何者でもない私が事実婚を選択した理由
2018年11月、私は事実婚で結婚した。
周囲に結婚の報告をすると、多くの人はだいたいこう言った。
「おめでとう! もう入籍したの?」
「おめでとう! 苗字は何になるの?」
そして、私は決まってこう返す。
「いや、入籍はしないし苗字も変わらないよ」
そうなると相手もさらに決まって「どういうこと?」という反応になる。
「あ、事実婚ですか!」と言ってくれるのは、ちょっと結婚に対して意識が高い人が周りに多い私でも3分の1もいないのだ。
事実婚を選択する人の多くの目的は、夫婦別姓だと思う。
現在、夫婦別姓が認められていない日本では、夫婦が苗字を別々にしたい場合、事実婚を選択するしかないからだ。
ついこのあいだ、サイボウズの青野さんが夫婦別姓を選択できないことは違憲だと提訴していたが、現行の法律では違憲ではないとのことから敗訴してしまった(めっちゃショックだったが、最高裁まで戦ってくれるそうなのでそれまでに国会で話し合いがきちんと行われて欲しい)。
そんな状況なので、夫婦別姓を希望する私達夫婦は、事実婚を選択することになったのだ。
ところで、事実婚を希望する人の声でよく聞くのは、女性側が医者や士業、経営者なので苗字を変えることが不利益になるというものだ。
医者であれば今まで書いた論文などもあるだろうし、経営者であれば登記しているものを全部書き換えなくちゃならない。途方もなく大変だと猿でもわかる。
しかし、我が家の場合は夫も私もただの会社員だし、論文を出したこともなければ起業もしていない。
それなのに、いや、それでも私は夫婦別姓にしたかった。
これを「わがまま」だとか「苗字変えるほど夫のこと好きってわけじゃないんだ」とか「外国人と結婚すればいい」とか言う人もいるかもしれないけれど、そんなことはどうでもいいので、私が事実婚にした理由をちゃんと残しておこうと思う。
※全て青野さんの敗訴ニュースに書かれていたリアルなコメントです
否定された 理想の私
今の夫と付き合う前に付き合っていた人がいた。そう、元彼である。
元彼はいわゆる「お坊っちゃん」かつ高学歴・高収入。
パパは社会的立場とお金があり、ママは専業主婦だった。
そんなご両親の元で育った彼は、よく言えば素直。悪く言えば親にとってのいい子だった。
彼と結婚したかった私は、もともとは育児は2人で行い、結婚しても仕事は続けたいという志向だったのに、彼の「結婚したあとはなるべく家にいて欲しい」「子育ては任せたい」「うちの親は絶対干渉してくる」という望みを叶えてでも一緒にいたいと思うようになった。
そうして、彼と付き合って2年が経とうかというころ、彼にひどい嘘をつかれていたことが発覚した上に、彼の親が「おまえみたいな女はうちの息子には合わない」と言っているということを彼伝いに聞かされたのだ。
絶望し、泣きながら別れた。
彼が好きだったから、彼に自分を合わせて、尽くしていこうと思ったのに、その結果はひどい否定だった。
それでも誰かと結婚したい気持ちは消えない。むしろ前より強くなり、婚活をすることになる。
その中で、結婚や自分、結婚後の生活などいろんなことを考えた結果、法律婚で夫婦別姓が選べないのであれば事実婚がいいと思うようになった。
なぜ夫婦別姓なのか
とてつもなく引っ張ってしまって恐縮だけれど、ここからが本題だ。
夫婦となる人の多くは、女性が男性側の苗字に名前を変える。
別に逆だからといって、当事者にとってなにか損が増えるわけでもなんでもない。慣習だからそうするのだ。
当然苗字を変えれば、いろんなものの名前を書き換えなくてはいけない。
パスポート、住民票、免許証、カード会社や保険、当然会社関係のものも名前の変更が必要だし、これ以外にもきっとまだまだ名前変更しなければいけないものがあるだろう。
だけど、これを変えるのは、まぁ頑張れば有給を1日費やせば済む話だ。
だけど、これは「妻」となるための社会的な儀式だと私は思った。
妻として夫を支え、尽くし、食事や色んな面でサポートし、部屋を片付け、子育てを一手に担い、夫側の家族ともなにか揉めても妻が折れる。
そういう姿勢を夫は求めないかもしれない。
だけど、これまで私が受けてきた「女」としての求められる姿以上に、「妻」となった人たちが夫や社会に求められることが大きいことを私は知っている。そして、求められた姿に合わせてしまうだろう、弱い自分も知っているのだ。
結婚する。ただそれだけなのに、苗字を変えて彼の所有物みたいになりたくなかった。
だから、夫婦生活のスタートを切るとき、私達は嫁でも婿でもない夫婦という対等なパートナーシップで結ばれている、ということを自分自身にしっかりと刷り込むために、夫婦別姓を、事実婚を選択したのだ。
ここまで書いたことを、考え過ぎだと思われるかもしれない。
だけど、こんな考えから事実婚を選択する人もいるんだよと、結婚に違和感を少しでも持つ人に伝わったら、私がこの文章を書いた意味は十分にあると思っている。
そして、これだけは言わせて欲しい。
名前は誰にとっても大切なもの。はやくあらゆる人が、自分の望む名前で結婚ができるようになりますように。
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