白くそして愛情で溢れた旅路へと誘っていきます。一方で、単にエモーショナルやスピリチュアルの領域だけでなく、生きものと対話をする中であるいは、科学的な洞察をすることによって自分が気付けなかったことに気づかされることもあると思います。大切なのは人間という生きものは、この全てを全身で味わい、他の生きものと共により善く生きていく道筋を発見することができる能力を備えていると個人的な確信として日々感じています。
GIVE SPACEの5つの知識とスキル〜GIVE SPACE を具体的な実践に移していくために〜
GIVE SPACE の4つのスペースを扱うために5つの知識とスキルがあります。
1.リジェネラティブ思考、2.バイオフィリックデザイン、3.コミュニケーションプロセスデザイン、4.エコロジカルアート、5.明晰性の訓練の5つです。
1.リジェネラティブ思考は自然生態系から学ぶ姿勢であり、生態系のシステムにあったデザインを考えていきます。また害を増やすのではなく、益を循環させるという考え方が従来のサステナビリティーの考え方とは異なっています。また自分のプロジェクトを生物域まで広げて考えていくことも大切な視点です。
2.バイオフィリックデザインは、エーリッヒ・フロムによって作られた、バイオフィリア、「いのちと生きているすべてのものへの愛」をベースにしており、社会生物学者のウィルソンはさらに、このバイオフィリア(いのちと生きているすべてのものへの愛)を人間は生存本能として持っていると述べています。バイオフィリックデザインではこのバイオフィリアの考えを軸にしながら、土地への愛を育んでいきます。
3.コミュニケーションプロセスデザインでは、組織心理学の方法論をベースとしており、自分自身がどういう状態なのか気づいていることによって、メンタルスペースを他者と共有することができます。マインドフルネスな傾聴を促し、無視されやすい地域の人を初期段階からインクルージョンしていきます。
4.エコロジカルアートでは、自分の物語を見つけることと、土地の物語を見つけることを大切にしています。私がどうしたいのかというパーソナルな物語と、土地の科学的な事実を含めた物語が癒合していくことを目指しています。また、自然発生的創造性を大切にしており、自分の目的やアチーブメントドリブンの行動を抑えて、隙間から出てくる愛やパッと思いつく創造性を大切にしています。
5.明晰性の訓練では、うちなるスペースの広がりとつながること、今自分がいるところに気づくことでバイオフィリアを育んでいきます。そうすることで、他の生き物のスペースにつながっていくことができるのです。
まとめ
今回の、なほさんのお話から驚かされたのは、とても包括的で全体的な方法論を提示していただけたことです。しばしば自然に関する活動をするときに人間の活動が置いてきぼりになっていたり、あるいは直観を重視するあまり、丁寧な調査を怠ってしまったりあるいは、逆に環境問題に関するアプローチとして、フィジカルな成果ばかり重視され、生きている感覚に気づくことができず、一人一人の生が置いてきぼりになることがあると思います。
今回、なほさんが紹介してくださった方法論は、個人-コミュニティー-全ての生きもの-生態系全体を繋いでいく方法論であり、フィジカル、メンタル、エモーショナル、スピリチュアル全ての人間の心身の能力を最大限に生かしながら、他の生きものや生態系全体に対する愛と益を循環していくシステムを構築していくことができる方法論だと感じました。
私自身、何かに偏ったり、夢中になることで、何かが欠落してしまうことが度々あるので、このように視覚化して整理することによって、内と外、人と自然が互いに行き来しながら面白いプロジェクトを実行していけると思いました。今後のチームの皆さんとの旅路が楽しみで仕方がありません!!!
次回は、課題を通じてわたしのスペースプロフィールを作成していきます。かなりしっかりとした課題が出て、参加者のみなさんも気合が入ってきたようです!!今回の課題は、「土地の科学的な事実を含めた物語」を実際に現地に行ったり、あるいはインターネットで調べながら自分のスペースをより深く知り理解していく課題になっています。
次回の会で、参加者の皆様のスペースプロフィールとバイオフィリアに基づく土地への愛に出会えることを楽しみにしています!
さいごに・・・
私たちの旅路にはいつも課題がありますが同時に私たちが協力しあって学ぶことで、創造力を働かせることで、愛を育んでいくことで旅路は、困難故に豊かで実りあるものとなるでしょう。
「Our journey will always have its challenges, but at the same time, as we work together to learn, as we exercise our creativity, and as we nurture love, the journey will be rich and fruitful, despite the challenges!!」
Asato Nakamura
▼井口奈保さんのインタビュー記事はこちら
執筆編集 / 中村安里